騎士の言葉――出発――
翌日、パレードにて。
俺は勇者としての正装で王の隣、市民に手を振っていた。
「どうだ、凄いものだろう?」
とても自慢気かつ偉そうに言う王。
「はぁ、そうですね」
「よく分かっておる。やはり最高の王には最高の勇者が似合う!」
ハッハッハと高笑いする。
正直、このテンションにはついていけない。昨夜からの問題は先送りしただけで、まだ心の底にある。だから王に不信感も持ったままだ。
そんな俺の心中も知らず、ただただ上機嫌の王。
「パレードが終わればすぐにでも戦場に出てもらう。貴様の真価を見せてもらおう」
気は進まないが受け入れなければ話が進まない。
そうしている内にも刻一刻とパレードの終わりが近づき、戦場への出発も近づいていた。
慌ただしく済まされた儀式。古めかしい馬車に数人の騎士と乗り込み城を後にする。
次は魔王を倒すまで帰れないだろうか。
そんなどうでも良い事を考えていると
「おい、勇者」
馬車に乗っていた騎士の内、一番柄が悪そうな奴が声をかけてきた。
その口調から好意的で無いのがよく分かる。
「何だ?」
精一杯の虚勢を見せる。
「お前、これが初陣だろ」
「どうでもいいだろ」
「良くない」
「はぁ?」
「つまりお前は戦場の雰囲気、血潮の香り、命を懸けた気迫を知らない」
「何を言いたい?」
「まぁ気を付けろ。それだけだ」
そう言って柄が悪そうな騎士は黙りこんだ。
他の騎士は、最初から顔を俯け目を伏せて目線を合わせないようにしている。
突然現れた勇者にあまり良い印象、というか信頼を抱いていないのは分かる。
しかし今の騎士の言葉はどういう意味だろうか。
この時、俺はまだ知らなかった。戦場は命懸けという事を。