九話:初戦
最初に動いたのは金髪の男だった。
「無視してんじゃねぇって…」
金髪から俺達までの距離は約5m。その距離すら全く問題としないほどに肥大化した両腕。その先にはナイフが変化した巨大な刀。それをゆっくりと上げ。
「言ってんだろうが!!」
思いっきり振り降ろした。
刀が地面にめり込み、数メートルに渡って亀裂が走る。これは凶悪だ。当たれば一撃で致命傷。それこそミンチになるのだろう。驚異的な破壊力。
…でもまぁ。
「当たらなければ問題ない、と」
ヤンキーも俺も、危なげなくよける。スピードが遅く、直線的なのだ。よけることはそう難しくない。それに俺個人としては、『地面を割るような強力な攻撃』というものは正直見慣れている。
「はっはー!これ当たったら死んじゃうんじゃないか!?いいね!いいねぇ!!普通の喧嘩じゃ味わえない緊張感!!楽しいなぁ!!!」
横を見るとヤンキーが笑っていた。その言葉通りの本当に楽しそうな表情で。
「あいつは俺の獲物でいいんだよな!」
「そうだよ。そいつはお前担当。」
金髪が刀となった腕を引く。その影から釘バットを腰だめで構えた男が飛び出してくる。そのまま腰の位置から振り上げ、俺を狙って振り下ろす
前に。俺の前にヤンキーがいた。
男は一瞬驚いた顔をしたが、知ったことかと釘バットが振り下ろされる。
それにヤンキーが拳を思いっきり叩きつけた。
…釘バットが折れ飛んだ。
……そんな無茶苦茶な。
「こいつと。あと、あっちのハルクも俺の獲物だったよな。」
「あぁ、そうだよ。…どうでもいいが痛くねぇのか、今の。」
「何が?」
ヤンキーがあっけらかんと言う。あぁ、なるほど、常識から少し外れてんだな、こいつ。
釘バットを折られた男は少し後ろに下がり、ぶんと折れたバットを振ると折れた釘バットは元通りになった。
それを見てヤンキーが、いいねぇ、簡単にやられちゃつまらないとばかりににやりと笑った。
「さぁて!かかってこいやぁ!!」
ヤンキーから立ち上る陽炎が揺らぎを増す。実際熱とかそういう系の能力者なのだろうこいつは。近くにいるだけでだいぶ熱い。…いろんな意味で。
まぁいい。どうせ巻き込まれた喧嘩だ。肩慣らしでもいい。確かにヤンキーの言うとおり、楽しまなきゃ損だろう。
足元にあった石を二つ拾い、軽く投げる。一つは黒木刀にたたき落とされたがもう一つはヤンキーに気を取られていた銃を持った男の頭に軽く当たった。
睨みつけてくる二人。
「お前ら二人は俺が相手だ。」
言いながら構えをとる。半身になって腰を落とす。右手を手刀の形にして顔の前に。左手は腰の位置で軽く握る。
それを見た男が銃を構える。男が黒木刀を斜め下に構える。
「来いよ、雑魚。せめて少しでも俺のためになることを祈ってやるよ。」
「…ふざけんじゃねぇぞぁぁぁぁ!!!」
それを聞いた男達は一気に頭に血が上ったらしい。黒木刀を持った男が一直線に走りこんでくる。
…狙いどおりである。
さすがに今まで結構な人数との喧嘩に巻き込まれたことはあるとはいえ、飛び道具を使った奴との喧嘩はそうそうない。あえて言うのならば改造ガスガンで撃たれるくらいだ。
その圧倒的に経験が少ない俺は、遠距離からの攻撃というものを何とか少なくしたかった。
だから近距離攻撃しかないであろう黒木刀の男を突っ込ませたのだ。
そうすればまぁ、同志討ちを恐れてこっちに銃弾を撃ち込んでくることはないだろうと思ったのだが。
「機構変形 遠距離」
男の持っていたどでかい銃が変形を始める。あえて言うなら形状的には機関銃に近いものから、細身で銃身の長いものへと変化する。
それをスッとこちらに向けた。
とたんに体中に悪寒が走る。…あれはマズイ。よけなければいけないと頭が考えるよりも先に本能が体を動かす。体をひねり、射線から体をずらす。
その瞬間、顔の横を高速の何かが通り過ぎた。
危なかった。今のは割と危なかった。一瞬でゲームオーバーになるところだった。安堵感により気が緩みそうになるのを引きしめる。すぐ目の前には黒木刀の男。その手に持った黒木刀がうなりをあげて俺に襲いかかる。
銃弾をよけた影響で体勢を崩した俺はそのまま体勢を思いっきり崩して地面に転がりそのまま男から距離をとる。
「機構変形 連射」
その声にいやな予感がした。銃を持った男に目を向ける。細身で銃身の長い銃が変形していく。大きな機構を持ち、六本の銃身を持つ。その銃身が回転、交互に使用されることにより熱くなって変形することを防ぐ特徴的な銃。シュワちゃんが使ってたり、某ゾンビゲームで有名になった銃である。
特徴。
すさまじいまでの連射性能を持つ。
――勘弁!!
全力ダッシュする。さすがにあれを発射されたらたまったもんじゃない。射線とかそういうもんじゃないのだ。
弾を打つ反動によるブレと、異常なほどの連射性能が線での攻撃ではなく面の攻撃となる。
つまり非常に避けづらい攻撃となってしまう。
今みたいに射手から離れていると避けながら近づくというのは無謀に近い。こっちは避けるために大きく動かなければいけないのに対し、反動が凄いとはいえ射手は少し射線をずらすだけで弾を当てることができるのだから。
俺は全力で相手に近づく。銃を持ったほうじゃなくて、黒い木刀を持ったほうに。
面でしか攻撃できないということは、それはつまり精密射撃ができないということ。
味方のいる方向には撃てないということだ。
黒木刀に肉薄する。これでもう銃を持っているやつはこっちに簡単に攻撃はできまい。さっきの狙撃銃による攻撃は意表を突かれたが、細かく動けば問題はあるまい。黒木刀の男から離れなければとりあえずは銃の男を気にせず戦える。
つまり黒木刀を倒すことさえ考えてればいい。
そして、俺は木刀相手には腐るほどの喧嘩をしてきた。
須藤ならいざ知らず、そこらへんの素人に負けるほど弱くない自信がある。
突然自分のほうに走ってきた俺を見て黒木刀の男が焦る。それでも必死で右手に持っている黒木刀をふるった。
「遅い。」
須藤に比べるとあまりに遅い。型も何もない素人の振る木刀は予想がつかない分危険なこともあるのだが、それでもその遅さはあまりに致命的過ぎた。
振り下ろしてきた黒木刀を握っている右手に俺の手を添え外に力の向きをそらす。男は自分の振った黒木刀の慣性に引きずられ、体勢を開く。その腹側に滑り込む。
「俺の名前は黒峰海里」
右拳を握る。左手は相手の右手に添えたまま。
「君は俺の能力を使う第一号だ。」
腰をひねる。力をためて。
「悪いな。」
男の鳩尾に拳を突き刺した。
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