六話:ルールの確認
あいだがだいぶ開いてしまいました。
河原からの帰り道で。
「ところでお前はなんで寝ていたんだ?」
そう須藤に聞いてみたところ。
「何言ってんの。君が突然ふてくされたように寝てしまうから私はつまんなくなって横になったんだよ。そしたらいつの間にか眠ってしまった。」
そんな答えが返ってきた。
「…お前は地獄に…いや、白衣を着た男とか、見なかったか?
「何それ。いや、周りにはそんな奴いなかったけど。」
…つまりはこいつはあの白衣が言ってたゲームに参加してないということなのか?
ん?そういえば、俺の持ってたチラシがない。
「チラシはどうなった」
「チラシ?何のこと?」
「…燃えたチラシなんだが。」
「…いや、馬鹿にしてるのかしらないけど、燃えたんでしょ、そのチラシ。じゃ、今は灰になってるんじゃないの。」
なんか違和感がある。確かさっきはポケットから出した時点でチラシが燃えた。それを須藤も見ているはずだ。それをまるで見たこともないように言うというのはおかしい。
そうだ。こいつは『チラシなんか知らない』ようなしゃべり方をしているのだ。
「須藤、質問」
「何でしょう。」
「夢をかなえるチラ…いや、『俺たちはなんでここにいるのだろうか』」
「それは、黒峰が電話かけてきて、『夜という何が起こるかわからない世界に身を投じてみよう。んで、俺一人だと通報されかねないからお前も来い。』とのたまわれたのでやさしい渚ちゃんは付き合ってあげたのよん。」
「…そりゃどうも。」
…どういうことだ?俺はそんな話を全くしていない。俺が言いそうなことではあるが、チラシのことに全く触れていないということで、違和感バリバリだ。
記憶の改ざんか?
そんな話をしていたら帰りの分かれ道についた。
「それじゃね。また後で。」
「了解、学校で。」
部屋の扉を閉める。思わず笑いが漏れてきた。
…いいねぇ。なんとも素晴らしいほどに不思議感があふれてきた。『参加者にしか関係する記憶が残らない。』なんともファンタジーじゃないか。
ポケットからモノリスを取り出す。どこにも継ぎ目がない完全な長方形。色は黒く金属なのかプラスチックなのかわからない材質。金属でできているにしては軽すぎる気がする。
…ぱっと見は黒い携帯だ。重さもそんなもんである。
そっと表面をなでてみた。
モノリスの表面に青い光が走った。
「…え?」
『起動開始。』
モノリスから機械で作られたような音が出た。
青い光が目まぐるしく走る。その光が少しずつゆっくりと収まっていき。
『起動完了。おはようございます。』
そう言って完全に止まった。今は中心部分でうっすらと光が明滅している。
「…なんだ?」
思わず口から言葉が漏れた。
『疑問返答不可。問いが明確ではありません。』
…えっと。どういう意味だ?さっきの俺の『何だ?』という質問に対しての答えを返したのか?
つーことはだ。質問が意味わからないと言っているのだろうか。
つまり、わかりやすい質問をしろと。
「えー、君は何だ?」
『回答。名称 モノリス。機体番号 X-1102245。登録者 黒峰 海里。勝利条件。』
…成程。何というか、よくある|(本とかで出てくる)AIみたいなものか、これ。いわゆる融通の利かない機械。
だったら。
…まず名前をつけよう。いろいろ理由はあるが、一番の理由としては俺の設定資料集|(通称黒歴史ノート)のAIには名前が付いていた。
「君の名前を変えることは可能か。」
『肯定。可能です。』
「なら決まった。君の名前はムラクモだ。」
『確認。名称をモノリスからムラクモへ。了解しました。』
「以降、登録者である黒峰海里以外に対する返答は、これを黒峰海里が許可しない限り禁ずる。」
『確認。了解しました。』
「この戦いについてのルールに対する返答は可能か。」
『肯定。可能です。』
「そうか、じゃぁまず。」
…そうして俺とムラクモとの対話が始まった。
確認できたことをまとめよう。
この戦いでは、自分の想像した能力をぶつけ合わせて戦う。
使える能力は五つ。
そのうち一つはすでに決定している。
能力名は『箱庭』
発動とともに半径100m範囲が現実世界から隔離され、いわゆる異世界となる。
その異世界は現実世界となんら変わりはないが、モノリスを持っていないものは入れず、また、その異世界で起こったことは何も現実世界に影響しない。
また、『箱庭』発動時にその効果範囲にいなかったものは、モノリスの有無にかかわらず、原則その発動を感知できない。
「ん?たとえばその世界で死んだり怪我したりした場合はどうなるんだ?」
『回答。『箱庭』がとけた時点ですべてリセットされます。死んだ場合も同様に、その死がリセットされます。』
「例外はあるのか?」
『肯定。本人がリセットを拒めばそれはそのまま『本人のもの』に限り現実世界に影響します。』
「『本人のもの』の定義とは?」
『回答。その人物が無意識下で自分、もしくは自分のものと認識しているものです。』
「なるほど」
戦いが始まるのは一週間後。
トーナメント形式ではなく、バトルロワイヤル。いつどこで戦いを始めても構わない。一人を数人で倒しても何ら問題はない。
バトルフィールドは指定なし。しかし、先に述べた『箱庭』を使って、一般人に影響が出ないようにしなければならない。
戦いが始まるまでモノリスを奪ってはいけない。
この一週間は自由に能力の変更ができる。しかし一週間後、戦いが始まってからは一度決めた能力は固定される。
「えーと、質問。もしもその時点で能力が余っていたら。つまり、三つとか四つしか能力を定義していなかったらどうなる?」
『回答。その場合、戦いが始まった後にも能力を定義すれば、その能力を使うことができます。最高能力数が5ということに変わりはありません。』
「もうひとつ質問。同じような能力の場合、その強弱はどうしたら決まる?」
『回答。同じような能力だった場合、どちらがその能力を信じているかで決まります。』
「…つまり、信じているもの強いとか、気合があるほうが勝つとかそういうこと?」
『肯定。その通りです。』
「なるほど。能力に限界は?」
『回答不能。その質問には答えられません。代わりに主催者からの言葉を伝えます。『妄想しろ。それが現実となる』とのことです。』
「えーと、それだけ?」
『肯定。それだけです。そしてそれがすべてです。』
「…。そうか。」
勝利条件はモノリスを奪うこと。奪う、とは、自他共にそのモノリスの所有権が移行したと判断した場合である。
その場合、強がりなどで『貸しただけ』と言ったとしても無意識化で奪われたと思っていた場合は勝利条件を満たす。
また、片方に意識がなかった場合、意識がある者の認識が勝利条件を満たしているかの基準となる。
優勝条件は未発表。ただ、『参加者全員を倒す』ことでは優勝ではない。正確な勝利条件は、戦いが進んだら発表する。
参加人数は公表しない。
「聞きたいことは、とりあえずこのくらいか。ありがとう、ムラクモ。」
『疑問。なぜ今私に感謝をしたのですか?』
「…あー。感謝の気持ちが俺の中に芽生えたからだよ。『知りたいことに答えてくれてありがとう』と。」
『…。』
さて、今日はどんな天気かとカーテンを開ける。きれいな青空。澄み渡ったきれいな空。朝焼けとかではなく、日が昇った状態の青い空。
今日は水曜日。
もちろん学校がある日。
時計を見る。
11時。
…。
……。
………。
少し、熱中しすぎていたのかもしれない。