勇者として――戯れ――
一瞬の後、俺は王城の自室にいた。
そこから謁見の間まで行こうと扉を開ける。
すると、たまたま通りかかった貧相な小役人らしい男に見つかる。
ちょうど良い。道も正直うろ覚えなので案内してもらおう。
「なあ」
「貴様は誰だ!」
どうやら俺の事を知らないようだ。
「王様の所に連れて行ってくれ」
「何を言っておるこの不審者が! 今すぐ衛兵を呼べ!」
さらにたまたま通りかかった衛兵が数人。
「何事ですか?」
礼儀のなった衛兵。
「早く捕まえてくれ! 侵入者だ!」
口から唾が飛ぶほど勢い込んで言う小役人。
その言葉に、衛兵はこちらを向いて言う。
「おとなしく捕まっていただけるか?」
「それで良いが王様の前に連れて行ってくれ」
「陛下の元、だと」
「ああ。武器も渡す」
そう言って手持ちの武器を渡す俺。
「本当にこれで全てか?」
「一応身体検査させてもらおう」
別の衛兵が言う。
もちろん今の所はやましい事など無いので応じる。
身体中を触られて検査は終了する。
「何も無いな。しかしお前は何なんだ? 嘆願に来た農民にしては身なりが小綺麗だし、城内で働く者でもないようだ」
「話は良いから、さっさと連れて行ってくれ」
「あ、ああ」
そう言うと衛兵は俺をロープで縛った。
しばらく衛兵達と小役人で歩く。
やっぱり中身は中世ヨーロッパ風の城だ。
廊下は長く、広かった。
歩くにつれて増える人。
すれ違う人の目線が痛い。
けれど謁見の間に着いてからの展開が楽しみだった。
しばらく歩くと謁見の間の扉の前に着いた。
「それでは私が先に行こう」
「お願いいたします、内務大臣殿」
内務大臣? この貧相で見るからに田舎の小役人が?
というか、内務大臣が勇者の顔を知らないのはどうかと思った。
しかし俺の疑問には誰も気付かず、小役人改め、内務大臣は扉の中へ。
俺はともかく衛兵達は謁見の間の前という事か、皆静かに姿勢良くしていた。
しばらくすると内務大臣が戻って来た。
「陛下がお会いになられるそうだ」衛兵に促されて中に入る。
正面の王座に座る王の顔は見物だった。
まず、何故勇者が捕まっているのか。
次にまだ北西部の陣にいるはずなのに何故。
百面相とまではいかないが素晴らしい顔芸だった。
そして自慢げに入ったものの、王の表情に何かを察して青ざめる内務大臣。
口をパクパクさせながら王は言った。
「ゆ、勇者が……、何を、しておる?」
その言葉を聞いて青ざめた顔がロウのように白くなる内務大臣。さらに固まる衛兵達。
そこで俺は冷静に言う。
「転送魔法で帰った。それで王様の所へ行こうと思い、道を聞いたらこいつらに捕まった」
「な、な、な……」
王はまた何も言えなかったようだ。
「あーあ。勇者に働いた無礼、どう責任とりますかね」他人事のように言う俺。
慌てて土下座体勢で頭を下げる内務大臣と衛兵。
「も、申し訳ございません陛下。勇者殿とは知らず……」
言葉尻がしぼむ。
「この阿呆どもが! 打ち首じゃ! 拷問じゃ!」
気を取り戻した王が顔を真っ赤にして怒鳴る。
さすがに死なれては目覚めが悪いので、絶妙なタイミングで口を挟む。
「まあまあ、王様。彼等に悪気があった訳では無いんですから」
俺がそれを言うのか、という内容だった。
「ほう、貴様が庇うか……」
案の定、思った通り呆れられた。
ただ、それが頭を冷やしたのか冷静になる。
「まあ良い。当事者が庇うのだ。赦して遣わす」
「ははっ、ありがたき幸せでございます、陛下」
加害者達(?)はさっきから床についている頭をさらに下げ、床にこすりつける程になっている。
「もう良い、さっさと下がれ」
「ははっ!」
自分の命が懸かった緊張からほうほうの体で下がる。
「それで、一体何の用件です?」
今ので直情的な性格がよく分かったので下手に出る俺。
「ふむ、忘れておった。それはだな」
その後に続いた言葉に俺は驚いた。
なぜなら、俺はまだ坊やだったから。