無能だからと追放された空間魔術師、実家(魔界)の片付けを手伝ったら、人間界が滅びかけていた件について
数ある作品の中から本作を見つけていただき、ありがとうございます!
「空間魔術しか使えないから」と勇者パーティをクビになった主人公が、実家に戻ってのんびり大掃除を始めたところから物語は始まります。
本人はただのゴミ掃除のつもりですが、捨てた場所(人間界)は大パニックに……!?
勘違いと圧倒的スケールで贈る、お気楽コメディファンタジーです。
少しでも「クスッ」と笑っていただけたら幸いです。
それでは、どうぞお楽しみください!
「アイテムボックスしか使えない無能が。お前みたいな荷物持ち、我が勇者パーティにはもう不要だ。今すぐ出て行け!」
王都の高級酒場。
勇者ゼオスは、仲間たちの前で俺にそう言い放った。
彼の手には、俺が今まで管理していたマジックバッグが握られている。
「でも、俺の空間魔法がないと、今後の遠征で物資の運搬が……」
「ハッ、そんなもの、この店で買った高価なマジックバッグがあれば十分だ! お前への給料が浮く分、こっちの方が安上がりなんだよ。おい、お前らもそう思うだろ?」
ゼオスの言葉に、魔術師の女や戦士の男がゲラゲラと下品に笑う。
誰も俺をかばおうとはしなかった。
「……分かりました。そこまで言うなら、俺は出て行きます」
俺は静かに席を立った。
怒りはない。あるのは、深い、深〜い安堵感だけだ。
「ふん、負け惜しみも見苦しい。さっさと消えろ、無能が!」
背後から飛んでくる罵声を無視して、俺は酒場を出た。
「ふぅ……。やっと社会勉強が終わったぞ。人間って本当に傲慢だなぁ」
俺の名前はルーク。
人間の姿に変装して暮らしているが、その正体は――魔界を統べる魔王の息子だ。
父上から「少しは人間の社会を見てきなさい」と言われ、一番手っ取り早かった勇者の荷物持ちをしていただけである。
「よし、実家に帰ろう」
俺は路地裏に入ると、指をパチンと鳴らした。
空間が裂け、禍々しい紫色のゲートが現れる。
俺は迷わず、その中へと飛び込んだ。
◆
「ちょっと、ルーク! 帰ってきたのはいいけど、この部屋は何よ!?」
魔界の実家に帰還した翌日。
自室でゴロゴロしていた俺は、母親(魔王妃)にドアを勢いよく開けられ、烈火のごとく怒られた。
「え? 部屋がどうかした?」
「どうかした、じゃないわよ! ガラクタだらけのゴミ屋敷じゃない! 今日中にここを全部片付けなさい。じゃないとおやつ抜きだからね!」
母上はそれだけ言うと、バタンと扉を閉めた。
「ゴミ屋敷って言われてもなぁ……」
見渡すと、確かに部屋には色々なものが散乱している。
かつてオモチャ代わりにしていた『古代の自律型・自動破壊兵器(壊れかけ)』。
幼少期に暇つぶしで集めた『触れた者を狂わせる呪いの宝飾品』。
魔界の学校の授業で作った『大地を焦がす戦略級魔導爆弾の失敗作』。
どれも魔界の基準では「ただのガラクタ」や「燃えないゴミ」だ。
「捨てるのめんどくさいな……。あ、そうだ」
俺は名案を思いついた。
俺の固有スキルは【次元隔離・極空魔法】。
人間たちには「ちょっと容量の大きいアイテムボックス」だと思われていたが、実際は世界の境界すら自由に繋げられる神級の魔法だ。
「人間界の、誰もいない適当な場所に空間を繋げて……と。よし、ここにポイポイ捨てちゃおう」
俺は部屋の壁に、直径2メートルほどの黒い穴(ゴミ箱代わりの空間の裂け目)を作り出した。
「まずは、この場所を取る自動破壊兵器から」
よいしょ, と俺は禍々しい巨体を穴の中に放り込んだ。
続いて、呪いのネックレスや、爆弾の失敗作も、次々と穴へ放り込んでいく。
「ふぅ、一気に片付いていくぞ。掃除って楽しいな!」
俺は鼻歌を歌いながら、実家の部屋をピカピカにしていった。
◆
一方、その頃。
人間界の【最果ての魔迷宮】と呼ばれる超難関ダンジョンの最深部。
「ハァ、ハァ……っ! な、なんだよこの魔物の強さは……!?」
勇者ゼオスは、血反吐を吐きながら地面を這いつくばっていた。
ルークという荷物持ちを追い出した彼らは、完全に調子に乗っていた。
だが、ルークがいなくなった途端、パーティの歯車は狂い始める。
ルークの空間魔法は、ただの荷物持ちではなかった。
常にパーティの周囲に目に見えない防御結界を張り、夜営のたびに快適な空間を隔離して提供し、さらにはあらゆるトラップを無効化していたのだ。
そんな「神級のサポート」を失った勇者たちは、ダンジョンの過酷さに一瞬で摩耗した。
高級マジックバッグはすぐに容量がいっぱいになり、水も食料も尽きかけ、満身創痍でここまで追い詰められていた。
目の前には、ダンジョンのボスである巨大な邪竜が、狂暴な眼光でゼオスたちを睨みつけている。
「う、嘘だろ……。ここで、俺たち勇者パーティが全滅するのか……!?」
ゼオスが絶望に顔を歪めた、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
突如、邪竜の真上の空間が、バリバリと音を立てて紫色の裂け目を作った。
「な、なんだ!? ボスの第二形態か!?」
ゼオスたちが目を見開く中、その空間の穴から、信じられないものがドサドサと降ってきた。
ドガァァァン!!
