師匠は大変だ
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次回もよろしくお願いします。
ノックが聞こえない。
そうだ昨日からウィルは騎士団長に預けたのだった。
さて、今日もウィルの食事を集めに行くとしよう。
行儀が悪いが窓から飛び出す。
いつものようにウィルのご飯を手に入れ
食事をするために扉を開くと
ウィル「師匠!こんばんは!プレゼントありがとうございます」ウィルはえへへっと手を見せて寄ってくる。
どうやら、しっかり与えた手袋を付けているようだ。
猿轡は今はさすがに外しているようだが。
らいやー「ああ」互いに慣れない長いテーブルへ着くと料理が続々とはこばれてくる。
らいやー「いただきます」ウィルも続ける
「いただきます」
今日は昨日の倍の食事を用意してもらった。
残ったら私がゆっくり何日かかけて消費する手筈だ。
…ったのだが
ウィルはいつの間にブラックホールに就職したのか…あっという間に消えていくでは無いか。
やはり、足りないか。カロリーがある食材に変えなければ…ウィルはなんでも食べるから
コカトリスとかワイバーンとかも行けるだろうか。少々噛みごたえのある癖強お肉達だが…間違いなくウィルの血肉にはなることだろう。
今までウィルに与えていた食事はCランク前後のモンスター達だったが、Aランク前後のモンスターに変えよう。保護者が大変だと嘆く冒険者達の声がよく分かる。私に幾らかの貯金があって良かった…
ウィル「ご馳走様でした!師匠!僕明日も頑張ります!!」元気になったウィルは私に駆け寄る。
らいやー「ああ。期待している」
そんな日々が半年程続いただろうか…
空に浮かせた分体から情報を見るに
剣は滞りなく振れているようだし、訓練も平気でついていける様になっている。
今日はなんの食材がいいだろうか。やはり溶岩龍か…なるべく避けていたが、ウィルの為だ、致し方あるまい。
私は水や光、闇魔法は得意ではないのだ。だから
炎系統のモンスターにはあまり強く出れない。
だが、別に他の属性が効かないわけでもないので倒せる。
溶岩龍の住処である火口の上に立つと
溶岩龍は野生の勘だろうか…やつはこちらを見るなりごぱあっとでかい口を開き容赦なく私に向け
溶岩の塊を連射してくる。
冗談じゃない焦がされでもしたら。これは替えがきかないローブだと言うのに。
急ぎ高密度の風を纏い
やつに接近する…が、やつは溶岩の中に逃げて行ってしまった。小癪である。そちらがその気ならいいだろう。私にも考えがある。
あまり好きな魔法ではないのだが…疲れるを言い訳に逃すのも癪に障るので
杖を両手でもち自分の前に掲げる
らいやー「火の精霊よ、水の精霊よ、世の理よ、私に力を」
これは精霊魔法といい、自身の魔力を消費するいつもの魔法とは別物である。生命力を持っていかれる代物だ。
らいやー「姿を表せ溶岩龍!」杖を溶岩へ向ける
溶岩は龍を避けるように退けられて行く。
そして私は龍に浮く魔法をかける。
目の前まで持ってきた龍はとてつもなく大きく
龍というよりはモグラに似たそれに
らいやー「精霊の滝よ!」
空から龍目掛け多量の水がやつに当たっては蒸発し、辺り一帯を霧が覆うのであった。
私自身を風と水で覆ってなければ今頃、高熱の水蒸気で私も茹でられていたことだろう。
やつは熱を得られなければ動きが鈍くなる。
やがて大きな龍は黒くなる。
さあ、〆作業と行こう。
らいやー「氷の精霊よ、私に力を」
大きな龍を氷が覆ってゆく。
不思議なものだこれで尚生きているのだから
最後のあがきのように溶岩龍だった塊は動き暴れるが、やがて静かになった。
これはギルドに持っていくとしよう。
ギルドは解体してくれるので、食べれる部位以外は換金し、生活費に充てよう。
久々に戦闘らしいことをした気がする。
すっかり手馴れて、王城に空から侵入する事に抵抗がなくなり
