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第16話 お金がないなら稼げばいいじゃない(極論)

※リネア視点※


「第二皇子ウィル殿下がいらっしゃいました」


 祈りの儀式を終えた次の日の朝。私とレティアさんは婚約者予定のウィル皇子の元へ向かった。

 庭園で待たされたあと、第二皇子ウィル皇子が従者の人に連れられてやってくる。

 ウィル皇子は皇帝陛下が遠征先で見染めたガルザ族の女性との間に生まれた庶子だ。

 けれどウィル皇子の母親は10年以上前に病で亡くなってしまい、皇帝陛下が10年前病に伏せてからは第一皇妃ミネルバ様が実権を握っている。そのため、ウィル皇子が表舞台にでてくることはない。わがままで横暴。そう噂で聞いている。


 青い髪、赤い瞳の青年で、年齢は確か私と同じ。不貞腐れたような表情で、「どうも」と挨拶をした。


 従者の人が挨拶をしたあと、なぜか侍女も警備兵すらも一斉に去っていき、私についてきてくれたはずの神官達まで一斉に引き上げていく。庭園にはレティアさんとウィル皇子。それに私の三人しかいない。アレス様もお仕事があるので席をはずしている。


 従者どころか警備員も去っていったのは、お前達など誰も興味がないという事を示している。帝国の貴族は、何よりも見栄を重要視する。放置された皇子というのをわざわざ示しているのだ。そして、護衛をひきあがらせるほどの権力をもっているとの誇示でもある。貴族に対する最大級の嫌がらせに私はため息をついた。


 私の中身がレティア様だから泣かないけれど、私がこれをやられていたらきっと、傷ついて泣いていただたろう。


「はじめまして。ウィル殿下」


 レティア様が挨拶するけれどウィル皇子はぶすっとしたまま、椅子に一人で座る。


 本来なら女性をエスコートしてから席につくはずなのに、それをしなかったウィル皇子に怒ることなく、レティア様が微笑んだ。ちょっと意外だと思いながら眺めていると


「なぁ、お前らふざけているのか」


 と、ウィル皇子は不満げにうめいた。


「お前ら?」


 レティア様が目を細める。

 私もその言葉にはっとなった。


「同じ顔の似たような恰好をしたやつが二人立っていてどうやってエスコートしろってんだよ。間違えさせて恥でもかかせたいのか?随分やることが陰湿だな」


 皇子の言葉に私とレティアさんが固まった後――。


「もしかして視えているんですか!?」


 思わず、私がウィル皇子につめよると、


「視えているもなにも目の前―――」


 そういって皇子ははっとした。そしてやばっという顔をした露骨に視線を逸らす。


「……い、いまのは冗談だーーって」


 目を泳がせていうけれど、私もレティア様も皇子の顔をじっと見つめる。

 ばっちり目があって、皇子が困った表情になった。


「視えていますよね?」


 レティアさんが皇子ににっこり微笑んで


「あー、視えているよ!!で、どっちが本物だよ!」


 と、悔しそうに叫んだ。



★★★


 ガルザ族は神秘的な民族だ。

 どこにも属さず放浪の旅をする部族である。

 はるか昔に滅んだエルフの血をひくといわれ、神や魂と交信できる不思議な能力をもつといわれていた。特にウィルの母は霊感が強く、現世に残る霊を見ることができた。


 そんなガルザ族の少女が、皇帝と出会い、恋におち、駆け落ち同然で皇帝の側室になったのが17年前。だがガルザ族の少女は慣れない環境に、体調を崩し、幼い子を残したままこの世を去ってしまった。

