本当は
少しセンシティブな表現が含まれます。
苦手な方はお気をつけください。
51階層
階段を登ると
紫色の草木が生い茂り
空に浮かぶ
師匠らしきものが泡のような薄い緑の膜に覆われそこに本と共に漂っていた。
静かに波に揺られるように穏やかに浮かんでいる
コウモリのような翼は人間のそれとは違うが、顔をみて確信する
ウィル「師匠!」
俺は防護で足場を作りその泡に近づく
師匠は全裸だった。
急いで泡の中に手を突っ込み外套かける
師匠の姿は500年前に討ち滅ぼされた悪魔に似ている。悪魔は人々から忌避され、
今でも黒髪や黒の瞳はその象徴として嫌悪の対象でもある。だだとても
「綺麗だ」
俺はなんて恥ずかしい言葉を…
だが口は1人で走り出し
気づけば言葉が溢れていた。
「師匠。貴女の騎士がお迎えに上がりました。もし、次があるなら今度は貴女を護らせて欲しい…だから…」
俺は師匠の手を握る
「返事を…目を…開けてください!!」
大粒の涙が視界を揺らし落ちていく
師匠に変化はないが、確実に違うことがあった
魔力だ。俺が手を握っているせいなのか分からないが、俺の言葉に師匠が呼応するように魔力が揺らぐ。もしや、魔力が足りないのだろうか?
姿をよくよく確認すると片足は欠けたままで、再生が途中のようにも思えた。
俺はありったけの魔力を師匠に流し込む
一瞬で俺の魔力は全て空になる。そして気絶する
まるで鍛錬を始めたあの日のように、空っぽになる魔力を補充しては師匠に流し込んだ
やがて俺は、気絶しているのか現実なのか分からない程に周りが暗くなり、音も遠のいていく
1枚ずつフィルターが重ねられていくような感覚だった。
これが死ぬということなのだろうか?だが
俺は師匠に魔力を流すことを辞めなかった。
徐々に師匠の体は血色を取り戻していたからだ。だがまだ足りないのだろうか、師匠は指先ひとつ動かさない。
だから俺は最後に死ぬくらいならと思って
「ごめんなさい。ただ、師匠…貴女のことを愛していました。先に逝く事をお許しください。」
師匠の唇と俺の唇を重ねる
段々と力が入らなくなって行く体を俺は制御出来ずに師匠の上にもたれ掛かるようにして倒れそうになる。
突然、俺の体は軽くなる
体の内側から魔力が溢れるようだった
「私の初めてを奪っておいて…それは許さぬぞ」
この声は…
俺は師匠に抱きつく。
「らいやー師匠!!俺っ!!俺はっ!あの日ッ。」
長い爪で俺を傷つけないように優しく撫でてくれる
らいやー「私が選んだことだ。気にするな…それに、沢山の愛をありがとう…」
師匠は俺の顔を両手で挟み熱いキスを俺にする
先程の静かなキスと違いお互いの少し荒い呼吸、師匠の体温、キンモクセイの濃い香り、ベリーのような唾液の味…ゆっくりと俺と師匠が混ざり合うような暖かな舌
全てがこの世のものと思えない程の興奮と快楽を俺の脳が感じている。
師匠はその縦長の瞳孔で俺を捉え、少し微笑み
「私の真名はスク。原初のサキュバス…それでも一緒に居てくれるか?」
ウィル「当然です。姿は違えど師匠は師匠です。俺の恩人であり、心惹かれる相手でもありますから」
俺は火照った顔と体がどうにもむず痒くて師匠から距離を取りたかった。
だが、師匠が両腕を首の後ろに回し離してくれないのだ。
師匠は不敵に笑い
もう一度俺にキスをする。
俺は爆発しそうだった。今までどんな人でも反応してこなかった俺の…股間が特に。
病み上がりの師匠に悟られる訳には行かない。が
本当に師匠の吐息や瞳、唇の色づきが俺の五感を奪う。
「ウィル。初めてか?」
ウィル「はい…師匠が」
スク「師匠?名前で呼べ」
師匠の低い声が俺の脳を刺激する
ウィル「す…スク…」
スク「そうだ。」
ウィル「スク…以外に出来なくて…」
スクが片膝を立てる。それが股間に当たりさらに爆発しそうになる。
ウィル「スクが好きですっ!!で、ですからっ!手を離してくださいっ!!これ以上はっ」
スク「ダメ。今離れたらどちらも死ぬ。魔力を互いの体を通して循環させている。」
ウィル「それは…困ります!スクに生きてて欲しいです…」
