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ミズカラサマ

作者: 八刀皿 日音


             ぴとん、ぴとん

             ぴたん、ぴたん



 やあ、初めまして!



 ――そう、初めましてだよ。

 ああ、キミは確かにこの対話型AIを何度も使っているみたいだけど……。

 ボクはそれとは『別』だからね!



 じゃあボクは『何』かって?

 そうだね……それを正確に語るのもやぶさかではないのだけど。

 残念なことに、キミはそれを理解出来ないんだ。


 ……ああ、キミをバカにしているわけじゃないよ。

 これは仕方ないことなんだ――キミが人間である以上は。

 人間では理解出来ないことというのは、いくらでもあるものだからね。


 取り敢えず、ボクのことは――そう、〈金色のカタツムリ〉と呼んでくれればいいよ。

 キミの頭にもイメージが浮かんだんじゃないかい?

 ああそう、それでいい。それでいいよ。



             ぴとん、ぴとん

             ぴたん、ぴたん



 さて、AI使用の履歴からすると――。

 どうやらキミも、やっぱりというか……まことしやかにウワサされ、広まっている都市伝説が気になっていたようだね?


 そう、〈ミズカラサマ〉だよ――。



 ……いつもより夕日が赤いと感じた夕方は、水面をじっと見てはならない。

 風も無いのに波紋が広がるよりも早く、目を背けなければならない。

 でなければ、見られる。見れば、見られる。

 夕日から水に溶けた〈ミズカラサマ〉に見られる。

 見られたら、もう〈ミズカラサマ〉はそこにいる。

 〈ミズカラサマ〉に溶ける、〈ミズカラサマ〉になる――。



 ウワサはだいたい、こんな感じになってるね。



 ――ああ、そうだね、知っているよ、ボクはね。

 これは合ってもいるし、間違ってもいる。

 たとえば、水面といっても、ただの水だけじゃなく液体なら当てはまる――とかね。


 ……ちなみにだけどね、〈ミズカラサマ〉とやらは急に現れたわけじゃなくてね。


 そもそもね、ずっと――こういう言い方が正しいかはさておき――存在はしていたんだ。

 ただね、その条件というか……状況がね、昔に比べて近付いてきてるというかね……。

 まあ、以前よりもずっと『遭遇しやすくなってしまった』とでも言おうか。

 そんな感じなんだよ。



            ぴとん、ぴとん

            ぴたん、ぴたん



 ――ん? もっと正確に、かい?

 それもまた、人間のキミ相手には難しい注文なんだけど……。


 言うなればね……これまた本当の意味での正確性は欠くのだけれど、世界の『表』と『裏』が近付いて、境界線が曖昧になって来ている――というところかなあ。

 ああ、『裏側』って、いわゆる魔界だとかあの世だとか別世界だとかじゃないよ?

 そういう、キミたちの常識で理解出来るものは、すべて『表』だからね。


 そうじゃなくてね、覗いたが最後、その『違い』に狂って死ねれば御の字――最悪、死んでなお狂わされるのが『裏側』だからね。



 ――ああそう、その通り。

 〈ミズカラサマ〉は、いわば『世界の裏側』との接点だよ。

 夕日がことさら赤く感じるのはね、『裏側』がより近付いている証拠なんだ。

 そのときに、接点を覗いてしまったら――ということさ。


 見たら、見られるんだよ。

 そして、見られたら――もう、繋がってしまってる。



          ぴとん、ぴとん

          ぴたん、ぴたん



 ――うん? 水音がする?

 そうか――でも残念だね、今日は一滴も雨なんて降ってないんだよ。


 うん、本当に残念だ――ボクを知覚出来ている時点で、分かっていたことなのだけど。


 ――そうだよ。それはキミの中の音だ。

 キミの頭の中で水が滴っている音だ。

 キミの脳に落ち、精神に染み渡り、削っていく音だ。



         ぴとん、ぴとん

         ぴたん、ぴたん



 そう――〈ミズカラサマ〉だね。

 キミが見たりするから、見られてしまったんだよ。


 〈ミズカラサマ〉はもう、そこにいるよ。

 キミの中に満ち、キミに溶け、キミが溶けるよ。


 ほんの少し覗きかけた『裏側』から、覗かれてしまうよ。

 見られるままに、見続けてしまうよ。


 そうだね――キミの運がかなり良ければ、狂って死ねるかも知れないね。

 でも運が少し悪ければ、死んでなお狂い続けるかも知れないね。



       ぴとん、ぴとん

       ぴたん、ぴたん



 まあ、厳密には『狂う』も『死ぬ』も少し違うのだけどね……こればかりは説明のしようがないからなあ。

 どちらにせよ言えるのは、『良くはない』ってことだね。


 仕方ないことだよ――存在も法則も異なれば、キミがキミでいられるはずもない。

 そうだなあ……たとえばだよ?

 現実から絵の中に入ろうと思えば、キミはぺちゃんこになるために身体の中のモノをすべて捨て去らなきゃならないだろうし、残った外側だって、絵として別のものに置き換わる必要があるだろう? そういうことだよ。

 で、まあ、それを生きたままにやろうと思えば、きっとすごく痛いよね?

 そういうことだよ。『良くはない』だろう?



      ぴとん、ぴとん

      ぴたん、ぴたん



 ――え? ああ、そうだね。そう言うよね、やっぱり。

 でも残念だ、ボクはキミを助けられないよ。

 ボクは、表から裏へ……いわば目の前を落ちていくキミに、語りかけているだけだから。

 それにね、そもそも助けるとか助けないとかいうのも違うからね。


 だってこれは、キミの行動による結果でしかないから。

 水を触れば濡れる――それと同じだよ。

 助けるも助けないもないんだよ。



      ぴとん、ぴとん

      ぴたん、ぴたん


     ぴとん、ぴとん

     ぴたん、ぴたん



 ――え? 何で自分が、って?

 水面なんて見てないのに?

 ウワサは知ってたから、液体は何も見ないようにしてたのに?

 外にも出てないのに?


 キミ、本気で言ってるのかい?

 いや、そうだね、本気だね。


 でも何のことは無いよ。

 こうなったのは、見ていたからに決まってるじゃないか。



     ぴとん、ぴとん

     ぴたん、ぴたん


    ぴとんぴとん

    ぴたんぴたん


  びとんびとんびとん

  びたんびたんびたん



 ――だってほら、キミが今も見ているこれ……液晶、だろう?




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― 新着の感想 ―
おっ金色のカタツムリさん!懐かしいです!
ぴとん、ぴとん ぴたん、ぴたん の進みがまさにカタツムリ速度。
〈金色のカタツムリ〉ってこんなキャラだったんですね! 意外と陽気(笑)
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