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あいつはホームズ~小さな小さなカレー事件~

作者: 一葉音羽

 健康な中学生にとって、お昼の給食というものがどれだけ大切か分かってくれる人は多いだろう。それだけを楽しみにして学校にいっていた人だっていたはずだ。

 それは、ぼく――元気な中学一年生の、中村良太<なかむらりょうた>も同じことだった。毎日四時間目になると、下の調理室からただよってくるとてもいい匂いのせいで、グーグー鳴るおなかとよだれを我慢するのに必死なのだ。そして本格的に寒くなってきた時期だからこそ、温かいカレーが出る今日の学校が楽しみだった。

 浮足立って、数学の時間中に話を聞いてないと怒られたりしたが、そんなことは問題ではなかった。ぼくは昼のチャイムが鳴ると同時に、朝、母親から言われた手洗いうがいのために飛び出していった。

 

 しかし給食の準備時間中――

 

 僕が手洗い場で用を足して教室に戻ってくると、事件は起きていた。

 なんと、カレーを入れていた容器(大きなブリキバケツのようなもの)が教室の中でさかさまにひっくり返っていたのだ。まだ湯気のたっているカレーは、黒板の近くで茶色い絵具をぶちまけたみたいに飛び散っていた。

 なんてことだ……。

 みんながぎゃんぎゃん文句を言っているその真ん中には、とても申し訳なさそうに立ちすくんでいる、クラスメートの大木直人<おおきなおと>がいた。くりくりした目に坊主頭の直人は、小動物のリスを思わせる。

 こぼした原因はどうやら、給食を置く台にカレーの容器を載せる時、その近くに置いてある椅子につまずいてころんだから、らしい。見ると掲示板の下に置かれたその椅子にも、カレーが飛び散っていた。

「ご、ごめんよみんな……」

 矢継ぎ早に文句が飛んでくる中、今にも泣きだしそうな顔で頭を下げる直人。

 そして謝りながら、廊下にかけてある雑巾で、急いで床を拭き始めた。かわいそうになったぼくも、持っていた濡れタオルでそれを手伝う。

 しかし、給食が食べられなくなった中学生は、おなかをすかせたライオンより怖いことで有名だという。いつの間にか文句の矛先は、直人がつまずく原因になった椅子と、椅子をそこに置いて掲示板のプリントを張り替えていたクラスの問題児、赤羽健介<あかばけんすけ>に向けられた。

「なんであんな所に椅子を置いたんだよ!」

「今日はカレーだって知っていたでしょ!?」

 実に筋道の立っていない言葉で一方的に責められた健介は、机に頬杖をついたまま形のいい眉をひそめて、「なんでこうなるんだよ……」とつぶやいた。

 この健介、見た目はかなりかっこいいのだけれど、授業中は態度が悪くてよく先生に叱られている。遅刻もするし宿題もしない。健介はよく、「勉強なんかするのは頭の悪い奴だけだ」と、乱れた髪の毛をワシャワシャする。でも僕は最近、健介のテストにたくさんの赤いチェックマークを見てしまったので、その言葉を信じない。だからぼくは健介に対して、悪い子というイメージが強い。

