剣の先生の元へ
ご覧頂きありがとうございます!
コンコン「師匠朝ですよー」
ドア越しに少年の声が聞こえる。
「ああ」返事をし、布団から出て、寝癖を整える。
扉を開ければウィルがいる。
ウィル「師匠ごはんですよね?」
早くご飯を食べたいと言った様子だ。
私は頷き、ギルドへ向かう。
朝ごはんは決まって目玉焼き。これは欠かせない。ウィルはメニューを上から順に頼んでいる様だった。今日はオークの胸焼きか…見た目のインパクトも然ることながら、独特の香りが鼻を突く。ウィルは気にしないと行った顔で食べている。逞しいものだ。
ある程度食べると
ウィル「師匠今日も昨日のように魔法の練習ですか?」
らいやー「いや。今日は剣」剣という言葉を聞くなりすごい勢いでご飯を食べ進める。
余程楽しみだったようだ。
食べ終え掲示板の群衆を他所に
ウィルと共にあの倉庫へ向かう。
らいやー「トーカ居る?」扉に問いかける。
ゴソゴソと音が聞こえて戸が開く。リザードマンのトーカだ。
トーカ「待ってたよ!よく来たね!はい、注文の品だよ」トーカから渡されたのは私の身長程の刀体に柄は黒く、斜めに白と黒で別れた剣だった。
らいやー「ウィルこれ」ウィルにトーカから受け取るように促す。
トーカは慎重にウィルに剣を渡す
ウィル「おっとっ!」剣より少し小さいウィルは受け取るだけで手一杯のようだった。
これでは剣を引きずってしまう。
らいやー「ウィル、魔力を足の下に固める形で少しヒールを作るといい。」
ウィルは少し目を閉じて集中した後、ちょっとだけ背が伸びた。まさか本当に出来るとは…魔力を形にし維持をすることがどれだけ大変なことか。
ウィルと私との差は10cm前後になった。
らいやー「トーカいつもありがとう。」
トーカ「いいんだよ!こちらこそいつもありがとうねぇ!」
らいやー「ウィル、次行く」
ウィル「はい!トーカさんありがとうございました!」ウィルはトーカに手を振る。トーカも手を振り返す。
らいやー「次はお城に行く。そこにウィルの先生がいる」
ウィル「お城ですか!?ッうわっ!!」
まだなれないヒールで躓いてしまう
危ない!
なんとか地面がぶつかることは避けられた。
ウィル「師匠ありがとうございます」
ウィルはこちらにわざわざ頭を下げた。
らいやー「保護者だから。」
驚いた。今、私が止めてなくてもウィルは受身を取ろうとしていたから。本当は要らないのだが、お城へ行くというのに汚れては門番に止めらる。
この国の門番は融通が聞かないからな。
お城へ行くのにはこの市街地を通る必要がある。
ウィルは色々なお店が気になってあちこちを見ている
先程朝ごはんを食べたばかりだといいのに
育ち盛りだからだろうか。通り過ぎる屋台を見てはグッと欲しい気持ちを堪えているのが伺える。
らいやー「ウィル、欲しいの買ってきて。この先の噴水で待ってる」
ウィル「わああ!いいんですか!行ってきます!」
約束の時間までは半刻ほどあるし問題ないだろうと思い、ウィルに銀貨1枚を渡した。
ウィルはかけ出す…あっ転ぶ…何とか踏みとどまれた様だ。まだ慣れない魔力操作をしながら歩くというのは至難の技のはずであるのに。
ウィルに渡した
銀貨1枚は朝ごはんを3回食べられるくらいだ。
多すぎただろうか…
噴水に腰掛けウィルを待つ。
空は未だ日が高く暑い。こんな日に黒のローブを着てくるべきではなかったな。熱を服のかなから排出出来るように魔法で風を起こそう。
そよそよとローブの中から風が起こり、首や背中側から抜けていく。快適だ。
遠目にウィルが見える。あれは、鹿だろうか…?
