第14話 ざまぁされる方<(二度目の人生は私が幸せに!)←無理♡
*リネア視点*
レティアさんと私の奇妙な生活がはじまって、はや一ヶ月以上たった。毎日夜にレティアさんと意思疎通をはかっていたのでなんとなく、思っていたことも伝わるようになってきた。そんな幽霊状態に慣れたころ、豊穣祭を迎えた。
(ウィル皇子ってどんな人だろう……)
豊穣祭の儀式の一つ豊穣の祈りの儀式が行われるため、その儀式のために式場に馬車で向かいながら私は思いをはせた。
馬車にはアレス様とレティアさん、そして私がいた。
一日目は聖女が作物の実りを祈る祈りの儀式、二日目に第二皇子と会う事になっている。一日目の儀式で祈るのはカミラなので私達はただ見ているだけ。二日目に新たな婚約者である第二皇子のウィル殿下に皇城で会うことになっている。一度も会う事がなかった第二皇子。彼はどんなイベントも具合が悪いからと表舞台にはでてこなかった。アンヘル皇子の婚約者だった時も一度も会えたことがない。
ふと、馬車からこれからカミラが豊穣にする畑が見えた。青々とした麦が実っている。このあと豊穣の儀式でカミラが祈る事で実りを迎え収穫する。
レティアさんの話だと本来なら実りの儀式など必要ないらしいのだけれど、私達の世界は昔の人がそういう仕組みにしたらしい。
「一度馬車をとめてもらえますか?」
レティアさんがいうと、アレス様が不思議そうに小首をかしげて
「このような場所で何をなさるおつもりで?」
「ちょっと視察をね。にしてもこれはひどいわね」
広がる麦畑を見て、レティアさんが唸る。
「酷い?」
「ナヨナヨじゃない。実なんてはいってないし。これろくに畑を休ませもしないで、収穫したらすぐ植えてない?」
穂を触りながら言う、レティアさん。……確かに私が祈りを捧げていたころより、ナヨナヨな気もする。
「……休ませるですか? そういうのはおそらくしていないはずです。収穫後、すぐ植えていますが」
「だからよ。この品種、まじで聖女の豊穣の力頼りね。そのまま普通に育てても穂の中身がスカスカで食べられたものじゃない。豊穣の力がなければ成立しない品種だわ。まぁ、商業用として開発された品種っぽいからそういうものなんだろうけど。古代は豊穣の力が使える人がかなりいたのか、豊穣の力を使える魔道具が開発されていたのか、まぁ、おそらく後者だけど。それはあとで調べるとして……」
レティアさんが魔石をもってブツブツ唱えると、畑一面に魔方陣が書きあがる。
「な!?なにを!?」
アレスさんが驚きの声をあげた。私もちょっと不安になる。
「ちょっと豊穣の儀式でよりいい品質のものができるように細工をね」
「そんな事ができるのですか?」
「当たり前でしょ。大賢者なのよ。まぁ魔石が必要だけれど。クレーネから奪い取った魔石があるから心配ないわ」
「私としてはありがたいが事ではりますが……カミラ様に嫌がらせをするといっていたのに何故そのような敵に利することをするのでしょうか?」
アレス様が少し疑ったように言う。私もカミラに嫌がらせするために枯らすのかと勘違いしてしまったから、アレス様の心配もわかる。
「人間って与えれば与えるほど、次はもっともっとと求めるようになるでしょう?」
レティアさんの言葉に私ははっとなる。
そっか、レティアさんの魔法の力で今回作物をたくさん実らせたら、みな次の祈りの時も同じか、もしくはそれ以上の実りを期待しまう。私の時もそうだった。実りがよかったあと、次の実りが悪いとがっかりされた。もし次はレティアさんが力を使わなければその分の実りが減って、みんながっかりすることになる。
レティアさんはそれを狙っているんだ。
レティアさんの言葉にアレス様が呆れたようにため息をついた。
「なるほど、そういうことですか」
「魔石はもったいないけれど、また稼げばいいだけの話だしね。相手を貶めるにしても上げて、あげて、鼻高々になったところを一気に地獄につき落とさないと。何事も下準備は大事♡」
レティアさんがウィンクしていうと、アレス様の顔がげんなりとなる。
「随分気の長い話ですね」
「そりゃすぐ終わらせちゃったらつまらないじゃない。ゆっくりじっくり愛情をもって育てて大きく花開いたときに一気に地面に叩き潰すのが本当の愛じゃない?」
うっとりしたポーズで瞳を輝かせているレティアさんにアレス様と……私も若干引いてしまう。
「……なんというか、貴方だけは敵に回したくありません」
そう言ってアレス様が眉間を抑え、目を閉じた。
うん……どこをどうとはうまく口ではいえないけれどレティアさんってすごいなって思う。
***
「カミラ様。明日はとうとう豊穣式ですね。カミラ様の祈りが楽しみです」
カミラの髪をとかしながら侍女が言う。
皇城にある離宮の一室。カミラ専用の豪華な部屋で、カミラはふふっと笑う。
「そうね。皆に実りをもたらさないと」
――そう。回帰前。この時実りをもたらして歓声をあびたのはリネアだった。
賞賛を全て浴びたのもアンヘル皇子の愛を一心にうけたのもリネアで、カミラはそれを恨めし気に見ているしかなかった。
けれど今は違う。彼女の位置に自分は居る。
「そういえばクレーネから連絡はきたかしら?」
「はい。いつも通り順調だと」
その報告にカミラは大きくうなずいた。クレーネにはリネアを痛めつけるように命令してある。今頃やけどを負わされては、治療して痛みに耐えるしかないという地獄のような毎日をおくっているだろう。
「それはよかったわ」
この方法は回帰前、気に入らない相手をよく虐めていたやり方だ。
それをカミラ信者のクレーネに伝授して、リネアを虐めさせているのである。
(私が回帰前に苦しんだ分、あの子にはもっと苦しんでもらわないと)
――前世で私が聖女の祈りを見ているしかできなかったように、貴方も祭壇の下から、私が作物を豊かに実らせるのを見ているしかないの。いい気味だわリネア。
「迎えにきたよ。聖女カミラ」
身支度を整え、席を立ったそのころ、扉がノックがされアンヘルが現れる。
ずっと外でカミラの準備をまっていたのだろう。
用意が終わったのを見計らって入って来たのをカミラは知っている。
(ああ、やっぱり素敵アンヘル様)
カミラはこうやって彼を待たせることで愛情を確認していた。
大事にされればされるほど、前世の自分が満たされていくような気がするからだ。
前世で私に見向きもしなかった彼の愛情もいまは私のもの。
今世せはリネアのものだったものを全て奪い取ってみせる。
カミラはアンヘルが差し出した手を、微笑みながら手を添えた。




