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第8話 容赦ない※リネア視点※

「お許しください聖女リネア様」


 クレーネ様やその従者が私の身体の前で土下座している。

 その声は震えていて、瞳には恐怖の色が浮かんでいるのが私でもわかった。

 私の身体の人がクレーネ様に呼ばれて部屋についてから……本当に酷い光景が広がっていた。最初は私の身体の人が酷い事をされると心配したのだけれど……。


 酷い暴力を振るわれたのはクレーネ様と従者の人だった。

 一通り暴力が終わると、回復魔法で回復させて、従者とクリーレ様にクレーネ様が私にやった紅茶をこぼしてやけどにするのをそのままやり返していたのだ。


(……もしかして、私の記憶があるのかな?)


 細かいことまで私がやられたことと全部同じの嫌がらせを彼女らにしていた。

 私が言われたセリフまでそのまま、クレーネ様や従者に全部やり返している。

 第三者視点で見るとあまりにもひどくて、思わず隣の部屋に逃げてしまうほどだったのだ。


「どう、わかった?私に逆らったらどうなるか?」


 私の身体の人が、がんっと目の前で従者の人を蹴り上げる。

 痛そうで、私は思わず目をつぶった。


「はぃっ!!」


 裏声に近い形で従者たちが返事をし、クレーネ様はびくびくと震えて土下座しながらうなずいている。


「それじゃあ、今後貴方達が私に何をすればいいかわかっているわね?」


 私の身体の人が言う。


「な、何をしたらいいのでしょうか?」


 頭を床にすりつけならがクレーネ様が問う。


「貴方は実家からのお金しか取り柄がないのですもの。私に実家から送られてくるお金を全て渡しなさい。実家からもってきた宝石などもぜ・ん・ぶ♡」


「で、でもそれでは私の生活が……」


 クレーネ様が上目遣いに訴えようとして、私の身体が殺気のようなものを放っているのを感じ取り


「は、はい!!かしこまりました!!リネア様!!」


 また、ごつんっと頭を地面に擦り付けた。

 

 ……な、なんかすごい。

 這いつくばるように土下座しているクレーネ様と従者たちを見つめ、私はでるはずのない冷や汗をかいた気がした。




「~♪~~♪」


 私の身体の人が歌う鼻歌が部屋に響いた。

 あれから自室に戻って、私の身体の人は機嫌よく鼻歌を歌っている。

 その鼻歌は私の知らない歌で、聞きなれないリズム。

 この人は一体どういう人なのだろう?

 クレーネ様をねじ伏せて、かなりの金品をもらってきたみたいで、嬉しそうにジャラジャラと、お金と魔石を鳴らして鏡をいじっている。

 魔石は魔力がこもった石で、魔道具を動かしたり、魔道具を作ったり、魔力を補充する石で、質によって値段は大幅にかわるが、私の身体の人がもっている魔石はかなり高いはず。聖女の給与など一瞬で吹き飛ぶ金額のはずだ。私は他の人が魔道具に使っているのを見たことがあるくらいで、触ったこともない。

 それくらい貴重なものをあんなにたくさん持っていたなんて、やっぱりクレーネ様はお金持ちなんだなと感心してしまう。そしてそのクレーネ様をひれ伏して、巻き上げてしまう、この人はもっとすごい。

 でもあんなに強くて、あんなひどいことが出来てしまうのは魔族じゃないかと不安になる。


(死んで魔族に体をのっとられた……?)


 でも魔族は人間をのっとるときに魂を喰らってしまうと書物に記載してあった。

 私はなんとか魂は無事みたいだし……。

 そう思って、自分の身体を見ると、体は透けていて、自分の本当の身体から何か紐のようなものがでていて、私の身体と私の魂とを繋いでいる。

 ……私はどういう状況なんだろう。

 自殺をしておいて、こんな事を思うのは駄目なのはわかっている。でもこんなわからない状態になってしまった事実に泣きたくなる。誰も私の存在すら感知してくれない。


 ああ、でも私にぴったりなのかもしれない。

 無能で役立たずで――誰からも認められてもらえない存在。

 愛し合っていたと思っていた人も私など見ていなかった……。

 そして無責任にもなんの責務も果たさず自殺した。

 誰にも認識されずむなしく彷徨うこの罰は私にぴったりなのかもしれない。


 そんなことを考えていると


「よし、出来た!」


 嬉しそうな声をあげて私の身体の人が何か呪文を唱えたあと、鏡をとりだした。

 そしてその鏡を私に向け――そこに映っていたのはぼんやりとした白いものだった。輪郭がなんとなく人型で、私が動くと一緒に動く。


 ――もしかして、私?

 私が手を振ってみると、鏡の中の白いぼんやりとした人型のものも手を振っている。 


 私だ!


 嬉しくて、私の中の人に視線を向けると、「やっぱりね」と私の中の人は頷いた。


「貴方はリネア?」


 鏡の中の私に、私の身体に入った人が問いかける。


「はい!!そうです」


 私が答えるけれど、私の身体の人は小首をかしげたあと


「この魔道具声は聞こえないからジェスチャー……動きで教えてくれる? 輪郭がぼやっと映っているだけだから表情もわからないので口パクも無理ね。正解なら右手をあげて、違うなら左手をあげる。OK?」


 そう言われて、私は慌てて右手をあげた。

 久しぶりに人と意思疎通が出来て嬉しい。


「私はレティア。寝て起きたら貴方の身体に入っていたの。貴方の事は記憶が体にのこってたからわかるんだけど、どうして私の魂が貴方の身体に入って、貴方がそんな状態になっているか説明できる?」


 その問いに私は左手をあげた。

 私も自殺して目が覚めたらこの状態だったので説明できない。


「なら、自殺したらこの状態になったってことであっている?」


 レティアさんの問いに私は右手をあげてはいと答えた。


「私の思っている事は声にしなくても伝わるの?」


 左手をあげると、そのあともレティアさんは私に問いを続けた。

 レティアさんの説明でだいぶレティアさんのことがわかった。


 レティアさんは別の世界の優秀な魔法使いだったらしいこと。

 お互い何故このような状態になったかわからないこと。

 そして戻る方法もどちらも見当すらつかない状態である事実。


「……どうにか戻る方法を探さないとね」


 レティアさんが考えるポーズをとって言う。私も右手をあげて頷いた。




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