いつものように
ウィル「師匠ー!心配してました!」扉を開けるとウィルが駆け寄ってくる。
ウィルも見たのだろうか、街の上を運ぶ私が。
ウィル「いつもより半刻程遅くて…」ああ、私が遅れたとて食事はいつも通り出てくるだろうに、テーブルには手をつけられずに盛り付けられた料理達が並んでいる。
らいやー「問題ない」と言いながら椅子に座る。
ウィル「ほんとですか?何か無理をなさったのではないですか?」
私より大きくなった彼が膝をつき私の顔を覗く。近い……私が疲れていることを知ったら余計に心配するに違いない。
何よりこの青年は分かっているのだろうか…自分の顔の良さを…
分かっていてやっているのであれば賞賛の程だが、彼にはまだそういう自覚は無いようだ。
私は少し照れくさくなって
彼の問いに何も答えないまま
らいやー「いただきます」
ウィルを他所にせかせかと食べ始める。
少し頬が熱いな、香辛料が入っているせいだろうか。
ウィルも私が食べ始めたのを見てテーブルにつき食べ始める。
終始無言の食事は終わる。
ウィル「ご馳走様でした。」彼はいつもなら私に一言かけてから出ていくのだが…機嫌が悪いようだ。料理が口に合わなかったのだろうか。それとも腹を下したのか?
気になってこっそり付いていく。
ウィルが向かった先は中庭だった。
ウィルは無言で背負っている剣を抜くと素振りを始めた。ブォンブォンと音が鳴るほど力強く…
服の間から覗く筋肉がどれほどの訓練を重ねてきたかを物語っている。
見惚れていた訳では無いが、足音に気づくのが遅れた。
らいやー「ッ!だれだっ!」
しーっとその男は私の口に人差し指を当てる。
アーサー「私ですよ」ホッとする私を他所に彼は続ける
アーサー「不思議なんですよ彼、未だに魔力探知も付与も使えないのですが、魔力を足に纏わせ、手に纏わせ強固にすることが出来ている。あれが出来れば普通は苦労しないはずなのですが…何か知りませんか?」彼はチラリと私の方を向く。
ああ…知っているとも…良くね。彼の魔力は外に放出することが叶わないのだ。私がそう仕向けた。
彼に魔力放出を教えたら人のために死にかねない。
だから教えていない。
らいやー「知らない。稀に居る放出出来ないタイプかも。」
アーサー「そうですか…それが出来れば卒業と言ってもいいのですがね…探知ができないのは致命的だと思いますので。」彼は手を顎に当て考える仕草をした。
らいやー「剣術はどの程度?」ウィルを見ながら尋ねる
アーサー「副団長と互角、ただし剣術のみ見た場合です。」半年でそこまで成長するとは。団長に頼んで良かったと心の底から思う。
らいやー「じゃあ、探知と付与が出来ればいいんだ。」アーサーはこちらを見てからウィルに視線を移し
アーサー「アイテムでもってことですね。」
すこし名残惜しそうに彼を見るのだった。
らいやー「私に何かあったら頼む」
アーサー「億が一にもないとは思いますが …いいですよ。パーティの斡旋はギルドに頼んでもいいでしょうか?」
らいやー「構わない。彼が笑えるところでお願い」
アーサー「何とも難しい。彼は貴方の前でしか笑わないと言うのに。」
意外だった。彼は天真爛漫で誰にでも愛想がいいと思っていたからだ。
明日はウィルの誕生日だ。プレゼントに付与剤と探知のネックレスを渡そう。それに…これも。袋の奥底に閉まってある、思い入れの品。
初めての私の限界値を知った
40階層でボスを倒した時に出たピアスだ。ウィルと同じ瞳の色でとても綺麗だから。
アーサーと顔を見合わせこっそりウィルを後に互いに別れるのだった。
宿に着くとガクンと視界が落ちる
膝に力が入らない。
やりすぎてしまったようだ。そのまま瞼が重くなり、意識は遠のいて行く。
師匠まさかのやらかしでございます!
半年間つつがなく師匠を続けてきたのに、まさかのここで意識昏倒…果たしてウィルの誕生日は?師匠はどうなる?
次回もお楽しみに。