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そんな状態が、十分も続いていただろうか。いや、五分かな? もしかして一分足らずだったのかも。全然分からない。僕にはえらく長い時間に感じていたから。
とにかく、不意に縄が体から解かれ、
「え? あた!」
「いてえ!」
僕らはどしゃっと壇上に落ちた。
「勝手に、緊縛が解けた?」
「それに、首輪も縄も消えちゃった」
そう言えば、公園でヤミノが投げ捨てた首輪と縄も、拾いに行ったが消え失せていた。無理矢理外さなくても一定時間が過ぎると解き放たれるのか?
「あ、お前の首に痣があるぞ。鍵穴のような形の。さっきまで首輪が嵌っていたところだ」
「そういうアンタもだぞ」
「え」
つまりこれが、聖縛縄を架されているという印なのか。なんてこった。
「あ、あのお……」
すぐ横で、校長先生が呟く。
「祝辞の途中だったんだけど……」
校長は上目遣いで僕らを見て、それから体育館を見渡す。体育館は、悲鳴とどよめきのカウンターのように、静まり返っていた。
「あー、えーと」
僕は立ち上がり、ヤミノを引っ張って立たせた。それから校長先生を丁寧に起こし、背広をはたいてあげる。
全校生徒と先生達と保護者。皆が僕ら二人を見ていた。
僕は演台に向かい、マイクをトンと軽く叩いてから、
「以上です。ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀。
「では、引き続き校長先生のお話をお聞き下さい」
校長の袖を引き、マイクの前に案内する。続いて、ぼんやりとしているヤミノの手を取り、静かに階段を降りた。生徒達の間にある道を、静々と歩く。つとめて走らないようにした。
僕らには、誰も、何も言わなかった。ただ、あちこちから、嗚咽と、「大丈夫、大丈夫だからね」と囁き合う声だけがしていた。出口を抜けた頃、校長先生の、「えー」という声とともに、ピガーっとハウリングが一つ聞こえた。
終わった。終わったのだ。明るく楽しい高校生活を送るという、ささやかな願いが。




