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時刻は朝の八時ちょうど。
住宅街の道を、僕は胸を張り腕を振って歩く。堂々と。男らしく。恥ずかしくないように。そう見えるように意識をして。
気持ちの良い朝だ。新品の高校の制服。新品の学生鞄。
歩きながら、ブレザーの胸ポケットに手を入れ、新品の生徒手帳を取り出す。改めて確認。恩田承一。僕の名前がしっかりと書いてある。
「よし。問題ない」
今日は高校の入学式。新しい生活が始まる大切な日だ。青春をどう輝かせるかが、今日という日をどう迎えるかで決まるのだ。
高校へは歩いて通える。
今は八時ちょうど。入学式は九時からだが、八時半に集合、説明があるという。
どんな連中がいるのだろう。どんな友達と出会えるのだろう。そして、どんな素敵な女の子と巡り合えるのだろう。緊張と興奮、そしてときめきで胸が高鳴る。
落ち着け。おどおどしては駄目だ。余裕を持って、にこやかに、頼りがいのある男に見せなくては。
生徒手帳をしまい、その手で今度は前髪をいじる。家を出る直前まで鏡の前でねばったけど、歩いている間にそうとう乱れてしまっている。だがまあ、そのぐらい自然な方が良いかな?
髪型も服装も、朝から父さんに厳しくチェックされた。ネクタイの締め方も春休みの間に特訓された。
――「バッチリだ。どこに出しても恥ずかしくない。死んだ母さんに見せてやりたいぞ」
その言葉がくすぐったかった。
――「分かってるな。恥ずかしくない生き方をしろよ。男にとって大切なのはそれだけだ。そうすりゃお前に相応しい相手と出会える。良い娘でも出来たら、俺にも紹介してくれよ」
そう父さんは言っていた。
「恥ずかしくない生き方、か」
それが父さんの教えだ。
自分の頬を打ち、気合いを入れる。分かってるよ、父さん。
そんな父さんだけど、今日は仕事で忙しいから式には出席出来ない。父さんは、警視庁の組織犯罪対策課の刑事なんだ。確か第六課だと言っていた。強面の父さんにぴったりの仕事だ。
二年前に母さんが亡くなってから男手一つで僕を育ててくれた、厳しいけど尊敬できる父親だ。
そんな父さんに教育されて、僕も自分に厳しい男になった、はず。とにかく情けない真似をして父さんに恥をかかせたくないからね。
反抗期もなくはなかったけど、グレるなんてみっともない事はしなかった。別に優等生になりたいわけじゃないけど、一人の男として一人前にならないと、父さんと死んだ母さんに申し訳ないからね。