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第三話 ざまぁ>命


「まったくめんどくさい」


 帝都の神殿に勤める、侍女のミダはため息をついた。

 聖女リネアが見晴らし台の近くで気絶していた。そう連絡がはいったのは夕方のことだ。医者に診察してもらったあと特に異常はないとのことだった。その後、リネアは何事もなく目を覚まし、リネアが夕飯を希望したので持っていくことになっている。


(どうせ悲劇のヒロインでも気取って同情してもらうためでしょう?)


 リネアがこの神殿に来る前、帝国の神殿にいたのはカミラだった。

 カミラからリネアがいかにカミラを虐げていたか、そして卑怯な手を使って力を奪い皇子の婚約者になったのかそのいきさつを聞いている。神殿では有名だ。

 神殿上層部は聖女の力を奪う方法などないと、否定しているが、カミラ信者はそれを信じる者はいない。きっと何か方法はあるはずなのだ。


(カミラ様の力を奪って聖女になっていたニセモノ聖女がいい気になって)


「ほら、食事をもってきたわよ。」


 窓の外を眺めていた、リネアにカチカチになったパンとどろどろの気味の悪い色のスープを差し出した。リネアはそれを一瞥したあと、再び窓に視線をうつす。


 いつもならオドオドとしながら礼をいって席につくのに、リネアの小ばかにした態度にミダはむっとした。


「速く食べなさいよ。ちゃんと食事をしたか見てないと私が侍女頭と料理長に怒られるんだからさっさとしてくれる?」


 ミダがそういうと、リネアはふっと笑い、興味なさそうに窓の外を眺めていた。


「なんなのよ!その態度は!偽聖女のくせに!」


 ミダの叫びにリネアは視線をミダに戻すと、食事の席についた。


「最初からそうすればいいのよ」


 ミダの言葉にリネアはミダを見つめたあと。


「ねぇ、これ何か覚えてる?」

 

 そう言ってリネアが持ち出したのは植物用の殺虫剤で、人間が飲むと死にいたるものだ。以前死ねばいいのにとふざけて渡したことがある。

 あの時は今にも泣きそうな顔で面白かったが、今のリネアは薬瓶を持って楽しそうにニマニマと笑っている。

 

「そ、それがどうしたのよ?」


「神殿は薬を申請して持ち込むから、誰が買ったか、そして持ち込んだか、神殿の審問会が調査すればすぐわかる。知っていた?」


 スプーンでスープをかき混ぜてリネアが上目遣いで聞いてきた。


「そんな事知っているわよ。私だって申請してもらったんだから。私を馬鹿にしているの?」


「そうね。馬鹿ね」


「な!?」


「だってそうじゃない? これを今私が飲んで死んだ場合、犯人はあなたになるんだもの」


 そう言ってスープにドバドバと薬を入れ始める。


「ちょ!?貴方何しているのよ!!」


 思わず薬の瓶をとりあげようとしたが――ばんっと、何かにはじかれリネアに近づけない。


「な、なんなのよ。これ」


「聖女の防御壁って便利ねぇ。豊穣の力は使えないみたいだけどこれは使えるっぽい」


 そう言いながら、リネアはかちかちになったパンをちぎり、スープにパンを浸した。


「や、やめなさい!!そんな事してどうなるかわかっているの!?」


「そうね。死ぬかしら?そしたら貴方は一体どうなるでしょうね」


 スープのたっぷりついたパンをひょいっと持ち上げてミダを見る。


「最悪なら聖女毒殺。たとえ殺意がなかったことが証明されたとしても、聖女の手に入りやすいところに毒物をおいて自殺された、それだけで聖女で使える侍女が裁かれるには十分な理由じゃない?」


 リネアの言葉に、ミダの顔が真っ青になる。

 リネアの言う通りだ。ミダが食事を最後までちゃんととっているか見張るのも、リネアが栄養失調などになれば、神殿の管理責任を問われるからだ。だから食事だけはちゃんととるように見張れと命をうけている。スープもまずく作ってはあるが、栄養はあるもので体に害があるものではない。

 体調管理をしなければいけないのはリネアには第二皇子と婚約して北部へ行くという重大な役割があるためだ。


(体調管理を任されていたリネアが死んだら、私も私の家族もただじゃすまないわ)


「や、やめて!!私が悪かったわ!!じょ、じょうだんよね?自殺なんてするわけないでしょ?」


 ミダががくがくと震えながリネアを制止しようとするがリネアは邪悪な笑みを浮かべる。


「残念♡ 私ね、相手に嫌がらせをするためなら自分の命も惜しくないタイプなの♡」


 そう言って毒スープのついたパンを嬉しそうに口に含んだ。


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