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教室の朝  作者: 佐伯 結
7/9

 気付けば、吐く息が白くなっていた。

 相変わらず秋輝は朝の教室には来なかった。


「うぅ~寒いっ。朝礼とかさ、もう校庭じゃなくて校内放送でやってくれないかなー」

紗季がぴったりくっついてくる。

「せめて、校長の話を半分以下にしてくれたらなーまじで」

相変わらず、絵麻は紗季と翔真とよく一緒に過ごしていた。紗季があのことを知っているのかはわからない。だが、今まで通りの関係を保っていられることは本当に有難かった。


「次は、表彰です。一年三組、成瀬秋輝くん。前へ」


 同じクラスの面々がざわっとする中、絵麻は一瞬時が止まったように思った。


「表彰状。右は、第51回、県の中学生絵画コンクールに於いて、優秀な作品を創作されました。その栄誉を讃え、ここに大賞として表彰いたします」

秋輝が朝礼台に上がり、校長先生から賞状を受け取る。

「成瀬くんの作品は、今週末まで市立美術館に展示され、そのあとは県立美術館へ移送されることになっています。皆さんも、是非観に行ってみてください」

と校長が締め、この日の朝礼は終わった。


(そっか、絵は描き続けてたんだ・・・。やっぱり秋輝は、凄いなぁ)



 朝礼での表彰を聞いた日から6日。

絵麻は開館時間よりも早く美術館へ到着してしまった。あれから絵麻は早く、早く週末になれ、と毎日もどかしく過ごしていた。その間ももちろん早朝に来ていたし、秋輝が来ないのも相変わらずだった。


(去年お母さんと来た時は、1年後にこんなことになってるなんて、想像もしていなかったな・・・)


 東の低い空から指す太陽の光に目を細めながら、落ち葉のカサカサ鳴る音を聴いていると、ようやく扉が開いた。

 美術館のひんやりした空気を感じながら、音を立てないよう早足で目的の展示へ向かう。大賞の作品は、奥の方の、かつ一番目立つ場所に飾ってあった。


 それを捉えた瞬間、まさにその一点以外の絵麻の視界全体は、霞がかかったようにぼやけ、他には何も見えなくなった。



朝日の差し込む教室の中で、屈託のない笑顔をこちらに向けている一人の女生徒。

絵のタイトルは、――「輝きの朝」。



 柔らかい朝の光が繊細なタッチで描かれ、その優しい眩しさがこちらまで伝わってくる。そして、この絵の描き手が、この瞬間をいかにいとおしく思っているか理解せざるを得ないような、そんな力強さも湛えていた。


「秋輝・・・どうして・・・・・・」


 どのくらいその場に立ち尽くしていたのだろう。ざわざわと他の観覧客が入ってきた音が聞こえ、絵麻は美術館を後にした。


(今すぐ、秋輝に、会いたいーー)


 そう思ったが、秋輝の連絡先も知らなければ、住所だってもちろん知らない。今日は日曜だから部活も全て休みであるし、為す術がなかった。


「私って、秋輝のこと、なんにも知らないんだなぁ」


 小さく呟いたその言葉は、木枯らしにかき消された。



ーー秋輝、どうして。私のこと、嫌いになったんじゃなかったの。

ーー秋輝、どうして。あの空間に私がいて、良かったの。

ーー秋輝、秋輝、秋輝。会いたいよ。話したいよ。


あなたに、伝えたいことがーーーー




次の月曜日の朝。

いつもいたあの席に、秋輝はいた。

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