「グギャァァァっ!?」
最初に落ちてきた「超巨大な鋼鉄の塊」が、邪竜の頭部に見事に直撃した。
それは魔界の自動破壊兵器だった。壊れかけとはいえ、人間界の基準では伝説の古代遺物を超える超兵器である。それが暴走状態で落下し、大爆発を起こした。
「ぎゃあああ!? な、なんだあの威力は!?」
爆風で吹き飛ぶ勇者たち。
だが、空からの『ゴミのポイ捨て』は止まらない。
バラバラバラバラ……!
次に降ってきたのは、無数の呪いの宝飾品だ。
あまりの邪気の濃さに、ダンジョン内の魔力が一瞬で狂い、周囲の魔物たちが狂乱して仲間割れを始める。
「ひ、ひぃぃ! 目が、目が狂う! 頭が割れそうだ!」
「ゼオス様、助けて、助けてぇぇ!」
魔術師の女や戦士が、呪いの波動を受けて錯乱し、泡を吹いて倒れていく。
そして極めつけに、怪しく明滅する真っ赤な球体が落ちてきた。
ルークが捨てた『戦略級魔導爆弾の失敗作』である。
それは地面に激激突した衝撃で、完璧に作動した。
「あ、あれはヤバい、絶対にヤバ――」
ゼオスがそう確信した瞬間。
ドゴォォォォォォォォォォン!!!
ダンジョンの最深部が、眩い閃光と共に吹き飛んだ。
邪竜も、ダンジョンの壁も、そして勇者パーティの装備もプライドも、すべてが文字通り粉砕された。
かろうじて即死だけは免れたゼオスは、消し炭のようになりながら白目を剥いた。
(神よ……。俺たちが、一体、何をしたって言うんだ……!)
勇者ゼオスは、自分たちがなぜこんな天罰のような目に遭っているのか、生涯理解することはなかった。
◆
「よし、綺麗になった!」
魔界のルークの自室は、見違えるほどピカピカになっていた。
「ルーク、お疲れ様。部屋、綺麗になったじゃない。これ、約束のおやつよ」
母上が嬉しそうに、魔界特産の特大プリンを机に置いてくれた。
「わーい、ありがとう母上!」
さっそくスプーンを持ってプリンを食べ始める。うまい。
「あ、そういえば、さっきのゴミ箱(空間の穴)、閉じるの忘れてたな」
俺はプリンをモグモグしながら、壁の黒い穴を覗き込んだ。
向こう側(人間界のどこか)からは、なぜか大爆発の爆音が響いており、聞き覚えのある「ぎゃああああ!」という人間の泣き叫ぶ声が微かに聞こえてくる。
「お、人間界は今日も賑やかだなぁ。お祭りでもやってるのかな?」
俺は特に気にすることもなく、パチンと指を鳴らして空間の穴を完全に閉じた。
無能と罵られて追放されたけど、実家は快適だし、プリンは美味しいし、やっぱり実家が最高だ。
俺はこれからも、魔界でのんびり、気ままに暮らしていこうと思う。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
本人はただの実家のお片付けのつもりでしたが、人間界にとっては大災害。
そんな主人公の無自覚な規格外っぷりと、巻き込まれた人間界の受難を楽しんでいただけていたら幸いです。
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