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  作者: 三谷湊
9/11

勇者として――戯れ――

一瞬の後、俺は王城の自室にいた。

そこから謁見の間まで行こうと扉を開ける。

すると、たまたま通りかかった貧相な小役人らしい男に見つかる。

ちょうど良い。道も正直うろ覚えなので案内してもらおう。

「なあ」

「貴様は誰だ!」

どうやら俺の事を知らないようだ。

「王様の所に連れて行ってくれ」

「何を言っておるこの不審者が! 今すぐ衛兵を呼べ!」

さらにたまたま通りかかった衛兵が数人。

「何事ですか?」

礼儀のなった衛兵。

「早く捕まえてくれ! 侵入者だ!」

口から唾が飛ぶほど勢い込んで言う小役人。

その言葉に、衛兵はこちらを向いて言う。

「おとなしく捕まっていただけるか?」

「それで良いが王様の前に連れて行ってくれ」

「陛下の元、だと」

「ああ。武器も渡す」

そう言って手持ちの武器を渡す俺。

「本当にこれで全てか?」

「一応身体検査させてもらおう」

別の衛兵が言う。

もちろん今の所はやましい事など無いので応じる。

身体中を触られて検査は終了する。

「何も無いな。しかしお前は何なんだ? 嘆願に来た農民にしては身なりが小綺麗だし、城内で働く者でもないようだ」

「話は良いから、さっさと連れて行ってくれ」

「あ、ああ」

そう言うと衛兵は俺をロープで縛った。

しばらく衛兵達と小役人で歩く。

やっぱり中身は中世ヨーロッパ風の城だ。

廊下は長く、広かった。

歩くにつれて増える人。

すれ違う人の目線が痛い。

けれど謁見の間に着いてからの展開が楽しみだった。


しばらく歩くと謁見の間の扉の前に着いた。

「それでは私が先に行こう」

「お願いいたします、内務大臣殿」

内務大臣? この貧相で見るからに田舎の小役人が?

というか、内務大臣が勇者の顔を知らないのはどうかと思った。

しかし俺の疑問には誰も気付かず、小役人改め、内務大臣は扉の中へ。

俺はともかく衛兵達は謁見の間の前という事か、皆静かに姿勢良くしていた。


しばらくすると内務大臣が戻って来た。

「陛下がお会いになられるそうだ」衛兵に促されて中に入る。

正面の王座に座る王の顔は見物だった。

まず、何故勇者が捕まっているのか。

次にまだ北西部の陣にいるはずなのに何故。

百面相とまではいかないが素晴らしい顔芸だった。

そして自慢げに入ったものの、王の表情に何かを察して青ざめる内務大臣。

口をパクパクさせながら王は言った。

「ゆ、勇者が……、何を、しておる?」

その言葉を聞いて青ざめた顔がロウのように白くなる内務大臣。さらに固まる衛兵達。

そこで俺は冷静に言う。

「転送魔法で帰った。それで王様の所へ行こうと思い、道を聞いたらこいつらに捕まった」

「な、な、な……」

王はまた何も言えなかったようだ。

「あーあ。勇者に働いた無礼、どう責任とりますかね」他人事のように言う俺。

慌てて土下座体勢で頭を下げる内務大臣と衛兵。

「も、申し訳ございません陛下。勇者殿とは知らず……」

言葉尻がしぼむ。

「この阿呆どもが! 打ち首じゃ! 拷問じゃ!」

気を取り戻した王が顔を真っ赤にして怒鳴る。

さすがに死なれては目覚めが悪いので、絶妙なタイミングで口を挟む。

「まあまあ、王様。彼等に悪気があった訳では無いんですから」

俺がそれを言うのか、という内容だった。

「ほう、貴様が庇うか……」

案の定、思った通り呆れられた。

ただ、それが頭を冷やしたのか冷静になる。

「まあ良い。当事者が庇うのだ。赦して遣わす」

「ははっ、ありがたき幸せでございます、陛下」

加害者達(?)はさっきから床についている頭をさらに下げ、床にこすりつける程になっている。

「もう良い、さっさと下がれ」

「ははっ!」

自分の命が懸かった緊張からほうほうの体で下がる。

「それで、一体何の用件です?」

今ので直情的な性格がよく分かったので下手に出る俺。

「ふむ、忘れておった。それはだな」

その後に続いた言葉に俺は驚いた。

なぜなら、俺はまだ坊やだったから。

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