クエストを受けよう!
グロテスクな表現がございます。苦手な方はお気を付けてください。
ギルドの扉をいつものように開け
いつものようにギルド最奥の席に向おうとするが
今日はクエストボードの前に見慣れた青年が居るのであった。
どうやら受付嬢と共にに貼り紙をしているようだ。私なりに早起きしたつもりが、先を越されるとは…
クエストは日が開ければ何時でも受けれることになっているが、貼り終えるのを待っておいた方が良さそうだ。急がせても悪いのでウィルの分の朝食を頼み待っているとしよう。
ウィル「師匠!お待たせしました」
あれだけのクエストを貼り付けるのにかかった時間は多い様に伺える。どれほどやばく来ていたのだろうか。彼も私と同じように楽しみだったのだろうか。
構わないと手で軽く合図をし、席に着くのを待ってから食べ始める。久々のギルドでの食事だから、メニューの1番上の馬肉焼きと目玉焼きを頼んでおいた。これは私がここのギルドに来て欠かさず毎度頼んでいるメニューだ。
馬肉の焼き加減はミディアムで、特殊な香草を幾つもふりかけ熟成させてから調理されるのだ。…口いっぱいに広がる爽やかでありながらもペッパーのような刺激もある、癖になる味わいを楽しむ。
貴族が好んで食べるような贅沢なスパイスをふんだんに使う高級品だ。
加えてメインの目玉焼きは中央に輝く黄身半熟。そう、全てが絶妙な焼き加減で構成されていて作ろうにも手間がかかり、食べようにも他の店では出ない組み合わせである。ギルドの料理長に今日も感謝を…
これの良さがウィルにはまだ分からないのだろう、無言で食べ進めている。
これぞ大人の味。
食事を食べ終え
クエストボードの前に立つ。
まだ人はチラホラといる程度で
私達の様な高ランクのボードの前には他に誰もいない。早朝と言えばランクを上げたい冒険者の時間であるからだ。
ウィル「今日はなんのクエストを受けるのですか?」
「これ」
私は迷わず1枚の頭の上にあった紙を引きちぎり
受付嬢に持って行く。
らいやー「受付嬢、バジリスク。死の沼地」
受付嬢「では、ドックタグの提示をお願いします」
いつ見ても変わらない笑顔と声音。
私とウィルがドックタグを提示すると、目を書類とドックタグを行き来させるのであった。
受付嬢は顔色を伺うように
「らいやー様は問題ありませんが…いくら保護者同伴とはいえ、いきなり難しいのではないですか?」
確かに受付嬢の言う通り難しい…
バジリスク自体は問題ないのだが、問題は場所だ。
だから私は対策を講じて来たのだ。
私は受付嬢の前に解毒剤を載せる。
総量にしてウィルのを除き100本である
らいやー「これでも?」
どっさりと乗った解毒剤を前に受付嬢は値段の勘定が止まらないようだ。
「1本が1銀貨…」口をパクパクさせ魚のようだ。
これ程揃えるのは時間とダンジョンの周回が必要になるのだが。私にかかれば造作もない。
もちろんこれは私の為に使うのでは無い。ウィルに上からかける為に持ってきたのだ。
ウィルよ覚悟するといい…絶対に毒を防ぐ
らいやー「ここ半年とちょっとマトモに活動してなかったから、やる。」
解毒剤を片付けながら受付嬢に意志を伝える。
この間狩った溶岩龍でさえAランク、
規定に沿うのであれば私はあと2体のAランクをこの1ヶ月で狩らなければならない。もしくはSランク級のドラゴンや30階層以降のモンスター。
受付嬢は眉間に皺を寄せ「これ程の準備があるなら1体までなら許可を出せます。ただし!常に引き返すことを頭に入れてくださいね」
ありがたいことだ。普通なら最低ランクのウィルを連れてAランクなど、あってはならないのだから。
