表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
因果邂逅のタタリクス  作者: 紅月蓮也
第一章「向こう岸より来たりて」
13/30

第十二話「“時戯の駆り手”-オベリスク-」

 気がつけば、桜子の周囲は元の部屋に戻っていた。

 時間は長かったと思ったが、現実世界では一分も経っていなかった。

 いなかったが、桜子の、潮を除く他の面々の頬は涙で濡れていた。

 

「この後、風花は間もなく奴隷商人に捕まり、東方大陸南部に送られます。ただ、輸送船が『ある事情』で転覆し、風花は奇跡的に助かり、そこでタイ捨流剣術に出会いますが…そこから先のことは、機会があれば本人に聞いてください」

「時詠様」

 桜子の桜色の瞳は、まだ涙に濡れている。

「なんでしょうか?」

「風花は、私に愛想を尽かしたのでしょうか?」

 桜子は座り込んだまま、昨日焼きそばを引っくり返したあたりに触れる。

「さて、それはわかりません。桜子が本人に聞くべきです」

「でも、私の言う事を、風花は聞いてくれますか?」

「桜子の言葉は、昨日の夜に私にいった風花の言葉そのままですよ」

「……どういうことですか?」

「昨日、焼きそばを買って帰った風花も、桜子が自分の言葉を聞いてくれるか心配していました。結局、自分で声をかけられず、私が呼びに行く事になりましたが」

「……私は、酷い事をしてしまった」

「確かにそうですが、桜子だけが悪いわけではありません。風花もどれだけ焼きそばが大切な食べ物か、誰にも伝えてはいません。行き違いはどうしようもないことです」

「しかし食べ物には罪は無い。私の引っくり返した焼きそばがあれば、涼さんと涼次さんは助かったかもしれない」

「あくまで過去の話です。そうやって自己批判を深めるのは悪い癖です」

「でも!」

 潮は首を振る。

「大切なのは、今をどうするかです。私は風花に嫌われるのも覚悟で、風花の過去をお見せしました。それが今を一番良くする方法だと確信しているからです。桜子は、風花にどうしてあげたのですか?」

「……それは……」

 桜子は考え込む。考えて考えて、そして一つの結論に至る。

「風花に、謝りたい。謝って、一緒に焼きそばを食べたい」

 潮はニッコリ笑った。

「素敵です。是非そうしましょう」

「決めた! 私は鶴を千羽折って渡す! 渡して謝って、焼きそばを一緒に食べる!」

 自慢の瞳に紅い焔を燃やし、力強い声で宣言する。

「その意気です。見たとおり風花は誰よりも優しい人です。必ず桜子を受け入れます」

 

「拒絶されてもいい。私は風花が心を開くまで鶴を折り続ける」

 

 その言葉に、潮はそれでこそ桜子だと思った。妹弟を亡くして十年が経ち、それなりに変節している風花が簡単に陥落するとは思ってはいないが、二人とも前に進み続ける限り、必ず道は交わると信じている。

「折り紙を、急いで探さないと」

「桜塚様、折り紙でしたら私が大量に持っています」

 クレハが声をかけてきた。

「知ってのとおり、私どもガーベラ族は和紙の生産が生業です。色とりどりの折り紙を送ってもらっているので、綺麗な千羽鶴が出来ます。勿論、私も手伝わせていただきます」

 

 クレハとカエデは『ガーベラ族』と呼ばれる亜人種である。

 ガーベラ族は約七百年前に東方界廊が開門した際に現れた“霧鐘の巨人”を追ってきた、通称“黄金樹の一族”であり、彼女達の活躍によって“霧鐘の巨人”を倒したと言っても過言ではない。

 いわば東方大陸にとって命の恩人である。

 そのために東方大陸ではガーベラ族を王族と同列とし、最大級の国賓として扱っている。

 桜濫幕府でもいくつかの特権を差し出しているが、そのうちの一つが和紙の専売権である。

 

