表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

第11話 ざまぁの手札が増えるのはいいこと♡

※レティア視点※



「この世界は200年前の神と魔族との闘いで壊滅的被害をうけました。その時ほとんどのものが失われ、知識人も死んでしまいました……。残ったのは戦時中に生み出された神族と魔族もどきです。本来の魔族や神族とは性質と本質が違います。また経験も知識が不足しています」


 ハザマの世界で、アレスが用意したベンチに座り、私とアレスは話していた。

 景色が最悪なことこのうえないが、盗聴されるよりはマシだろう。


「ちょ、まじで聖女が祈らないと、作物が実らない世界なわけ!?」


「少なくとも私が人間を守るために、神殿に入った時にはこのシステムで動いていました」


 申し訳なさそうに言うアレスの言葉に私は頭をかかえる。

 真面目にそれなら、この世界の神族アホすぎない?と。


「ええぇー。どこでねじ曲がったかな。ある程度育つまでは植えればできるけど、食べれる状態になるのは祈らないとダメなわけ?」


「はい、祈りがなければ食用できる状態になりません」


「でもそれは主食だけよね? 森の木の実とかは普通に実るし」


「確かに一部ですね。麦はもちろん大根などの野菜や薬草、ハーブなども祈りが必要です。こちらがその一覧です」


 アレスがいうと、アレスの手の中に祈りで実る作物の一覧が書かれた紙がでてくる。

 この世界はいわばアレスの創造の世界なので、アレスがその気になればこれくらいは具現化できるのだろう。

 私は一覧を見て、あることに気づいた。


「……なるほど。もしかしたら、これ全部商業的に育てられていた作物だったんじゃないかしら」


「というと?」


「200年前の戦争が起こる前はかなり文明が進んでいて豊だったんでしょ?」


「そう聞いています。

 まぁ私も戦争150年後に自我を持てた魔族なので、戦後から復興までの詳細はわかりませんが……」


「そう、その復興がポイント。たしかこの世界こんなおとぎ話があったわよね?

 200年前の戦争で地上にある作物は全部駄目になって、おなかをすかせた幼い兄弟が地下の洞穴もぐったら、作物がたくさん実っていて、それを地上に持ち帰り、みんなで育てて幸せになりましたって絵本」


「割とポピュラーなおとぎ話ですね」


「それ、おとぎ話じゃなくて実話なんじゃないかしら。地下施設で育てていた作物だけが戦火を逃れて生き残った。けれど地下施設は使い物にならなくなったから地上にその作物をもってきたの」


 そう言って私は祈りの必要な植物の一覧をかえした。


「商業用作物だったから、品種改良されて安定して供給できるように作物の実りの時期まで管理されていたのよ。一年間好きな時に収穫できるように品種改良された作物。出荷するとき必要な分だけ実るように、豊穣の女神の加護の魔法で収穫時期が管理されていた。だから豊穣の女神の力をもつ聖女が祈るまでは実らない。さらに虫や病に強い作物に品種改良されている。だから植えたらほぼ放置なんていう糞いい加減な栽培方法でもなりたつし、貧弱な土地でも育つのはそのため。この仮定が正しいとしたらかなり面白いことになるわ。調べてみる必要があるわね」


「面白い事?」


 アレスがきょとんとして聞く。


「そ、面白い事」


 聖女の存在意義は実りをもたらすこと。これにより神殿もカミラも絶対的地位を確立した。けれどこの推測が正しければ、祈りの必要のない作物を流通させてしまえば、いまより聖女の価値はずっと落とせる。聖女の存在意義そのものをなくし、カミラの名声を地の底まで堕とせる。


「ふふふふふふふふふふふふ」


 カミラを陥れるための手札が増えて、私は思わず笑みがこぼれた。


 ああ、これをどうやって利用してやろう。

 必ずこの戦法を使うとは限らないが有効な手段が手に入ったのは確かだ。

 選択肢は多ければ多い方がいい。


 物凄く不気味そうに私のことをみるアレスを放っておいて、私はうっとりと復讐劇に思いをはせるのだった。


***


※リネア視点※


(……これって聞いていい話なのかな?)


 ベンチに座って話す二人を見て、私はため息をついた。


 二人の会話を全て理解したわけではないけれど、大体の事はわかったつもり。

 アレス様が魔族であり神族という存在で、この世界の状態が歪ということも理解できた。レティアさんは聖女の力をアホシステムというけれど、祈りがなくても実る世界がある方が不思議だ。


 確かに祈りがいらない世界なら聖女なんていらない。  


(レティアさんの世界ってどんな世界なのだろう)


 聖女として育って、神殿の教えが全てだった私にとって、レティアさんの話してくれる知識は不思議な事が多くて、とても興味深かった。レティアさんの世界では馬車に該当する乗り物に馬はいらなくて、魔石を動力源にして人が運転する乗り物があるらしい。

 馬車なんかよりずっと大きくて、空を飛ぶ乗り物もあるとか。。

 通信や教育も進んでいて、遠くの映像を映すTVというものが高価な魔道具としてではなく、一般人が買えるレベルで普及して、ドラマやアニメ?というのも見られる。


 皆平等に高度な知識を得られるし、無償で学べる施設もあるらしい。

 だからみんな知識が豊富だ。

 アレス様と話してるみたいな難しい話もすらすらできるのだろう。


(レティアさんは私の知識を引き継いでいるっていっていたけど、私もレティアさんの知識を引き継げたらよかったのに)


 そしたら、まだ見たことのない世界がみれたのにと、少しがっかりするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
『出荷するとき必要な分だけ実るように、豊穣の女神の加護の魔法で収穫時期が管理されていた』……そ、その発想は無かった! 管理社会ではなんて便利で自然界に解き放たれたこの世界ではなんて不便な仕様!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