 その悪い子が両手でみんなを制した。

「まあ待てよ。確かにおれがそこに椅子を置いたのは悪かったよ」

 猛攻を繰り広げていたクラスのみんなは、あまりにもあっけなく健介が自分の非を認めたのでかえって拍子抜けした。

 そんな周りの様子に構わず、健介が続ける。

「でも、なぜ直人がカレーをこぼしたかは、その原因でもある本人が一番知っているはずだぜ?」

「え? 原因は直人じゃないのかよ?」

 分かりづらいことを言う健介。

「このままじゃ、俺だけが悪人になるからな……」



 そう言って健介は、床に身をかがめてカレーを拭いているぼくを指差した。



「えーと……なんでぼくを指差すの?」

 とぼけた表情で聞き返すが、心臓の鼓動は早かった。

「お前が最初にカレーをこぼした犯人だからだ」

 犯人扱いされてしまったぼくは、あわてて健介に詰め寄る。

「犯人ってなんだよ! て言うか最初ってどういうことだよ」

 怒って顔を近づけて強い口調でたずねるぼく。周りの子たちも不思議そうにぼくら二人を見ている。

「分かった、説明する」

 そういって、健介はめんどくさそうな目線をクラス中に投げかけた。

「不思議に思ったんだ。なんでお前がカレーをこぼした直人に文句を言わなかったのか」

 そういって、『お前』のところでぼくを指差す。

「直人はちゃんと謝ってくれた。だから仕方ないと思ったんだ。」

 ぼくは直人のほうを見ながらそう言った。直人はうつむいている。

「じゃあなんでこぼれたカレーを拭くのを手伝ったんだ?」

「もちろん、一人じゃ大変だと思ったからだよ」

「なるほど」

 納得したように言うと、健介は立ち上がった。

「ほら、これでぼくが犯人じゃないのはわかっただろ?」

 問いかけるぼくに、少しだけ目つきが鋭くなった健介が答えた。

「いやお前の今の嘘で確証が得られた。順をおって話そう」

 難しい言葉を使い話し始める。ぼくの頬に冷や汗が流れた。


「まず、お前は手洗い場に手を洗いに行った。朝かなり寒かったから、母親にでも、風邪予防としてそうするよう言われてたんだろうな。みんなも見てただろう?」

 クラスの半数以上がうなずく。

 ……でも不思議だ。

「手洗いぐらいみんな行くはずだろ?」

 首を振る健介。

「こんな寒い日に給食当番でもないかぎり。そして、教室でやる算数の授業の後わざわざ手を洗いに行くのはお前だけだった」

 ……ずっと見ていたのかこいつ。

「そしてそのあと、早く教室に戻るため急いでいたお前と、給食当番の直人はぶつかったんだ。カレーがこぼれた一回目の現場だ」

 なんだか推理ドラマを見ている気分だ。ということは健介は探偵役か。そしてぼくは犯人役……。

「おそらくかなりの量だったんだろうな。廊下に広がるカレーを見て、あわてたお前たちは容器の中にそれを押し戻した。その後気付いたんだろ?これではこぼれなかった分も汚くて食べられないって」

「もしそうなら、正直に言えばいいじゃないか。隠したりしないで……」

 ぼくの反論はさえぎられる。

「見てただろ、さっきのクラスの反応。食べ物に関してはうるさいのがほとんどだ。だから食べられないことを納得させるために、直人――今度はお前がみんなの前でカレーをひっくり返した」

 直人は何も言わない。代わりにクラスの女子が聞いた。

「直人君は椅子につまづいたんじゃないの?」

「その椅子が倒れてない」

 鋭く健介が言い放った。

「誰かが起こしたのかも……それに転べばいいのならわざわざ容器を転がしたりする?」

 反論しようとする女子。しかし健介は動じなかった。

「カレーが飛び散っているから、その椅子にはだれも近づいていない。それに容器は転がってるんじゃない。逆さまになっているんだ。それに転ぶのが目的じゃないんだ。カレーを食べられなくするのが目的だったんだよ」

「証拠はあるのか?」

 今度はぼくの隣にいた男子が それこそ推理ドラマのようにたずねる。

 余裕の表情で健介はまわりを見回す。

「証拠はある。さっき良太は濡れタオルで床を拭いていたよな? あれは、廊下でカレーをこぼしたときにつかったものだ。廊下でカレーを拭いたのを誤魔化したかったのさ」

 それなら、洗えば落ちるじゃないかと誰かがつぶやいた。同意の意見が聞こえるなか健介は、

「色じゃない。匂いだ。カレーの匂いは特に強いからな」

 ぼくはぎくりとする。

「廊下で拭きとったカレー、靴の裏にもついてるんじゃないのか?」

「それならさっき直人のこぼしたカレーを拭いたときに踏んでしまって……」

 しどろもどろになるぼくに、

「おれが証拠だと言っているのは靴じゃない。手洗い場からこの教室まで続いている、お前たち二人のカレーの足跡だ」

 とどめの一言が刺された。

 

 ……降参だ。

 ぼくと直人はみんなに謝り、ちょうどその時入ってきた担任の笹下明彦先生<ささげあきひこ>にも事情を説明し頭を下げた。先生も給食を楽しみにしている一人だったので肩を落としていたが、怒らずに「とりあえず残りのおかずでご飯を食べよう」と、その優しさにまでいつの間にか涙ぐんでいたぼくと直人を落ち着かせてくれた。

 そして放課後、明日までに反省文十枚というぺルナティーを聞いたとき、ぼくらは違う涙を流した。やっぱり怒っていたみたいだ。



 帰り道。明日の給食は無事食べられるといいね。誰かがそう言ってみんなが笑った。

 はじめまして。一葉音羽と申します。

 未熟さあふれる「超」短編物。いかがだったでしょうか?

「小説家になろう」というサイトがあることを知ったのは最近でした。

 小説を読むことにも書くことにも興味のあった僕です。ただただ何も見ず書きなぐったような荒っぽいものになってしまいましたが、伏線の回収などはできていたでしょうか(笑)

 書いていて改めて、普段何気なく手に取っている本とその作家さんがたに感謝の念を覚えました。

 そして、この物語で楽しんでいただけたなら――そして、少しでも驚いていただけたなら光栄です。

 

 それにしても一回書き始めるとあれよあれよという間に、物語の中のキャラクターが好きになってしまいました。

 今度は「ぼく」を正義の味方にするか、またまた悪者にするか。またまたまた別のものを書くか。

 どっちに転んでもけがをするなら思いっきり転びたいと思います(笑)


 ではではまたいつかの物語でお会いしましょう。

 

 あでおす!

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