十話:咀嚼
忙しいことはいいことだ。
――――『略奪』発動――――
相手に拳を打ち込んだ瞬間に異物が流れ込んできた。そんな感覚。
体が跳ねるような拒絶感。思わずうめき声が漏れる。今までに何もなかった場所を、強制的にこじあけられる。
『能力』が暴れる。ここは私のいるべきところではない、と。能力の本当の持ち主のところに戻りたいと駄々をこねる。
体の中から食い破られる。このままだと俺は自壊していくだろう。それがわかる。
だけれども。
いやだからこそ、俺は思う。
舐めるな、と。
俺は略奪者だ。
略奪対象の好きにはさせない。
蹂躙し吸いつくし好きなように使い切り忠誠を誓わせる。
お前は俺のものだ。誰でもなく俺のものとなれ。
暴れまわる『能力』の手足を鎖と鉄枷で縛り付ける。暴れるな。諦めろ。
まるでメスを使って切り刻むように細部までばらす。細かく。僅かまでも。
『能力』を解き明かす。持ち主よりもさらに深く。見せろ。診せろ。
束縛し、解体し、理解する。
そして、異物を吸収する。自分の中に落とし込む。深く、深く。さらに深く。
異物が完全に俺と一体化する。すでにそれは異物ではなく、俺の能力となっていた。
能力名『自由自材』
それが俺、黒峰海里が略奪した最初の能力だった。
「起きろ!!」
その言葉で意識を取り戻す。
俺はいつの間にか膝をついていたらしい。目の前にはヤンキーの背中。その右手には絡んできた男の一人が襟元を掴まれて宙づりになっていた。確か、釘バットを持ってた奴だ。今は気道が閉まっているのか苦しそうにもがいているが、ヤンキーは微動だにしない。
そしてその釘バットの男がヤンキーに掴まれているために、男達は攻撃ができないでいるようだ。
「悪い、助かった。」
俺はそう言いながら立ち上がる。
頭を振って意識をはっきりさせる.
「どのくらい…」
俺は意識を失ってた。
「20秒くらいだ。血の気が引いたよ。相手を殴ったと思ったら突然倒れたんだからな。なんか見えない攻撃でもされたのかと思ったぜ。」
その割には全く怪我とかもなさそうだからよくわからんかった。とヤンキーは言う。
致命的。
略奪するためにはその時間が必要で、その時間は無防備になる。もしかしたら慣れてくることで短縮できるものなのかもしれないが、現段階でその20秒という時間は大きな隙となる。
いろいろと考える必要があるな。
俺はそうまとめ、改めて周りを見渡す。
ヤンキーは釘バット含めて二人倒したらしい。立っているのは最初のカマキリと銃使いだけだった。
「で、大丈夫なのか?」
「問題は…なさそうだ。それより右手の男がやばそうだぞ。」
「ん?お、マジだ。やばいやばい」
ヤンキーにつりさげられていた男(釘バット)はぐったりして泡を吹いていた。ヤンキーが男を投げ出す。まぁ、死んではいないだろう。
「さて、俺はリーダーのあいつを倒すが、銃のほうはお前に任せたまんまでいいんだな?」
ヤンキーが聞いてくる。…もしかして心配しているのか?
「大丈夫だ…な。試したいこともあるし。任せろ」
「任せた」
そして俺らは自分の相手のほうに走りだした。
銃を構えたままの男がトリガーを引く。その銃の形態は突撃銃。
一分間で何十発という性能の銃から吐き出された弾が俺に向かって打ち出される。
前に。
「練成」
俺は新しい能力を発動した。
短い。
誤字脱字感想指摘、なんでもお待ちしています。