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教室の朝  作者: 佐伯 結
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 翔真に告白された次の日も、絵麻はいつも通りの時間に教室に来た。

だが、期待していた秋輝の姿は、そこにはなかった。絵麻の心がズキン、と痛む。待っていたが、秋輝は始業時間ギリギリまで教室へ入ってこなかった。


 その次の日も、またその次の日も、同じだった。

 これまで通り、日中は秋輝はこちらの方を向きもしないし、話しかけることができなかった。


 美術の授業が始まる前に、掲示してある教室の絵をもう一度眺める。相変わらずそこには、美しい朝の光さす教室の姿があった。


(あの時間を楽しみにしていたのは、私だけだったのかな。

 あの日、翔真に呼び出された時の会話、たぶん聞いてたよね。もしかしたらずっと迷惑だと思ってて、ちょうどよく切るいいきっかけだと思ったのかも・・・)


授業が始まってからも、絵麻の心はそのことしか考えられなかった。


(昔は、朝の一人の教室が好きだったのに、今は全然、楽しいと思えない。それに、私は秋輝から、彼が好きだと言っていたあの時間までも、奪ってしまったんだろうか。私が、邪魔したから――)


「・・・ッ!」

急に左の指先に痛みを感じ、見ると血がぶわっと出てきたところだった。

紗季が気付いて、叫ぶ。

「ちょっと絵麻!めっちゃ血出てる!せんせーっ朝霞さんが彫刻刀で指切っちゃいましたー!」


クラスの皆が一斉にこちらを向く中、美術教師が寄ってきて、傷を確かめる。

「ちょっと深いな。保健室に行って、手当してもらってきなさい。保健委員、一人付き添って」


すると、秋輝がすっと立って、近づいてきた。

絵麻はどんな顔をしていいかわからず、下を向いて指を押さえた。


「朝霞さん、行こう。今日、女子の保健委員休みだから、俺が行く」


「はい皆、作業に戻ってー。版画を掘る時は、よそ見したり考え事したりしないで指先に集中すること!」

と教師の通る声を聞きながら、絵麻は秋輝についていく形で教室を出た。


そのままお互いに無言で保健室に向かい、手当してもらってようやく落ち着くことができた。

美術室へ戻る途中も、秋輝は絵麻の隣ではなく、少し前を歩いた。


――このままは、いやだ。

絵麻は勇気を振り絞って、秋輝を呼び止めた。


「待って、秋輝。朝、どうして、来ないの?」

秋輝は立ち止まり、振り返らずに答えた。

「・・・あの日、久保に告白でもされたんでしょ?邪魔しちゃ悪いかなって」

「・・・そうだけど、告白は、断ったよ」

ようやく、秋輝がこちらを向いてくれた。

「なんで。仲良かったじゃん」

「翔真は、友達だもん。それより、私、秋輝と話せない今が苦しいよ。秋輝と・・・前みたいに話したいよ。また絵、見せてよ」


秋輝は苦しそうに顔を歪ませたかと思うと、くるりと背を向け、再び歩き出した。


「私、さ・・・今も毎朝、教室に来てるから」

絵麻は絞り出すように、どうにか声に出した。


そのあとは二人とも一言も発さず、美術室へ戻った。

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