八話:戦闘開始
お久しぶりです。
目が覚めて時計を見ると五時でした。
まだ学校に行くにも早すぎる時間。どんなに頑張っている部活動の朝連でもこんなに早くは起きないだろう。というかまだ日も出ていない。
楽しみだったのは認めよう。とてもとても楽しみだった。
…だからと言って、こんなに早く起きるなんて、俺は子供か…。
時計を置く。改めて横になり、布団をかぶって目をつむる。おやすみなさい。目覚ましが鳴るその時まで、俺は再びの眠りに…
…
……
………眠りにつけるわけがない。
あぁ、眠れるわけがない。こんなにもテンションが上がっている。こんなにも今日という日に期待している。そんな俺が布団に入って眠れるわけないじゃないか。
体も完全に覚醒している。いまなら即座にフルマラソンくらい出来そうな気分だ。しないけれども。
仕方ない。俺はため息をついて布団を抜け出す。さて、かなり早いが支度をして、学校に行こう。
もしかしたら、何か起こっているかもしれない。今日は始まりの日なのだから。
予想の一つとしては。
そうだな、どっかの美少女が男数人に囲まれて戦っていて、俺がそれを助ける。ゲーム参加者であったその美少女が、俺に言うんだ。
『君、強いね。私と組んで、優勝目指さない?』
それを聞いて俺は言うんだ。
『やだよ。結局最後は勝敗決めなきゃいけないのになんで組まなきゃいけないんだか』
それを聞いた美少女はむくれながら言うんだ。
『それまでの共同戦線だったらいいじゃない。わからずや』
そういって、去っていくのだが、俺とそいつはこの後何回も出会うことになるのだった。
そんな感じの出会いがあるといいなぁ。さて、朝飯は何にしよう?
そんなことを考えながら学ランに着替えて部屋を出た。
学校に着いたら校門前で気合の入ったヤンキーが男数人に囲まれていた。明らかに剣呑な雰囲気。
…いや、これは求めていない。心の底から求めていない。俺がほしかったのはもっとこう、なんかライトノベルとかであるような、わくわくするような出会いだ。
それなのに、何だこれは。街中で喧嘩に出くわしたのと同じ状態じゃないか。
そんなことを考えていると、男の一人に胸倉を掴まれていたヤンキーと目があった。そのヤンキーはにやりと笑い。
「よう、やっと来たか。」
あろうことか俺に声をかけてきた。あぁ、これで今俺は巻き込まれることが確定した。なんてこった…。
ヤンキーを囲んでいた男たちが一斉にこちらに向く。うわぁ、敵意をもった目だなぁ…。俺はそいつと面識も何もないのに。
後どうでもいいがみんながみんなこっちを向くと。
「うおりゃぁ!!」
そんな風にヤンキーから反撃を食らうぞ、と。ヤンキーは胸倉をつかんでいたプリン頭の男1の手を持ち投げ飛ばした。何が起こったのかわかっていないような顔のまま回転する男1。頭が地面に落ちるかもというその前に、ヤンキーが思いっきり腹を蹴飛ばした。
うわぁ…。あれは、辛い…。腹をけられた男はいろんなものを口から撒き散らして転がっている。
「てめぇ!!」
それを見た金髪、男2がいきり立つ。倒れた男を除いて六人ほどいたのだが、一斉にヤンキーに向かって飛びかかっていった。しかし、その隙間を縫うようにするりと体を滑らしてヤンキーは男達の包囲から抜け出す。特徴のない男3、男4がうずくまる。死角になって見えなかったけど抜け出す時に拳か何かを打ち込んだんだろう。
「わりぃな、助かった」
そう言いながらヤンキーはこっちに歩いてきた。
…いやぁ、近くで見ると驚くほどにヤンキーだ。逆立った髪は赤に近い茶。短ランにぶっといズボン。右耳に三つ、左耳に五つ、唇に一つのピアス。腰にはジャラジャラとキーチェーンその他をつけている。なんか最近の田舎のヤンキーといった感じだ。
「そう思うなら巻き込むなよ。」
俺はそういうが、男は笑いながらこっちの肩をたたく。
「そんなこと言うなよ。無駄に怪我をするのはいやだからな。先手必勝、卑怯上等。勝ったもんが正義。それが喧嘩ってもんだろうよ。」
…まぁ、確かにそうだろう。
「それに、お前なら大丈夫だろ。こんくらいのやつに囲まれたって。腰巾着クン。」
…あぁ、なんかどっかでこいつと絡みがあったらしいな。その呼ばれ方ならきっと須藤関係の何かだろう。思い出したくもない。
「面識があったのか?俺ら。」
「前に一度。直接は話したことはないけど遠目で見た。イカしてんよな、番長。」
決定。須藤関係に間違いない。
「無視してんじゃねぇよお前ら!!」
そんな会話をしていた俺らに男2がキレた。
「ふざけんなよ!俺らを無視するんじゃねぇ!!」
そして両手にナイフを取り出し。
「開け!『箱庭』!!!」
そんなことを叫んだ。
世界が変質する。
戦いの場へと。
男から目に見えない何かが広がる。そしてそれは俺たちの周囲を切り取り、別世界へと連れていく。
気付くと周りにはどこかの漫画で見たような荒廃した世界が広がっていた。いうなれば核兵器での全面戦争が起こった世紀末覇者的な世界?
その世界に、俺と、ヤンキーと、男が三人だけ立っていた。
箱庭の中に入れるのはゲームの参加者だけ。こいつらもモノリス持ちってことだ。
「なんだ、お前も参加者だったのかよ」
ヤンキーが俺に向かってそんなことを言ってきた。
「こっちのセリフだ」
男2が何かをぼそっと言う。その途端にナイフが肥大化、男2の腕と融合していく。何だろう、できそこないのカマキリみたいなイメージ。
他の男達も何かしらの能力を使ったみたいだ。男5は手にどこから出したんだというどでかい銃を取り出す。男6は手に持っていたキーホルダーがどんどん大きくなり、最終的に釘バットになる。男7は手を地面につけ、そこから真っ黒の木刀を引き出した。いや、あれは多分砂鉄の塊とかによる模擬刀と言ったほうが正しいのだろうけど。男8は上半身が肥大化し、服が破れ飛ぶ。なんだろう、アメコミにいそうな奴になった。
「またなんかあれだな」
「そうだな。なんつーかわっかりやすい感じっつーか」
俺の言葉にヤンキーがうんざりした顔で答える。多分俺も似たような顔をしているんだろう。
驚くほどに感じる雑魚キャラ感。こいつらは主人公の敵じゃない。いわゆる引き立て役にしかなれないタイプだ。
「んじゃ俺は三人」
「え、俺もなんかやるの?巻き込まれただけなのに?」
「何言ってんだ?別にやんなくてもいいけどあっちはやる気満々みたいだぞ?ちなみにさっきのも合わせてお前は俺の仲間と認識されてると見た。」
…言われなくてもわかっている。男達はこっちをにらみつけている。まぁ、能力者同士の肩慣らしにはちょうどいいか。
「わかったよ。ただ指定させてくれ。俺は銃みたいなのを持った奴と刀を持った奴をやらせてくれ。」
「了解。あとは俺の獲物だな」
ヤンキーがそういうと、とたんにヤンキーから陽炎が立ち上る。髪はさらに逆立ち、色は真っ赤に。空気がかき乱され、轟と突風が吹き荒れる。ヤンキーが能力が発動したらしい。
そしてヤンキーは楽しそうに笑い。
「さぁ、楽しい楽しい喧嘩の始まりだ!!」
そして戦いは始まった。