四話:参加条件
「ふげらっ!!」
白衣の男は変な声を出しながら面白いように吹っ飛んだ。
思いのほか力が入っていたらしい。多少手加減したつもりだったんだが。
「何をするんだネ!君は!!」
立ち上がって白衣の男がこっちを向いて吠える。なんか変な口調でイラッとする。
何だ。意外と大丈夫そうだ。ならもっと思いっきり殴っとくんだった。
「何だネ何だネ君は。参加者千人弱の中でこんなに早くに殴ったのは君だけだヨ!!」
「ぃやかましいっ!!」
ぐだぐだとこっちを向いて不満を言う白衣の言葉をぶった切る。
「おっそいんだよお前は!!」
「何が!君に会ったのは初めてだロウ!?何が遅いというんダ!!」
ぐだぐだと、いらん言葉を吐きやがって。
「…お前がこれをやったんだろ。この世界を変えたのはお前だろ?」
「そうだヨ、それが何だっていうんダ?元の世界に戻せとでも言「違う!!!」」
俺は白衣の言葉をぶった切る。
「待っていたんだよ。」
「…は?」
「俺はこんな、現実ではない非現実が俺のそばにくるのを待っていたんだよ!!」
「…」
「五年だ!中学でファンタジーな小説を読んでからずっと、いつかこんな世界がくるのを待っていた!!わかるか!?五年だぞ?中学生がもう高校二年だ!夢の中でも、誰かと遊んでいる時でも、好きな子が隣の席になった時も、寝ても覚めてもこの瞬間を待っていた。五年。五年間もだ。だから改めて言うぞ。」
息を思いっきり吸う。
「おっっっっっそいんだよ馬鹿野郎!!!!!!」
渾身の力で叫んだ。
のどが痛い。大声の出しすぎで声帯から血が出そうだ。
そう、俺はずっと待っていた。空想の世界に憧れてしまった。
だからその世界に行けることを夢見た。
言っちゃ何だがただ漫然と待っていたわけでもない。須藤の親父に稽古を付けてもらったりして強くなる努力もした。
召喚陣をかいたり、ヤンキー達の喧嘩に飛び込んだりもした。
親父に土下座で再婚して義妹を作ってくれと頼んだりもした。
食パンをくわえてわざと遅刻ぎりぎりに走ったことなど数十回もある。月に一度はやってたからな!
だけどそれでは地獄を見たり、骨を折ったり、おもいっきりぶん殴られたりなにもないまま学校に付いたり、何にも非日常はやってこなかった。
五年も待たされたのだ。それはそれはストレスが溜まっていた。
一年ほど前から召喚されたらその召喚士をぶん殴ってやろうと決めていた。
それが俺の、非日常での『最初にやること』と決めていた。
「あぁ…ナルホド。」
白衣がぽつりともらす。
「君は馬鹿なんだナ。」
「んだと!?」
「怒るなヨ、褒め言葉だヨ。」
そして、白衣の表情が変わった。まるで本物の医者のような、何かを見通すような眼をこちらに向ける。
「君は非日常に憧れている。」
「ああ。」
口調の変わった白衣に間髪入れずに答える。当たり前だ。中高生の一途な想いをなめんな。
「君は叶えたい願いがある。」
「もちろん。」
すでに非日常にいる俺は、一番の願いは叶った。
だけども、ここで終わるのは勿体ない。まだ終わりたくない。それが願い。
「妄想は好きか?」
「大好きだ。」
そうでなきゃ、早々にこんな夢は諦めている。
それを聞いて、白衣の男は目を細めてじっとこちらを見ていたが、ふっと顔を崩し。
「…君は、本当に馬鹿なんだなぁ。」
楽しそうに笑った。
「ならば君にはこのゲームに参加する資格がある!俺の箱庭で遊ぶことを許そう!」
白衣の男がそう言った途端、俺の中で何かが変わった気がする。よくわからないなにか。多分それは参加の許可証みたいなものなのだろう
「細かいルールは遊びながら覚えていけ。優勝賞品は『世界を書き換える力』。勝利条件は『モノリスを奪うこと』。優勝条件は…まだ秘密だ。」
そして白衣は右手をあげる。その手にいつのまにか巨大な銃が握られていた。いたるところから管の出た銃身。馬鹿でかい銃口。なぜか生き物を連想させる銃だった。その銃口を空に向ける。
「さぁ、今こそゲームの始まりを宣言しよう!」
「この世界では妄想したことが現実となる!日常を非日常が侵食する世界だ!力がほしいなら想像しろ!それがそのまま君の力だ!!信じろ、疑うな!君にはそれができる!!!」
「戦って、勝ち取れ!それでこそ得たものには価値がある!」
白衣が引き金に指をかけ。
―――――――楽しい楽しい舞踏会の始まりだ!!―――――――
号砲が響き渡り、あたりは光に包まれた。
なんだかもう、どうすりゃいいんだと。
プロットは大事だと理解しました。
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