2-1
●2-1
高校の入学式を逃げ出した僕ら二人は、どうしていいか分からず、とりあえず朝の公園まで戻ってきた。公園の「設置し直された」ブランコに並んで座る。
ヤミノは黒い水着みたいな服しか着ていなかったので、僕の学生服のブレザーを貸してやった。だって、目のやり場に困るんだもん! 直視して良いの? 見たら見たで見てるって言われても困るし。
それに、昼間からそんな水着もどき姿の女の子と一緒に公園にいたら、人からどう思われるか……。これ以上恥ずかしい思いをしたくないもの。
……恥ずかしい。緊縛。恥ずかしくない生き方を心掛けている僕が! なんであんな恥ずかしい目に合わないといけないのだ!
「はあ~。まいったまいった」
ブランコをキイキイ漕ぎながらヤミノが言う。
「まいったまいったってお前が言うな! いったいどうするんだよー! 入学式だったんだぞ!? お前のせいで僕の高校デビューが台無しだよ!」
「アタシのせい!? あの女神が変な呪いをかけたせいでしょ!?」
「それはそもそもお前がワルだから、悪い事をしない為に安全装置として首輪を付けたんだろ!」
「悪い事なんてするはずないじゃん! そうやって偉そうな奴は何でもかんでも決めつけるんだ。だから子供はグレる」
「やろうとしてたじゃないかよ! 物騒な兵器で撃とうとしてたじゃないか! バカ!」
「アタシをバカ呼ばわりとは許せないわね! 何が入学よ。あんな人間家畜工場に入ったところで何を学ぶっての?」
「なんだと!」
「アタシはね、魔導兵器を召喚し操る為に、アンタが想像も出来ない程に学んで学んで学び抜いてきたのよ! いくつの滅びた古代語を会得したと思ってんの。アンタ外国の言葉は何か国語話せる? ハ! 無理でしょ? じゃあ物理は? 数学は? こっちの世界の学問とは違うだろうけどね、アタシは宇宙魔導物理学に純粋魔導数学、魔導化け学に魔導家庭科学と、超一流の学問を修めてきたのよ。全ては魔導兵器の使い手になる為にね! そこらのガリ勉が裸足で鼻血出しながら逃げ出す程の努力を、アタシはしてきたのよ! そんなアタシに、バカだってえ!?」
ばっと右手を空に掲げる。
「魔導兵器スティンガ!」
またも空中に出現した無数の謎物質が組み合わさり……、完成したのは銃身の太いライフルのような物だった。これまでに出した、大剣のガルウ・ファングや多銃身のメタリア・ティアズやらと比べるとずっと小さいが、それでもあんなので撃たれたら一たまりもないだろう。撃たれたら、だが。
「お前、何やってんの……」
魔導兵器の銃口が、僕の頭、腹、太ももの辺りへと移っていく。
「くくく、ビビッてやがるなあ? アタシはね、魔導兵器を顕現させる為の呪式、つまり完璧な方程式が頭の中に入ってんのよ。部品の召喚とそれの組み立ての為の合成式がね。その脳内呪式に脳内魔力をびゅびゅっと流し込みゃあ、はい、この通りってなもんよ! すごい! 早い! かっこいい!」
「わ、分かった、分かったから!」
「アンタのような下等なノウタリンにゃあ、言って聞かせるよりも撃って諭すのが一番てね! 安心しな。威力は落としてやるから。足が吹き飛ばない程度にね!」
ヤミノは躊躇せず、人差し指を、バキュン、とばかりに引き絞る!
「やっぱりバカー!」
直後――。僕ら二人とも、瞬時に縛られていた。案の定、ってやつだ。
「一生懸命勉強してなんか凄い方程式を作ったってのは分かったけどさ……、こう反射的に発動させちゃってさ……、お前、やっぱりバカだよ……」
「ぐぬぬ……あ、あん」
揃って縛られ、転がる僕ら。だけど亀甲縛りではなかった。もっと簡単な縛り方だ。これまでと同じく赤い縄だけど、縛り方があまりきつくない。痛くはない、けど動けない。
「もしかして、威力の小さい兵器だと、緊縛もソフトなのかな? ぶっ放す魔力量と関係しているのか?」
と寝転んだまま呟くヤミノ。
「まあ、結局ぶっ放せてないんだけど」
どうでもいいです、そんな事は。