らいやー「助かる。行こう。ウィル」
足取りは軽く、誰かと一緒に出かけることがこんなにも心躍る事だとは知らなかった。
明日はサラマンダーでも狩りに行こうか。
道中
私の杖にのり後ろにいる
ウィルは私との他愛もない話に花を咲かせた。
ウィル「師匠のお母様はどんな人だったんですか?」
らいやー「大昔に国を作った人と聞いている」
ウィル「ええ!ってことは師匠は偉い血筋なのですか?」ひょこっと顔を見せる。
らいやー「そんなわけないだろう。冗談だよ。」
ウィルの頭を押しのける。
ウィル「師匠はいつもそうです…僕に本当の事教えてくれないですよね…」背中越しでも伝わってくる、残念そうな声。
らいやー「いつか、いつか教えるよ。」ちょっと笑って誤魔化す。
ウィル「いつかって、いつですか」きっと頬を膨らませているのだろう…どうにか話をそらさねば
らいやー「…ウィルの家族はどうなんだ?」
ずっと怖くて聞けていなかったことを聞く。妙に礼儀正しく、だが成人する前に冒険者になると言ってた…そして、誰でも助けられるようにと言う信条…もしや戦争孤児?と思って聞けていなかったが…
ウィル「一般家庭の一般育ちです。父母共に農夫で、貧乏という程ではありませんがさして裕福でもありません。そんな家庭の次男が僕です。」
そうか。農夫の出なのか。魔法の才は本物という訳か
らいやー「ご健在なのか?」
ウィル「はい!僕が師匠に会った当日も、盛大に頑張ってね会を開いてくれました!今頃何してるかなぁ〜」
全く呑気なやつだ…私の気も知らないで。
らいやー「どこで礼儀作法は身につけた?」
ウィル「小さい頃から剣術を指導してくれてた方が貴族様だったので自然と。」
道理で。そのずば抜けた身体能力に剣術、魔術…成人前で鍛えられた兵士のようだったのも頷ける。
そろそろだろうか
悪臭が微かに臭ってきた。
らいやー「ウィル、防護」
死の沼地
ここは王都から大陸の端にほど近い沼地である。
ダンジョン形成時に溢れ出た魔力が溜まって出来たのだそうだ。
なんとも酷い。例えるなら夏場の生ゴミを下水に放置したような臭いと言った所か。なかなかハードな臭いにウィルは
嗚咽が止まらないようだ…青い顔をして口に手を当てている。
私の経験上2番目に酷い臭いだ。1番目はもちろんダンジョン内のアンデットが跋扈している階層だ。
ウィルが可哀想なのでそろそろ魔法をかけてあげよう。
らいやー「防護」
いつもより念入りに。更に掛ける。
騎士様を初陣で怪我させる訳には行かないから。
いくらか悪臭がマシになるだろう。それに手が使えなくては話にならない。
悪臭漂う沼地の対岸に霞みがかって森が見える
ギルドの情報によるとバジリスクの目撃情報はあの付近の沼、もしくは中森の中に潜んでいるはずだ。
ここから先は沼の色が濃く相当深くなって居そうだ。
らいやー「ウィル、足のカウンター解いて」
彼は毎日一瞬足りとも欠かすことなく、カウンターと防護を全身にかけ続けている。そのため彼に1部分だけの魔法をかける時は、彼自身の魔法は止めてもらうことにした。
私の浮遊魔法は足に魔法をかけるため弾かれると浮かないのだ。本当の浮遊魔法は重力反転とか高度な魔法なのだが…私には程遠い魔法だ。
ウィルを私と共に浮かせ沼地を進み森と沼地の中間辺りまで進んだ時、
ウィル「師匠!これ!」
ウィルの懐中時計が光っている…!?
何故だ!?
私の魔力探知には何一つ引っかからないというのに…何故彼の懐中時計は光っているのだ。
考えられるのは
魔力を持たない敵、もしくは50階層ボス…クレイブ。
ネームドモンスターと言われる格段に強いモンスター…魔力を持たない敵か?
