私の秘密(1)
ご覧頂きありがとうございます!
らいやーとウィルの世界をお楽しみください。
私は市場に立っていて人々は私を避けて歩く。
私が進む度クスクスと私を嘲笑する声が聞こえる
そして目の前には、ウィルと麦わら帽子を被ったブロンドの髪の女の子が笑いあって買い物を楽しんでいる。
手を伸ばそうにも
私の足元に広がるのはどうしようもないくらい深くそこの見えない闇。進むことも、戻ることも叶わずに
ただ周りからの声と事実を眺めることしか出来ないのである。誰も落ちそうな私に手を差しのべてはくれないのだ。
私も、そちら側が良かった。
そんなことを思った矢先、辛うじて立っていた場所さえ無くなり落ちる
目が覚めると床ではなく
ベットに寝ていた。日は暮れの頃だ。あれは夢…?
そして手を握っているウィル。余程心配だったのだろう椅子に座ったまま寝ている。横にはすり潰したリンゴとスプーンがあった。
どれほどの日が経ったのだろうか…
ウィルの誕生日はどうなった!?よりによって…
ベットから出ようとするが異変に気づいた
服が違う。
誰が着替えさせてくれたのだろうか…まずい。知られる訳にはッ!急いでものと服に着替えねば。あれだけは隠さねば!
手を離そうとするとウィルがハッとしたように目を開け
ウィル「師匠!!!」私に抱きついてきた。余程心配だったのだろう。私にはよくある事なのだが。
そして私の姿が部屋着だった事を思い出し、急いで離れる。
ウィル「あ、あの!僕は何も見てませんッ!!着替えさせたのは僕ですが!僕はッ師匠のことてっきりッ…」下を向き赤い顔を必死に隠している。
らいやー「気にするな。男に見えるようにしていた」
沈黙が流れ、外の子供の声がが大きく聞こえる程だ。
らいやー「ウィル…その。服を…」
あまり見せたくないのだ。
ウィルは急ぎ椅子をたちクローゼットを開け、見慣れた黒いローブを持ってきてくれた。
そして顔を合わせるまもなく、彼は部屋の外へと出ていった。
なんということだろうか…知られてしまった。
他の誰も知らないというのに。女では舐められるから男にしていた、もちろん他にも目をつけられないためにと、自衛が主だ。
色々と幸い見られてはいないようだが。
私はこの先どうウィルに接したらいいのだろうか。いつも通りあの爽やかな声で私を呼んでくれるのだろうか。
服を着替え、扉の先に居るであろうウィルに声をかける。
らいやー「ウィル、いいぞ」
ウィルは恐る恐る扉を開けるのだった。ここは私が何かを言わねば…
らいやー「訓練は?。」ああ…違う…もっといい言葉があったように思う…ありがとうとか他に言うことがあるのに。
ウィルは呆気にとられ何故か笑う。
ウィル「師匠は自分のことを心配してください。3日ほど訓練は行っていません。団長には連絡をしてあるので心配ありません。」安堵しているようだ。
よかった。
らいやー「そう、ならもう、動けるから大丈夫。」
そう言いながら机の方に向かう
らいやー「ウィル、こっち」手招きする
机の引き出しからウィルの誕生日プレゼントになるはずだった贈り物を取り出す。
付与剤と探知の懐中時計を…それに…これも
丁寧に袋に閉まっていた物を取り出す。
彼の瞳の色を閉じ込めたような宝石が小さくあしらわれた金のピアスだ。
らいやー「遅くなったけど、おめでとう」
彼はどんな表情をしているのだろうか…怖くて見ることが出来ない。
もし気に入いらなかったら?…もし、同じ様なものを持っていたら?…要らない不安が頭を駆け巡る。
ウィルは声にならないような、何かを飲み込むように
ウィル「ありがとう…ございます…」彼は涙を堪える様に言うのだった。
そんなに嫌だったのだろうか。
私は魔法の経験は多けれど、人との関わりはの経験は赤子と変わらない…だからそれが嫌なのか、なんなのか分からない…今にも零れ落ちそうな水は
やがて溢れ、彼の頬を伝う
私は、自然と手で拭ってやっているのだった。かつて私の母がそうしてくれたように。
らいやー「ウィル、泣くな」
ポンポンと頭を撫でそっと抱き寄せる。全く世話のやける弟子だ。
彼はしばらくすると私から離れ、涙を雑に拭い
腫れも引かぬ目でこちらを真っ直ぐに見つめ
ウィル「僕は、僕は!今日から…」
そう言い、剣を両手に乗せ、膝まづく。
これは知っている…誓の儀式だ。兵士が主へと忠誠を誓う。
ウィル「貴女の秘密を、命を守りたい。貴女がもし、この先も俺を隣に居てもいいと言うのなら、どうか、この剣をお取りください…」
まさか私が受ける側になるとは微塵も思わなかったから、見様見真似の言葉を放つ
これは真似事だ、だからウィルは本物の騎士ではないし、誓いは効力を持たない…それに
私に誓など移ろう季節に身を捧げるようなものだというのに。
らいやー「汝、如何なる時、汝如何なる場所でも我を護ると誓う事を…」なぜ私は答えたのか…秘密を知られたからでもなく、保護者からでもなく…何か別の感情が私を動かしているように感じた。
確か剣を受け取り彼の首筋に当てるのだったか
ウィルは冷たい剣が首に当たろうともびくりともしなかった。
私が受け入れない場合はここで首を撥ねる。
だが迷うことは何一つない。
らいやー(???)「受け入れよう」
その言葉に合わせ、彼の剣を我が身の前に立てる。
夕日が剣を跳ね、彼の顔を暖かく照らすのだった。
ウィルは立ち上がると私より遥かに大きくなっていた
いつの間にだろうか…私より少し小さかった彼が大きく、逞しくなっている。でも瞳はあの日と変わらず真っ直ぐで美しいままだ。
彼はじっと私を見つめてくる…それがなんだか擽られているようで
視線を窓の外に移動し…何と声をかけようか…ぼんやりと思いつきで口走る
らいやー「明朝ギルドに」
「はい!」
ウィルは返事をし、戸を静かに開け出ていった。
???「様ー!らいやー様ー!」
遠くで聞きなれた声がする。ぼんやりと外を眺めていたらいつの間にか日は沈みきり、月が高く昇っていた。
なんということか…そしてこの声はトーカか。
らいやー「どうした」影の辺りから声が続ける
トーカ「明日のご予定は?」
普段はウィルの備品を揃える係を任命していたトーカだが、実践となれば普段の物では足りないのでは無いか。ということだろうか。
らいやー「Aランクのバジリスクに行く」
死の沼地に生息するバジリスクは石化対策が必須だ。だが、私の魔法をもってすれば効きはしないのだが…周りの雑魚モンスターの毒は侮れない。
らいやー「解毒剤を3つと融解剤を3つ。」1つでも充分だが、念には念と言うから多めに。
トーカ「明日枕元でよろしいでしょうか?」
らいやー「お願い」
さて、明日のために今日は沢山寝るとしよう。
何より初めてのウィルとのモンスター討伐…
心が踊って仕方がない。上手く寝れるだろうか。
表情筋がいつになく緩み、落ち着けないまま寝具に身を委ねる。
次回もお楽しみに!