それを追うかのように皇帝も病に伏せってしまう。そのためウィルは帝国の実権をにぎった皇妃に敵視され、様々な嫌がらせをうけた。


 ウィルができることといえば、無能で横暴な態度をとることで、皇位継承戦に参加できないと思わせることだけだった。


 霊が視えるなどと知られたら、特別な力があると皇位に担ぎ上げられる可能性ができてしまう。危険視した皇妃に殺される可能性が高くなるためずっと隠していたのだがーー。


「ちょ、霊が視えるなんてすごい!!貴方の魔力値測定させてほしいんだけど!!って、魔力測定器がこっちの世界ないわ!?」


「やっとお話できる人ができて嬉しいです!!」


 と、二人のリネアに同時に話しかけられてしまって戸惑う。


「つか、本当かよ。異世界の賢者の魂がはいったとか。俺の事からかって遊んでないよな?」


 ウィルが聞くと、リネア二人が同時にうなずいた。

 ウィルには両方人間に見えるし纏って見えるオーラも同じなので、微妙に刺繍が違う巫女服で見分けをつけるしかない。


「お話できる人が出来て本当にうれしいです。みんな私の事視えてなくて」

 

 今にも泣きだしそうなリネアと


「あー、なんで霊視できる人とこっちの世界で会うかな!?向こうの世界だったらいろいろ測定させてもらえるのにー!!」


 と、机をだんだん叩くリネアを見てウィルはため息をついた。


「てか、なんでそんなすごい秘密を俺に話すんだ? これを神殿にばらされたらお前達悪霊だって迫害されるだろ?」


 どうにもうさん臭くて、ウィルが問う。


「え? 隠す必要ないでしょ」


「えーっと、嬉しくてつい……」


 一人はあっけらかんと、もう一人はもじもじしながら答えた。


「いや、隠す必要あるだろ!? 大体周りに聞かれたらどうするんだ」


 ウィルがつめよると、レティアと名乗る方のリネアが笑う。


「大丈夫。大丈夫。防音の結界をしているから。それに貴方が話してもその時対応すればいいだけよ。それに貴方そういうタイプじゃないでしょ?」


 そう言って、レティアがウィルをじっと見つめかえしてきて、ウィルは思わずたじろぐ。


「なんだよ、そういうタイプじゃないって」


「告げ口するタイプじゃないってことよ。それより貴方の霊に詳しい資料とか何か持っていたりしない? それか霊がなんで視えるとかの言い伝えとか」


「そういわれてもなぁ。霊が視える話はギルディスに禁止されてたから、詳しくはわからない」


「ギルディス?」


「ガルザ族の従者で俺が生まれる前から母につかえてくれた人だ。そのまま帝国でも俺の世話をしてくれていたんだ。でも、罪を問われて闘技場に売られた……」


「闘技場に?」


「ああ、1年前横領の罪に問われた」


 この世界では戦闘能力のある罪人は奴隷落ちさせられて闘技場に奴隷として売られることがある。闘技場は生きて出られることがほぼないため横領の刑罰としては重過ぎる。


「もちろん俺はそんな事していないと信じている。俺を孤立させるための嫌がらせだ。闘技場で頑張っているのは聞いていたけど……今日の夜の試合で、闘技場のエース オダと戦う事になっている……。たぶんもう……」


 そう言ってウィルは目を伏せた。

 闘技場は一種のプロレスのようなものだ。ヒーローをつくりだし、そのヒーロー役を活躍させて人気を得ている。そのため公正などとは程遠く、ヒーロー役の剣闘士を露骨に優遇する。勝てないわけではないが、勝つのは難しいだろう。



「じゃあ、助けに行きましょう」


「あ?」


「剣闘士でしょ?買い取ればいいのよ」


「いや、俺そんな金ないぞ!!大体剣闘士は買うのだって伝手がいるって聞いたぞ。そんな伝手あるのか!?」


 ウィルが聞く。

 ウィルだって一族を抜けて母を守り、そして子である自分を守ってくれていたギルディスが無実の罪で、追いやられたのに納得できなかった。なんとか助けようと画策したが、裏稼業に従事しているものと接点がないと、現役剣闘士は買えない。そもそもウィルでは手を出せないほどの金額が必要でそのお金が用意できない。

 いくら聖女といえど、個人で使えるお金など、ウィルとそう大差ないはず。


「そんなものいまから作ればヨシ!!」


 レティアはそう言ってウィルの手をとって、走り出すのだった。


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