ウィルが近づくにつれ、こんがりと香草混じりの食欲をそそる香りが近づいてくる。たしかに、欲しいものとは言ったが…
まるで狩り帰りだ。
ウィル「師匠!見てください!お肉屋さんに行ってこれで買えるものをくださいと言ったら、鹿をくださいました!」ああ。見ろと言われずとも見えている…ウィルにはお釣りを持ってくる思考はないのだろうか。
らいやー「そんなに必要?」一応理由を聞いてみよう。
ウィルは真っ直ぐな笑顔で
ウィル「もちろん師匠と夜ご飯にと思いまして!」
ウィルが一瞬でも疑った私が愚かだった…夜ご飯のことを考えて買い物をしてくるなど。しかも私の分まで。
らいやー「分かった、切る」食べやすいように部位ごとに切り分け、収納袋に収める。ついでにウィルにモモの部分を渡す。わああ!と目を輝かせ、私から受け取ると
ウィルは顔をもきゅもきゅさせながら頬張る。
食べ終えるのを見届けて
らいやー「行くよ」お城この広場を抜けたらは もうすぐだ。
お城は見慣れているが、ウィルは初めてだろう。城を見上げては転びそうになっている。
騒がしい市場はすぐ終わり
いよいよ城門だ。
門番「お前たち、何の用だ」門番は槍を重ね通行止めをする。
私はフードを脱ぎ、冒険者の証であるドッグタグを見せる。
門番「こ、これはッ。失礼しました。どうぞ中へ」
門をくぐると
壮年のメガネが良く似合あう男が立っていた。
彼の白髪で綺麗に七三に分けられた髪が性格を物語っている。この城の主の執事だったはず。
執事?「こんにちは、お久しぶりです、魔法使い殿と…」彼は言葉を詰まらせる
ウィル「こんにちは初めまして、偉大なる魔法使いの弟子、ウィルと申します」ウィルは綺麗な作法でお辞儀をした。もしかしたら彼は平民の産まれでは無いのかもしれないと思わせるほど。
執事?「ウィル様ですね、私はこの城の主である現君主キング様の執事、ゴートと申します。」彼も丁寧な寸分の狂いもない礼をするのであった。
ゴート「ではこちらへどうぞ」
案内された城の中は白い石柱に石畳の床で統一され、閑静ながらもこの国の歴史を語りかけてくるようだった。
ゴートが幾つかある部屋のうちの扉にピタリと止まると手を指し
ゴート「騎士団長はこの部屋の先にいらっしゃいます」
らいやー「ああ。」執事に手を上げ礼をすると躊躇なく扉を開ける
ガチャンという音にやつは反応し少し怪訝な表情を浮かべ
「ドアくらいノックしてはどうだ、魔法使い」
机に座った銀髪に夕日のような瞳を持つ彼が騎士団長アーサーだ。
「悪い。例の子連れてきた」私はローブの裾を離さないウィルを前に出す。
ウィル「わっ!」
やつが見定めるかのようにウィルを凝視した後
花のような笑顔で
「こんにちは、ウィル君。私は騎士団長のアーサー」胸に手を当て騎士の礼をする
ウィルも慌てて「こんにちは!ウィルです!よろしくお願いします!」と返すのであった。
らいやー「どう?」アーサーにウィルが教えを乞うに相応しいかを尋ねると
アーサー「思ってる以上だ。魔力も…剣は手を見れば分かる、あの背負っている剣はまだ使っていないね。」さすが騎士団長だ。いい目を持っている。
らいやー「ああ。死なない程度に稽古を付けてやって欲しい」ダンジョンでは不測の事態が付き物だ。自衛だけは出来るようにしてもらわねばならない。
アーサーがウィルを見て
「君の師匠は容赦がないね」と微笑む。
ウィル「でも、とても良い人です」
騎士団長を見て真っ直ぐ答える。私がいい人なわけが無いというのに…
アーサーは続けて「見えているものが全てとは限らないんだよ。さあ、行こうか」
アーサーはウィルに着いてくるように促し、城の中庭に案内するのだった。
アーサーはくるりと振り返り
「ここがウィル君の練習場になる。毎朝日が昇る頃にここに来るように」
ウィル「は、はい!」まだ緊張が解けていないようだが。頑張れウィル!私は熱い眼差しと共にその場を後にしようとするが
ウィル「師匠!どこに行くんですか?」