「ですが、その前に…」

 クレハは珍しく鋭い視線を、年齢とは乖離するほど老成された存在に注ぐ。

「時詠様のいう“時戯の駆り手”の事を、もう少し詳しく教えていただきたいと思います」

 潮はまっすぐクレハの視線を受け止めるが、その風情はどこか冷たい。

「……クレハは、私が信用できないのですか?」

「信用していないのではありません。ただ先程の貴方の力や、立ち居振る舞い。その全てが俄かに受け入れがたいだけです。まるで」

「まるで、掌の上で転がされているようで…ですか?」

 言おうとした事を取られ、クレハの態度が固くなる。

「いえ、クレハが警戒するのは当然です。そして、それこそ、私が北辰殿に狙われている、本当の理由です」

「北辰殿は、時詠様のご器量を見込まれて、強硬手段に出ているのではないのですか?」

 桜子の言葉に、潮は黙って首をふる。

「私は千年前、つまり開門暦以前の旧暦の時代に登場した“時戯の駆り手”と呼ばれる時操能力者の末裔です」

「……え、“時戯の駆り手”?」

 先程も聞いたが、初めての固有名詞に桜子が聞き返すが、潮は構わず続ける。

 

「今から千年前、南方界廊を通過して登場した神人(かみびと)“秘匿と開闢のラジエル”が、全人類に対して全大陸規模で『ゲーム』を開催しました。

 プレイヤーの人数は千二百人、参加特典として時操能力を与えられました。それが“時戯の駆り手”の始まりです」

 

「………………」

 全員、潮の言う言葉も意味も全く不明なだけに、黙って聞いていた。

 

「意味がわからないのは当然です。そもそも、千年以上も過ぎた現代において、それらの単語に意味などございません。いずれも過去の遺物です。

 ただ、現在の開門暦以前の旧暦時代が滅んだのは、開催された『ゲーム』の結果とだけお伝えします」

 

「旧暦?」

 桜子に言わせれば、話がワールドワイドになり、かえって潮の言葉が信用しづらくなった。

 

「神人が開催したゲームは、いわば神人対全人類。神人が容易した千二百のクエストに、“時戯の駆り手”となった千二百人が攻略に挑むものです。

 しかし、人類はこの『ゲーム』が世界の運命を賭けたゲームであるという認識が足りませんでした。

 最後の一歩、千二百番目のクエストを攻略できず時間切れとなった人類側は破れ、その結果、一夜にして旧暦であった『四方暦』は歴史を刻むことを止めました」

 

「どうして一夜にして滅んだのですか?」

 桜子の疑問はもっともだが、潮は悲しそうに首を振る。

 

「残念ながら、敗者となり《禁句》の呪いをかけられた“時戯の駆り手”は、ゲームについての詳細内容を語る事が出来ません。

 話を“時戯の駆り手”に戻すと、時操能力は十二種あり、そのうちのどれかがランダムで与えられます。そして私の遥かなる初代が受け取ったのが《投影》と呼ばれる力。先程、皆様にお見せしたものです」

「あの力は、どんな記録でも見る事が出来るのですか?」

「出来ます。ただし、四方暦終焉以降の歴史に限定されますし、私自身に関連する記録は見れません」

「たとえば、桜濫幕府成立時にあったと噂される『灰色の北南会談』とかもわかるのですか?」

 

「……はい、まさにその通りです。そして北辰殿は私の力の存在を知り、それを狙ってきています。そのためだけに、長鳴藩領地を餌にして多くの大名を仲間に引き込み、反乱計画という陰謀を捏造して討伐軍を差し向けて多くの藩士や領民達を殺し、そして父も心労で亡くなりました」

 桜子達は語られた内容にも驚いたが、初めて見る潮の憤りにもっと衝撃をうけた。

「な、なんですって!? それでは『長鳴藩反乱未遂事件』は…」

 

「冤罪です。『反乱の証拠』と決め付けられたのも、全て捏造です。ですが一度軍隊が動けばもはや止まりません。幕府もいまさら間違いを認めるわけにもいかず、結局は長鳴藩が、時詠家が悪として断じられました。

 冤罪について、もはや私にそれを覆す力はございません。名誉の回復は望みませんが、長鳴藩に生きる人々の生活は守らなくてはなりません。

 そのためにも、誰にも後ろ指をさされない死に様を見せてご覧に入れます」

 その潮の決意は、すでに誰もが知っていたが、改めて表明する姿は何よりも気高く神々しい。桜子は、風花や“G”の件での自分の態度を思い返し、深く恥じ入っていた。

 