であるなら魚竜系統が居るという事になる。
もし仮に最悪の事態でクレイブが居るとするならば
クレイブはその見た目は蟹の様だが、魔法の効かない殻と人語を理解するほどの知力、魔法防壁すらもいとも容易く貫く手足。あれに見つかったらまず逃げれない。
私がダンジョン攻略の足止めを食らっているモンスターでもある。
考える私にウィルは私に静かに聞く
「撤退しますか?」
無論だとも。静かに頷き、沼地から即座に離れる。
少しでもリスクがあるなら避けて通るべきだ。
突如
足元の沼が膨れ上がりウィルを掴む。
「うわっ!!」
見慣れた巨大な爪に触覚…やつだ
私は構える
魔法など効かないと言うのにやつに火炎弾を打ち込む
誤作動などという希望はないようだ。
「グアッ…」ウィルが声をあげる
聞いたことも無い足の折れる音…メギィッメリッ
ダメだっ止まらないっ!!!
ウィルは叫ぶように
「高度をッ!!!」
「ウィル!!」私は急ぎ高度を上げ始める。
モンスターに掴まれた足はブチブチと音を立てながら足の繊維が1本づつ引きちぎれる
白いのは骨だろうか…
私の浮遊の力とクレイブの力ではクレイブの方が上かっ!沼地の水面が瞬く間に近づく
「ッ切断!!」ウィルの骨を切る。
「ああああああああぁぁぁっっ!!!」悲鳴にも近い叫びを聴きながら
限界高度までウィルを引き上げる
「今治す!!」
流石のやつも視界が届かないであろう。
急ぎウィルに全身をもって治癒魔法をかける…
「もどれっ!」ウィルは痛みで失神しかけているが治癒魔法で痛みを引かせ、足を戻す。
が、そこまでやつは時間をくれるような甘い生物ではない…よく知っているとも。
ゾクッと背中に悪寒が走る。あっ終わった。そう感じるのに十分な程
喋るまもなく、治療を終えたウィルを突き放す…どうにか無事にギルドにウィルを!
座標を指定して送るっ!
だが、遅かったのだ。やつの放った高密度の水は私の防壁を容易く破り、避けることも叶わず
私の半身はパンっ!綺麗に飛び散り、深紅の血と薄紅色の肉が飛び散り、再度貼り直した防壁の中にに散らばり、私の内蔵は剥き出しになる。
「師匠!!」なんて顔してるんだウィル。それではまるで私が死ぬようではないか
片手で来ないように止める。
魔法で体を寄せ集め再生させるが、これは間に合わないだろう。損傷が大きい。
ここもやつの射程圏内とな…私は逃げれない
そして今、ここに勝てる人は居ない事を同時に悟る。
ましてややつのフィールドで戦うなど馬鹿らしい。
大量の血を失ったためか口を動かすのがやっとだ
らいやー「ウィル、よく聞いて。」目が霞んでウィルがどのにいるかも見えないが…できることを後悔がないように。
「私はクレイブに勝てない。」
言葉をどうにか紡ぐ
「物理でなければ。だから…」私はダサいな。託すことしか出来ないとは。師匠失格だな。
「これを…持っていけ」
ウィルを飛ばした方に
ペンダントの片割れを魔法で漂わせる。
らいやー「投影機だ。詳しくは聞け」
そろそろ限界だ…眠い…
今が浮いて居るのか落ちているのか。
むき出しの内蔵を体に納め、無理やり魔力で私の体の形に添わせる。
ああ。せっかくの初めてのモンスター狩りを記録してやろうとにと奮発したのに…
ごぱっと沼の水面が私に近づき
時間が無い。座標をギルドへ指定…もってくれよ私。
そして私は飛び上がったやつのハサミの餌食となる
せめて最後は笑顔で…送るか
「ウィル、待ってるぞ。」
「ー!!ー!!!!!」聞こえんぞウィル。もっとハッキリ行ったらどうだ。
遠くなる声を耳に、私は足掻くことも許されず沼地の奥底に引きずり込まれた。
ご覧頂きありがとうございました!
まだまだ続きます。
物語は動き出したばかりです