一話:始まりの前日
『あなたの夢をかなえましょう』
そんなことが一面にでっかく書かれたチラシが配られていた。
いや、配られていたというのはちょっと違うかもしれない。
突然空から大量に降ってきた。
僕らが住んでいるのはひと昔前で言うベッドタウンというところだ。
都市圏に近く、交通の便も悪くないので一気に開発された新興住宅地。
日本全国に多数ある何のひねりもない街である。
それなりにレベルの高い大学が近くにあるからか、子どもの割合が他の場所に高く、小中高校も結構ある、というのが特徴だろうか。
その街の駅、中心部、ショッピングモールなどを中心にそのチラシは降ってきた。
その数一か所に千枚以上。
それが人の集まる場所に一気に降り注いだ。
しかも空を見上げてもそれを振りまいたであろうヘリコプターやら飛行船やらは全く見えないのである。
その不思議さと新興宗教かともとれる一面の文字にちょっとしたニュースになった。なぜかそのニュースに問題のチラシが映ることはなかったのだが。
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「で、これがそのチラシってわけです。」
学校からの帰り道、須藤がそんなことを言いながら、鞄から紙を取り出した。
「いや、突然『その』といわれても、何のことかわからな…なるほど。」
困惑しながら受け取ったチラシを一目見て、理解した。見たことはなかったがここ最近の学校での話題に上がらなかったことはない。
「よく手に入ったな。」
確か普段は腰の重い役所が驚くべき速さで一日で回収して、今は手に入れることも難しい、とか聞いたんだけど。
「うちの親父どの経由。」
須藤の父親は地方新聞社のデスク勤務だ。マスゴミやらなんやらいわれている職種の人だが、私は須藤の父親のことが嫌いではない。豪快な人で、どこかしらイっちゃってる時もあるけど、まぁなんだかんだ言って俺の師匠でもある人だ。
「ふうん、なるほど。あれ?でもこのチラシの写真とかは新聞に載ってなかったよな。」
そう、この地方では結構なニュースになったこのチラシ。新聞社に勤めている須藤の父親が手に入れたら新聞に載せないわけがないのだ。
「もちろんそれにはわけがあるんだな。ま、その話は君の家に行ってからにしよう。」
「なんだ?また来るのかお前。最近うち来るの多すぎないか?」
「それはまぁ君んち楽だし。腹減ったし。ところで沙羅ちゃんはいる?」
「いや。いないぞ。てかいい加減諦めろ。俺はそろそろあいつの兄貴として本気でお前と決着をつけなくてはいけない気がしてきた。」
「望むところだよん。どれだけ本気か見せてやるぞ?…だが今はそれよりもこのチラシだ。早く行くんだ友よ。」
「わかったよ。その前にコンビニに行こう」
「了解。」
そんなこんなで場所は俺の部屋に移る。
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少しここで俺らの説明をしよう。
俺の名前は黒峰 海里(くろみね かいり)。
それなりの進学校に通う高校二年生だ。
成績は中の上。運動の神経には自信がある。彼女はいない。今までもいなかった。畜生。
んで、俺の隣でカップラーメンを作っているのは須藤 渚(すどう なぎさ)。
いわゆる悪友。俺の妹を狙っているらしい。以上。
あえて言うなら…馬鹿。うん。それ以外にないかもしれない。
いわゆる平々凡々、そこらじゅうにいるモブのような存在と思ってくれていい。
それは俺も同じなのだが。
というか、今気付いた。
「そのラーメンは俺の隠していた非常食だよな。」
「うん」
須藤はそれが何が?みたいな顔をしていた。
「あぁ、俺のために作ってくれたのか。」
「うんにゃ、違う。情報量と思ってくれ。」
…そうか。それじゃ仕方がない。
「それに見合うだけのものはあると思ってるよん。とりあえずだ。まずなんで新聞に載せられないか、という話からだけど。」
「突然だな。」
「だらだら話してても仕方ないだろうよん。百聞は一見に如かず。写真を撮ってみればわかる。」
撮るものは何でもいいと須藤が言うので携帯のカメラを起動する。チラシを画面の中心に入れて、撮る。
…画像を見てみて驚いた。
「…真っ黒だな。」
「そ。隙間なく真っ黒。」
撮った画像に写っていたものは一面真っ黒な紙。これをチラシの写真といわれても信じられないだろう。
「どんな撮影機材を使ってもこうなるらしいよん。」
須藤の親父さんはいろんな撮影機材で試してみたらしい。しかしどんな撮影機材でも静止画、動画ともに取れなかったらしい。
なるほど、新聞に載らないわけだ。これを写真に載せてもどこぞのゴシップ記事にしかならないだろう。
「ニュースにできないものはクズだって。」
で、ここにあるわけだ。なるほど。
あらためてチラシを見る。
表にでっかく『あなたの夢をかなえましょう』の文字。その下には『夢を信じているあなたたちに、五日後の朝四時、何かが起こる。』
と小さな字で書いてあった。
裏を見てみたが、何も書いてない。
「え?これだけ?」
「いぇす。何が起こるのかもどこが発行しているのかも何も書いてない。ただそれだけ。」
…なんだそりゃ。何のために配ったんだ?
「さぁねぇ。親父どのはなんかのイベントの話題作りかなんかじゃないのかと言っていたけど。」
「でもどこでやるのかとかは、全く書いてないと。」
「そ。ちなみにあぶり出しとか水につけてみたりとか色々やってみたけどなーんも浮き出てきませんでした。なにせ親父どのに百枚ほど渡されたからねぇ。試せることは試しまくったよ。」
「なるほど。」
もう一度チラシを見る。二行しか書かれていないチラシ。
「…なんか、あれだな。」
「あれだね。」
そう、あれなのだ。このチラシからは。
「「面白そうなにおいがする。。」」
須藤と言葉が被った。
なんだろう、何かが起こるようなよくわからない期待感。それをこのチラシは醸し出している。
「どうする?」
須藤が聞いてくる。
…どうするとは?
「五日後っていうのが配られてから五日後ということなら、明日の朝だよ。」
なるほど、お膳立ては整っているということか。
「決まっている。朝二時にお前んちの前で。」
「了解っ。」
改めてチラシを見る。
きっと、何かが始まる予感がした。
「さ、そうと決まったらゲームだゲーム。今日こそ真を落としちゃる!!さぁ君もトップを狙え!!!!」
「どうでもいいが、お前ラーメンを忘れ「あにゃぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!でろでろのふにゃふにゃの伸び伸びにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」
…小説を書くのって難しい。
誤字脱字感想お待ちしております。