「本来、“時戯の駆り手”は一代限りですが、例外的に時詠家当主はこの力を引き継ぎ、直系の子供が生まれた時点で力を失います。“時戯の駆り手”の存在を知った北辰殿は、私の双子の兄、即ち『時詠潮』が力の所有者と思い、今回の事件を企みました」

 潮の言葉には辛さと申し訳なさが滲み出ている。自分さえ“時戯の駆り手”ではなければ、今回の事件はなかったと、潮はそう思っていた。

 

「しかし、実際には『時詠潮』にその力は受継がれず、里子に出された妹の私に受継がれました。父はこの状況を生み出した“時戯の駆り手”としての力を憎みました。

 憎みましたが、もはや長鳴藩の取り潰しは動かない。そこで父は次善の策として時詠家の血を遺す事を第一にし、本物の『時詠潮』を隠しました。“時戯の駆り手”は直系の子でなければ発現しません。そこで私が影武者となり『時詠潮』として死ぬ事で藩主としての責任と“時戯の駆り手”の抹消を同時に果たすことになりました」

 過酷である、聞いた五人は改めてそう思う。

 “時戯の駆り手”の抹消とは、即ち影武者『時詠潮』の種を残すことなく死ぬ事である。

 その苛烈ともいえる事実に、六才の少女が男装をして必死に大命を成そうとしている。

 そんな中で、桜子の個人的な感情が、少女の進もうとしている道の障害となっている。

 なんとかしなければと、切実に桜子は考えていた。

 

「勿論それは困難な道です。そこに至る過程で攫われるかもしれません。実際に攫われましたが、そこは風花に助けられました」

 時詠潮の父、海斗も潮が“時戯の駆り手”の力に目覚めるまでは同じ力を持っていた。

 それだけに『運命』ともいうべき『どうしようもない歴史の流れ』というのを感じ取っていた。

 それが定められた道であるなら、どう足掻いても道から外れない。それならば、いっそ困難な道に挑み、天の采配と人の智勇に賭けてみようと考えたのだ。

そして、その期待通り、真夏屋風花という形で、攫われた潮を取り戻したのであった。

 

「桜子」

「は、はい!?」

「初めて会った時の事を、覚えておりますか?」

 唐突な質問に、桜子は慌てつつも、記憶を探る。

「八月一日の朝に、食堂でお会いしたのが最初かと」

「違います。私達はその前日の夕方、界廊の見える丘公園で一度、顔を合わせております。桜子は覚えていませんか? そこで風花が決闘していた事を」

「……そうだ、風花はやっぱりそこにいた…間違いなく、あそこで闘っていた!」

 断絶していた因果の絃糸が潮の言葉と結びつき、今こそ桜子はハッキリと思い出す。

 多くの死体が転がっている公園で風花が立会い、敗北して自爆する光景を。

 いや、何かおかしい。

 死体など無く、二人しかいない公園で決闘をし、風花が瞬間移動で倒した。

 だから、今、風花は生きている。しかし、何故あの時はそれがわからなかったのか?

 

「あそこで風花が闘っていたのは、風花の歴史と戦術論の師である“そよかぜ先生”こと、加治(かじ)微風(びふう)。北辰殿と同じく“獅子天秤”の一員です。“そよかぜ先生”は都合の悪い事象が発生した場合、一日に二度だけ時間を巻き戻す邂逅調絃律を行います。桜子が記憶に混乱をきたしたのは、本来、術者か強力な絃律士しか記憶できないはずの失われた未来を覚えていたためです」

 

 加治微風の邂逅調絃律は《慈悲三顧》という。本来であれば、絃律士でもない桜子が覚えているわけがないのだが、心の底から風花の無事を願う気持ちが、失われた未来の記憶と一本の絃糸が結びついたのであろう。

 

「私は彼らに攫われ、“そよかぜ先生”に監視されておりました。そこに勉強をしにきた風花と私が出逢いました」

 再び部屋は暗転する。

 

 

