5.獅子はいつも試される
微BL、Eve to Evaの竜里と呼宝
下を向いて、ぎゅっと自分が纏う着物を握り締める。
小さなその手には見ていて痛々しいほどに力がかかっており、彼の精一杯の努力が窺える。
やや伏せぎみの瞳は何にも染まらない漆黒の色。
端正な顔立ちながら、眉間に皺を寄せて一点を見つめていた彼は、我慢の限界がきたのかくるり背を向けて歩いていく。
高い位置でひとつに纏めた漆黒の髪が、歩く彼の動作に合わせてゆらゆらと揺れる。
それはまるで気位の高い猫がしっぽを振って歩くようで、去っていく彼の背を楽しげに見つめていた竜里は思わず笑みを零した。
「天姫、彼を遊ぶのが楽しいのもわかるけど話の途中よ?」
名前・・・ではないが自分のことを呼ばれ、先ほどまで会話をしていた相手へと視線を戻す。
あぁ、いけない。
確かに香梓の言うとおりだ、でも仕事も大切だけど彼で遊ぶことは竜里の生きがいなのだ。
「ごめんね、香梓。あとでちゃんと聞くから・・・ちょっと行って来る。」
笑ってそう言えば心底呆れたとでも言いたげにため息を吐かれる。
当たり前のようにそのため息はスルーして、うちの従業員は物分りがいいなぁなどと考える。
口に出して言ったら、当たり前のように文句を言われそうだが。
すれ違う人を適当に受け流し、階上へと進む。
長い薄紫の髪を結い上げた簪がシャラシャラと音を立て、それが少し耳障りに感じる。
今は部屋ですねているだろう彼はこの音が心地よいと言ったが、幼い頃からこれを身に着けている竜里にはあまり理解できない。
カタン、小さな音を立てて階段を上り終え、廊下への先へ進む。
眺めがよいのはいいことだが、いかんせんこの広い天姫殿の最奥までいくには時間がかかる。
開け放たれたままの自室の襖。
当たり前のように天姫殿の最上階、最奥の部屋は天姫の部屋である。
その部屋の中、部屋の主ではない人物がこちらに背を向けて座り込んでいる。
高い位置で結われた漆黒の髪が未だ幼い華奢な背へ流れる。
すねた子供をそのまま現したような後姿に竜里は無意識ながらも意地の悪い笑みを浮かべる。
「ねぇ・・・なんでじっと俺を見ていたのに、何も言わずに立ち去ったの?」
あぁ意地が悪い、意地が悪い。
それもこれも彼がいじめたいほどに可愛いのだから、仕方ない。