ウィルが寂しそうな、不安げな表情をこちらに向ける。
らいやー「栄養がある食事を取りに行ってくる。夕食で会おう。」
私は急ぎモンスター達を探すことにした
ウィルはきっと沢山食べたいだろうから
目星が着いているものだとダンジョン10階層ボスの最高級の肉である祖霊の残滓(俗に言う鹿の王様である)に加え
ダンジョン15階に生えるマンドラゴラ
あとは…やはり魚だろうか。魚は魚竜辺りが栄養があると聞く。ダンジョンの携帯食にもなるくらいだから、間違いないだろう。
日が暮れるまでのリミットだ。今が太陽がいちばん高いから、意外と余裕だな。
私はなんの迷いもなくダンジョンに入り
何度も往復した道を駆ける。そして雑にフロアボスである祖霊の残滓を適当に〆てアイテム袋へ入れ、15階を目指す。
私程の実力があるものは30階からがスタートの基本であるため、周りから見ると初狩りにも見えてしまうだろう。それでも構わない。初めて私のパーティになってくれた人間に弱くあって貰っては困るからだ。2人ならどこまで行けるだろうか、魔法完全耐性を有する50階ボスを突破出来ればいいが…などと空想を膨らませながらマンドラゴラを引き抜き、ダンジョンを上り外へ出る。
次は海だ。高速で移動する。
魚竜は雷の槍で眉間を貫いてしめてしまおう。
上空から魚竜の群れを見つけた。
いちばん大きな魚竜を頂いていこう。
バチィインと海に雷撃の音が伝播する。
魚竜を仕留めすっかり日は落ちかけていた。
急ぎ、王宮の調理室へ持っていかねば。
「ウィル!!」ああ…半日離れていただけだと言うのにウィルは憔悴仕切っているではないか。
アーサーは余程練習に力を入れてくれているようだ。すっかり日も落ちてしまっていたためか
ウィル「し、ししょー!おかえりなさい」ウィルは私を見るなり半泣きになる。
らいやー「ああ。」椅子を引き席に着く
王宮式のテーブルは縦に長くウィルとの距離がある。
そこに続々と私が狩った獲物達が姿を変えて運び込まれてくる。
ウィルは料理を見るなりヨダレを我慢できないと言った顔でこちらを見て料理を見てを繰り返す。
らいやー「いただきます」その言葉と同時、いやそれ以上か、ウィルは既に1皿目を空にした。
恐らくアーサーの事だ、怪我をする度に回復魔法をかけさせていたのだろう。あれは人の治癒力を底上げするものだから相当エネルギーを喰う…
魔法の欠点と言っても過言では無い。
明日は早めに飯を取って帰ってくるとしよう。
ひょっとすると魚竜より筋肉の再生力が上がる火山系モンスターの方が良さそうかもしれない。
明日はサラマンダーにミノタウロス、エルフの森に行き幾らか薬草を貰うのも悪くなさそうだ。
ウィル「ご馳走様でした」いつの間にか私が2皿目を食べる前にウィルは料理を平らげていた。
ウィル「師匠!今日もありがとうございました。僕はお風呂に入って寝ます…」と欠伸をしながら言うのだ。
らいやー「お疲れ様、おやすみ」ウィルは驚いたようにこちらを見る。何かしただろうか…
ウィル「おやすみなさいっ!!」
私もご飯を食べ終え、宿に戻る。
宿につき自室に戻ると
「トーカ居るか?」
擬態を解いたトーカが現れる。
トーカ「ここに」
らいやー「ウィルの様子はどう?」
トーカ「団長が我が騎士団に欲しいとこぼしていました。」跪いたトーカは言葉を間違えないように慎重に答える。
らいやー「豪鬼の手袋と貪欲の猿轡をウィルの枕元に、この手紙と共に置いてきて」
豪鬼の手袋は簡単に言うとすごく強い手袋である。どんな炎にも耐え、どんな冷気にも耐える。
貪欲の猿轡は俗に言う経験値を効率よく吸収出来る猿轡だ。猿轡が故につけているものの呼吸を阻害するが、剣が空気を吸い込みすぎないように訓練する場合にも使われる。
らいやー「下がっていい。手紙は説明書。」
そう言い手を払うとトーカは闇に消えていった。
あるのはロウソクの灯りだけ。
そうして目を閉じ、今日を終わらせる。
ウィルはこれから成長を遂げて行きます。
次回もお楽しみに!