 ■物語三日前:桜濫暦二四一年七月二十八日、出逢いの時

 

 

 

 事情を聞いた風花は、この時点では何の興味を懐かなかった。よくある事だと思った。

「生きていれば、いつかは取り返しがつく。お前の思いとは別であっても、命があることを至上とすべきじゃないのか?」

「命永らえても、生きていることを申し訳なく思うことが『生きている事』ではありません。

 生きるというのは、大切な人たちのために、限られた時間の中で、どれだけのことをしてあげられたかです。風花、呼吸する意味を、適当な言葉で誤魔化してはなりません」

 初めて逢った日、風花は『呼吸する意味』を、十才年下の少年(この時はまだ少女だと知らなかった)に思い出させられ、死んでいた風花の心は、再び彼岸の果てから現世に戻ってきたのである。

 

 

 暗闇に包まれていた部屋は、再びあるべき姿を取り戻し、時間は流れる。

「私は風花に願いを告げ、風花は私の願いを叶えるために師である加治微風と決闘で斃し、私を取り返しました。その後はご存知の通りです」

 

 その後、山吹の姉である姉小路吹雪が潮の身元引受人となり、一旦保護下に入れ、本人の希望を受け入れて王下親衛訓練学校に体験入隊させたのである。

 ここの訓練兵は身分が高いだけに、訓練校のセキュリティも高い。本来なら外を出歩かなければ潮も安全だし、風花もそれは十分に承知している。

 しかし、風花が熟考した結果、内に篭る事が潮の願いに沿う事とは思えず、危険を承知で連れ出したのである。案の定、襲われはしたが、風花はそれで攫われたり殺されたりするならそれまでだ、と考えていた。

 

「風花には本当に感謝しております。中では面倒をみてくれて、外では新しいものを見せてくれて。私にはこの一週間が、今まで生きてきた中で一番幸せです。

 だからこそ、私も風花に何かをしてあげたい。もし、桜子や“G”が風花のことを想っているのなら、一緒になるかどうかは別にしても、仲を取り持つ事が風花の倖せに繋がると考えております」

 潮は桜子と“G”の桜色と碧色の瞳を捉えて微笑み、桜子は顔中を真っ赤にし、“G”はグッと親指を立てた。

 桜子は、まず自分に出来る事をする。

 

「クレハ様、申し訳ございませんが、折り紙を千枚分けてください」

「お安い御用です。私も及ばずながらお手伝いをいたしますが、部屋では狭いので食堂にしましょう。カエデも連れて行きます」

 すると、山吹と雪蘭も手をあげた。

「桜子ちゃん、私はサクラ小隊の小隊長様よ。当然、そういうことは参加するわ」

「私もー。折鶴なら私も得意だから任せてよ」

「ありがとうございます」

 先程まで、ひどい態度をとっていた自分に手を貸してくれるメンバーには、感謝してもしきれなかった。

 すると、桜子は“G”と目が合った。

「桜色の姫様」

 “G”はいつもの呼び名で呼びかける。

「折鶴は初めてであるが、俺も今すぐに覚えて手伝おう」

 意外な申し出に、桜子は驚く。

「あ、ありがとうございます。しかし、いいのですか?」

 桜子は何を気にしているのか、自分でも上手く言えないが、そういう聞き方をしてしまった。

「良いも悪いも無い。私は、風花にとって何が一番大事か、それだけを考えて行動する」

 “G”はそれだけをいうと、部屋から出て行った。

 正直、桜子はみんながいうように風花のことを好きとか愛しているとか考えているわけではない。ただ、同じサクラ小隊のメンバーであり、気になる存在である事は間違いない。

 今は“G”の気持ちを受け入れつつ、一番大切な事に注力しようと思った。

 

