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12.空飛ぶ魚

天女の消えた楽園の未来

あの頃の俺はひどく不器用な子供で、今でも到底器用などと呼べたものじゃないけれど、それでもあの頃よりはいくらかマシになったと思う。

頑ななまでに仕事仕事と彼の役に立つことばかりを考え、他のものには一切視線を向けることをしなかった。


それだけ俺の世界は狭くって、彼だけが俺の世界の基準だっただなんて。


ふと窓の外に視線を向ければ夜もとうに更け、仕事を始めてから何時間もたっていることがわかる。

あぁ、今日はずっと部屋にこもって書類相手の仕事ばかり。

身体のあちこちが凝り固まっているが、そろそろ部屋でできない仕事をしに行こう。


髪を結い上げた簪が涼しげな音を立て、揺れる。

ほとんど白に近い白銀の簪だけは本来の天姫の色である淡い紫の髪にも、鮮やかすぎる緋色の俺の髪にも合う。

哀しげで、涼しげなこの音を聞くと、俺は俺の世界であった先の天姫を思い出す。


彼を亡くしたことは、何よりも何よりも悲しいことだった。

それでも俺は、その後に得たものがどれだけかけがえのないものかちゃんとわかっているから・・・自分は独りだなんて、過去に戻りたいなんて絶対に言わない。


重たい天女の衣装を身に纏い、愛想を振りまくのも仕事の一環。

そうはわかっていてもいくらやっても慣れなくて、慣れないながらも仕事をこなし、時間はいつの間にか明け方間近。

昇りくる朝日は夜通し仕事をしたこの身には眩しすぎて、思わず目を顰める。

そんな風に窓の外を見つめていたら、何かが背後にぶつかった。

そちらを振り返るとわらわらと足元に3人の子供が纏わり着いている。

緋色、薄紫、緋色。

双子は俺と同じ髪の色をしているが、末っ子だけは隔世遺伝で天女と同じ色を受け継いだ。

そんな子供たちから数歩離れた場所で雪葉ゆきはが俺たちを楽しそうに見ている。


「・・・おはよう。」

「おはよう、雅灯みやび。」


いったいこんな早くから子供たちまで起き出して、いったい何かあったのだろうか。

ふと子供たちに絡まれたまま考えるが、思いつくようなことはない。

それより着物を引っ張るのはやめなさい、乱れるから。


「ほら、お父さんに言いたいことがあるから起きたんでしょ?」


雪葉の言葉に、末っ子が俺の目の前に小さな箱を差し出した。

そして声をそろえて言う。


「お父さん、お誕生日おめでとう。」


君に出逢うまで不器用な泳ぎ方しか知らなかった俺は、両手に溢れるほどの大切なものを手に入れた。たくさんのものをくれた最愛の君たちに。 『ありがとう』


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