異世界への訪れ――期待――
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名、その他もろもろとは一切関係ありません。
有名なヤツ、付け忘れてました。
(ここは、どこだ?)
いつも通りの放課後。家に帰る途中、視界が光に覆われ、気が付くと石の床の上に横たわっていた。
「おお、成功したのか」
木製の扉の向こう、多分廊下から男の声と足音。足音は二つ聞こえる。
「はい王様。しかし気を失っておりまして」
また別の男の声。
「構わぬ。それよりも早くしろ」
「はっ!」
言葉と共に扉が開く。
現れたのは王様らしい服装の初老の男と、またいかにも魔術士という風なローブを着た男。
「貴様が、勇者か?」
意味が分からない。そう言おうとした矢先、口が勝手に動く。
「そうだ。我こそ貴公の呼び出しに応じた勇者である」
「これは良さそうだな。誉めてやろう」
「有り難き幸せで御座います」
勝手に動いた口に呆然としていた俺を尻目に二人は話し込む。
「まぁ、真価は使ってみないと解らぬ。明日から早速出そう」
「お言葉ですが王様、まずはデモンストレーションさせましょう」
「おお、その通りであったな。早速広間でやらせよう」
そう言うと王は部屋を出て行った。
「ふう、やっと行ったか」
それまでのへりくだった様子から魔術士は変わった。
「何も説明せずに、すまないな」
「アンタは誰だ?ここはどこだ?勇者って、俺の事なのか?」
「少し待ってくれ。今から手短に話す」
魔術士によれば、彼は本当に魔術士で王様はこの国の王。この世界は俺が元いた世界とは違い魔法が使え、俺は召喚されたらしい。
「それで、君には今から魔法を使ってデモンストレーションをして欲しい」
「魔法をって、俺そんなの使えないけど」
「大丈夫だ。さっき口が勝手に動いただろう。あれは勇者としてこの世界に召喚されたという事だ。そして勇者は必ず魔法を使える」
「そんな……物なのか」
「ああ。ただ、こんな事をしたいと念じるだけだ。もちろん勇者だけだが」
そして魔術士と俺はとても簡単な魔法、光を指に灯す練習を始めた。
「そう、そこに意識を集中させて。イメージしろ」
「はあっ!」
気合いのお陰か一発で成功した。
「さすがだな。もうこれで俺に教えられる事は無い。そろそろ王の所に行こうか」
石造りの廊下を二人で歩く。見回すとどことなく中世ヨーロッパの城に似ている。そんな俺が気になったのか魔術士が話しかける。
「どうかしたのか?」
「いや、中世ヨーロッパの城に似ていると思って」
「中世ヨーロッパ?」
「分からない?」
「ああ。言葉は勝手に互いが理解できるようになっているが、固有名詞はダメだな」
「ふぅん、そうなのか」
「そういえば、そっちの城に似ているという話だったな」
「そうだった、忘れかけてた」
「理由は簡単。過去にそっちの世界から来たヤツがいて、そいつがこの城の設計をしたらしいからだ」
「したらしいからだ?」
「何百年か前の話だからな。事実は分からない」と、魔術士は足を止める。話していて気付かなかったが着いたようだ。
「さぁ、頑張ってくれよ」
「ああ!」
正直、悪い気分ではなかった。むしろ気分は最高潮で興奮していた。
物語の中、勇者はいつも強く正しかった。
だがそれはあくまでも物語。現実とは大違いだと気付いたのはまだ後だった。