 折鶴を一羽折るのに約三分。千羽であれば単純計算で三千分、約五十時間。

 食堂にいる、桜子、“G”、山吹、雪蘭、クレハ、カエデ、潮の七人を頭割りにして、約七時間強。

 少女達は食堂で、一心不乱に織り始める。空飛ぶイルカも時間をかけつつも織る。

 その鬼気迫る様子に、見かけた他の訓練兵たちは不気味に思えたようだ。噂を聞いて見に来た桜子のルームメイトである漆原良子が、桜子に理由を尋ねたところ、

「風花に千羽鶴を贈る」

 と一言で済まされた。

 しかし、その一言を聞いた漆原は手伝いを申し出た。また、その様子を見ていた第五訓練中隊長である会津月野をはじめ五人の少女が手を貸してくれた。

 十時頃からスタートし、昼時になり食堂にきた訓練兵たちの中にも数個であったが折鶴を織る者もいた。中には「風花のため」と聞き顔をしかめる者もいたが、なんだかんだいっても鶴を丁寧に織ってくれた。

 桜子達は昼食も抜きひたすら織る。

 食堂のおばちゃん達も、桜子達のために握り飯を作り、竹の皮に包んでくれていた。

 

「……出来た!」

 午後三時前にして、千羽鶴は完成した。

 多くの訓練兵たちの手で、一つ一つ丁寧に織られた折鶴を糸で繋ぎ、見た目も蒼から緑、緑から橙、橙から赤に色合いも美しい千羽鶴である。

 少女達は拍手する。

「おお~、綺麗に出来たね」

 雪蘭が目を輝かせると、隣りで見る山吹も胸を張る。

「みんなで作り上げた千羽鶴よ。気持ちだってこもっている。必ず風花君にも伝わるわ」

「いえ、伝えて見せます!」

 力強く請け負う桜子に、潮はちょっと寂しげに微笑むと、表情を締めた。

「その通りです。善は急げといいます。早速、風花を探し出して、手渡しましょう」

「風花君はどこにいると思う?」

 山吹が一同に尋ねると、桜子は確信的に答える。

「界廊の見える丘公園です。きっと、そこにいます」

 すると“G”も同意した。

「俺も同意見だ。そこに行けば、アイツに会えると思う」

 サクラ小隊メンバーは、互いに視線を合わせ、頷きあう。

「決定ね。まずはそこに行きましょう!」

「了解!」

 桜子とクレハが千羽鶴を大事に抱え、一度、桜子の部屋に戻る。

 桜子は空のリュックに千羽鶴を丁寧にしまうと肩に掛けた。

 

「桜子、喰え」

 “G”が竹の皮を開き、握り飯を差し出す。

 二人の桜色と碧色の瞳が交錯する。

 

「ありがとうございます。いただきます!」

 桜子は手で掴み、ガブリと大きな口をあけてかぶりつく。

 “G”は握り飯を一口で半分を食べ、二口目で完食する。

 竹の皮にあった残り一つの握り飯はQタローが手に…ヒレにとる。

 桜子は最後の一口を食べきる。

 補給は完了した。

 

「行きます!」

 掛け声一つで桜子は駆け出す。

 “潮とQタロー、そしてサクラ小隊のメンバーが後に続く。

 カエデも一緒に行きたかったが、サクラ小隊が一つになるかどうかの一大イベントである。外様であるカエデは信じて見送った。

 もう一人、遠くから蝶野南水もまた。

 

 少女達は走る。

 イルカは飛ぶ。

 潮を背負う“G”を戦闘に、黒の訓練服を纏った少女達が疾走する。

「桜子、風花に言う事は考えているのですか?」

 潮の問いに、桜子は走りつつ答える。

「まだです。でも、会えばきっと言うべき事が言えると思います」

「貴方らしい。私達は離れていた方がいいかもしれませんね」

「いえ、風花もいつも言っています。『距離など関係ない』と。そばにいてくれて、何も問題ありません!」

「そうでしたね……しっかりと風花を見ている貴方なら、絶対に大丈夫です」

「はい!」

 いつしか界廊の見える丘公園への分岐点に辿り着く。

 潮がいうには、五日前にこの道を三度も通ったという。

 全然記憶にないが、三度とも左に曲がり、風花のいる公園へ行ったというのは運命なのであろうか。

 それはどういった運命なのだろうか。

 それを知るために、桜塚桜子は、四度、左への道に突き進む。

 坂を上り、風景が広がる。

 

「待っていたぞ」

 そこには北辰若狭守薫と、彼の率いる流蝉騎士団が待ち受けていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