思惑――接近――
「それはだな」
と、一度言葉を切る王。
「貴様が良ければ、姫を嫁にどうかと思ってな」
驚きのあまり何も言えなかった。
「いや、容姿なら心配いらん。我が娘ながら別嬪じゃ」
そういう問題ではないと思う。
「貴様に一目惚れだそうだ。ワシも人の親、娘が幸せなら良い」
優しそうな表情をする王。
それに俺は二重に驚いた。
召喚した後の俺への態度から非人間的だと思っていたのに。
「何ならここに呼ぼう」
そう言って王は従者を遣いにさせた。
そして十五分程後。
「陛下、お連れいたしました」
そこには数日前の夜に想像したままの美少女がいた。
「父上、それに……勇者様!?。ど、どうされたのですか?」鈴を転がす様な声で慌てる姫。
それに王が
「姫、こちらに来なさい」
と呼ぶ。
そしてしばらくヒソヒソと話した。
「そういう事ですか」
姫は状況を理解したようだ。
「勇者様、私の気持は父上からお聞きになられたと思います」
「あ、ああ」
「ならこの気持ち、受け取って下さい!」
大人しそうな外見からの強気な押し。
それでいて、雪の様に白い頬は朱に染まっている。
思わずその魅力に参りかけた。
何と言っても俺は純情だから。
そうして内心で葛藤して、端から見ると凍っていた俺を見て王は言う。
「まぁ姫よ、勇者も困っておるようじゃ。ここは一つ、勇者の世話係兼教育係でどうかの?」
「私は勇者様とご一緒出来るなら、何でも良いです」
恋する乙女は盲目だった。
「ならそれで決まりじゃ」
こうして、勇者とその世話係の姫というありきたりな関係が出来た。
その後部屋に帰らせてもらった。
この世界で初めて泊まった部屋は、備え付けの家具以外何も無い殺風景な部屋だった。
まぁ、買い物やその他持ち物が増えるような事が出来なかったからだ。
ベットに腰掛けボンヤリしていると、コンコンッと扉がノックされる。
「勇者様、よろしいでしょうか?」
姫の声だった。
頭痛の種の襲来に本当に頭が痛くなる。
しかし、断る理由を見つけられなかった。
だから仕方なく
「どうぞ」
と言う。
「失礼します」
という声と共に、やはり姫が入って来る。
「何の用だ?」
顔を見るのが恥ずかしくて、眼を反らしながら言う。
「いえ、別に用事などありません。ただ……」
「ただ?」
すると姫は突然こちらへ突進した。
そして顔からのダイブは偶然か狙ったのか、俺の顔へ。
次の瞬間には目の前が姫の顔で埋め尽くされ、唇には何か柔らかい感触。
一気に顔が熱くなるのを感じる。
これって、キス……?
んん……、と艶かしい声と共に顔が離れていく。
そして姫は、モジモジとしながら恥ずかしそうに言う。
「これで私の本気を分かっていただけましたか?」
そう言って、頭がショックから抜け出せず黙ったままの俺を尻目に姫は部屋から駆け出して行った。
今のは夢だったのだろうか?
それくらい現実感が無かった。
ただ頬をつねると痛いし、体に感じた暖かな重さと唇の柔らかさは、事実という事を主張している。段々頭が沸騰してきた。
こんな時は寝るに限る。
そう心の中で唱えて眠ろうとする。
当然しばらくは眠れなかった。しかし、やがて睡魔が俺を襲ったのだった。
前言撤回。
もう少しで1000PVなのでそれを区切りに過去編を出します。
って今から書き始めるんですけどね。
とりあえず、皆さん応援有難うございます。
これからも未熟者なりにネタが尽きるまで頑張りたいと思います。