第五話 そこにいる?
「リネア様、お茶をお持ちいたしました」
豪華な調度品の揃った部屋で、リネアに憑依したレティアに神殿の侍女がお茶を運んでくる。
この侍女はアレスが新たに用意してくれた侍女なので嫌がらせをしてくることもない。
「ええ、ありがとう」
レティアは礼をのべてそのお茶を受け取った。
侍女が頭をさげ部屋を後にしたのを確認すると、レティアは外に視線を向ける。
外に生い茂る木々はレティアの知識にはない品種ばかりだ。
(どうしてこんな事になったのかしら――)
話は三日以上前に遡る。
レティアは自らの研究所で魔道学では解明されていない領域、『幽体』の研究をしていた。
古代滅んだ文明の幽体離脱の魔道具を復活させ、その魔道具のスリープ装置に入ったのである。その装置で幽体離脱するはずか、なぜか離脱した途端異世界の女の子の身体に入りこんでしまった。
レティアが入った女の子はリネア。この世界では聖女と呼ばれているらしい。
(この世界では『神聖力』を使える女性を聖女と分類しているようね――)
レティアの世界でもあった力で、彼女の世界にもそれなりにその力をもつものはいた。だが農作物の実りは魔道具で管理していたのでこの世界ほど貴重な力ではない。この世界で「聖女の力」と崇められている力は所詮魔道具で代用できる力だ。
この世界は主食の作物の実りを加護などという、脆弱な力に頼っている。
作物の育て方はあまりにも原始的だ。肥料など与えてないし、ただ種をうえ、作物が実ったら聖女に祈らせて、枯れかけた作物も神聖力で蘇らせているだけ。だから聖女の力が必要になってしまっている。
(どうやったらこんな歪な農作物の育て方になるのか不思議)
200年前の神族と魔族との争いで世界が荒廃したときに知識人も技術も滅んでしまったらしいが、それから200年もあるのに農業が発展しなかったのは、レティアから見たら疑問でしかない。
そもそも『豊穣の力』のギフトは大神の第三の娘豊穣の女神アルテイナの寵愛をうけたものが使える力で、授かる人数は極めて少ない。そのうえ、気まぐれで授けない時もあるのだ。そんなあやふやな力に人類の存亡がかかる実りを預けているのは危険としかいう他ない。
現在リネアはカミラに神聖力の一部は奪われている。
カミラの瞳を金色の瞳ともてはやしているが、あれはレティアの世界では他者の能力を奪う魔族の力だ。カミラはリネアの『豊穣の力』の中の『実り』のギフトを奪い取ったにすぎない。
リネアが実りの力を使えないのはカミラに『実り』の力を奪われたからだ。
(確かに世界は違うけれど、この世界を作った大元の神、大神は一緒。魔族や神族のシステムは変わらないはず――つまりカミラの裏には魔族がいる)
なんてすばらしいことだろうと。レティアは頬を染める。
最初はこの身体になって最悪だとは思ったが、大賢者だったころのレティアは強すぎて、歯向かってくる相手を叩き潰すのがイージーモードすぎた。
弱い立場から相手を叩きのめす縛りプレイ悪くない。
リネアの身体は魔力が低くて、本来の力の半分もだせないが、それもまたプレイの一環だと思えば許容範囲だ。相手が魔族の力を使っている以上、手加減や容赦などという言葉はいらなくなる。大事なのは実際カミラが悪なのかではない。自分の中でぶちのめす大義名分があればそれでいい。
魔族の力を使ってる=そうだ叩き潰そう。
が、レティアの中の歪んだ正義で成立したらそこで制裁発動の条件になる。
(本来の世界じゃ無双しすぎて、誰も私に逆らわなくなってたから退屈してたのよね。新世界&縛りプレイで報復活動ができるとか最高すぎない?)
そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
レティアの言葉に扉が開かれ、入って来たのは大神官のアレス。
この神殿で10人いる大神官のうちの一人だ。神殿のTOPは教皇で帝都にある中央神殿ではその下に枢機卿3人に大神官10人となっている。大神官アレスは軽く会釈し挨拶を交わしたあと、レティアの手をとった。
「体調はどうですか?」
「はい。おかげさまで」
「リネア様を害した使用人や料理長などはこちらで処罰いたします。このような事になって大変申し訳ありませんでした。回復の魔法をかけますのでこれで毒は抜けきるとおもいます」
そう言って魔法を唱え始める。
リネアに嫌がらせをしていた侍女達は全員処罰されたとは聞いた。
毒は死ぬ量ではなかったので、一生、処罰室暮らしになるとのこと。
まぁ、処罰室のなかでももっとも過酷な所に送られる事になるらしいが、自業自得だろう。
「いえ、助けていただいて感謝しております。神の祝福がアレス様にあらんことを」
リネアが言いそうなセリフを選んで言うと、アレスは目を細めて微笑んで――。
レティアの後ろを見て目を細めた。
「何か?」
レティアが聞くと、彼は首を横に振り「なんでもありません」と立ち上がる。
「侍女は新しい優秀な侍女を複数用意しますので、何か不都合がありましたら私に連絡してください」
そう言って頭を下げてアレスは部屋から出ていった。
レティアはアレスが見ていた方に視線を向ける。
そこには特に何もなく部屋の壁があるだけだ。
けれど――。何か気配を感じる気がする。
「ねぇ、そこにいるの? 本物のリネアさん?」
レティアはそこに向かって問いかけた。
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現在58話までざっと書きあがっています~!
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