たしかに先程からスクと会話を重ねて居るとどちらの魔力も等しく増加している事を感じていた。
増加する魔力は体を内側から火照らせる
これは循環させているからなのだろうか。
スク「気づいたか?ウィル。お前が私に好意を伝える度に魔力が増えていたことが。」
ウィル「い、いえ…条件までは」
スク「私の特性のようなものだ。そういえば、早く離れたいのだったな。なら、どうするべきだ?」
ウィル「俺はっ…強くてっ!賢くて、美しくて、謎めいてて、変な料理が好きで…魔法が使える師匠を…スクを失いたくないからここまで来ました!!」
1単語を放つ度、魔力が中から押し寄せる
そしてそれは同時に俺の体をさらに火照らせ
冷静さを奪っていく
スク「続けて」
ウィル「スクのことを目で追うようになって…貴女を護りたいと心の底から思った」
俺はスクの目を見つめ
スクは目を見つめながら俺の背中をゆっくりと撫で回す
ウィル「俺と…ずっと一緒にっ」
スク「その先は後で聞こう。真実を知ってからでも遅くない」
さらに魔力は増加し体が弾け飛んでしまいそうなほど内側から魔力によって押されている感覚だ
そしてその所為なのか、感覚が敏感になりスクの撫でる所が跳ねるように勝手に動く
電流が背中を伝い脳をしびれさせる
この感覚はなんだ…ずっと溺れていたい…
スク「やめようか」
ウィル「い、嫌です」
俺は何を口走っている!?もう魔力は充分だっ…
スクはクスッと笑い
スク「可愛いやつだ。離れたいのではなかったのか?」
私は泡を解き下に落下する
そして体を回転させ優雅に着地する。
ウィルをゆっくりと浮かせたまま下ろす
スク「さあ、この先へ向かうとしようか」
俺の切なく嘆く体を心を師匠は気にもとめず
手を差し出す
師匠の魔法で浮いたままに手を取ると
俺は引っ張られ師匠の胸に収まる
そして静かに
スク「飛ばすぞ。60階層をやつに取られてな。取り返したいのだ。」
師匠は静かに飛び紫色の大地を駆け抜ける
周りに大量の吸血コウモリがいた事を今さら知る
それだけ師匠の隠蔽魔法は完璧であった。
その旅路とも言えぬお散歩のような9階層分の移動はモンスターは1匹たりともこちらを向くことなく
ただ通過するだけだった。
60階層
???「待っていましたよ。レディ」
胸を手に当て礼をしたそれは
青白い肌に漆黒の髪、尖った耳、としてコウモリのような羽…何よりもその鋭い八重歯。バンパイアだろうか?
スク「舐め回すような鬱陶しい声だな」
そして俺には一瞥すらもせず話を続ける
バンパイア「レディ…いえ、ライアー殿ついに、私の妻になることを決めたのですか?」
そうだっのか…!?師匠の顔を見るに違うらしい。嫌悪の表情を向けている
スク「違う。私の部屋を今日こそ返してもらう」
いつもよりも冷淡で低い声で手には
術式の入った魔具が色が見えないほど握りしめられていた。
俺はスクがその術式を砕くのと同時に俺は
バンパイア「では、勝てばよろしいのですね?」
やつの足を防護で固定する
だが簡単には行かなかった。
バンパイアは足をどこからともなく出した大きな鎌で切り上空へと飛んだ
「まずはそのゴミから片付けるとしましょうか」
ウィル「それでいい。師匠、俺は平気です」
咄嗟に守ろうとしてくれた師匠を止める
やつの鎌は俺の防護容易くいくつも破るが、カウンターで弾き飛ばされる
ウィル「俺だって強くなりました。」
スク「そのようだな。あいつは再生する。倒す方法は真目を呼ぶか、死ぬまで殺すかだ」
ウィル「決まりですね」
俺と師匠は左右から飛んで行ったバンパイア目掛け飛び出す。
俺は剣にかかっていた全ての防護を師匠に回し、
惜しげも無くバンパイアに対して大量の防護で囲う。
「鬱陶しいですね。このようなもの」
バンパイアが鎌を一振。すると俺の防護の大半は持っていかれた。が、同時に内部でカウンターが発動する。
バンパイアは血を吐き出しカウンターの光線に刺される。
そして構わず師匠の詠唱が終わったのだろうか、防護内部で俺の防護が一瞬で消し飛ぶほどの高火力の火球が連鎖的に爆発し内部で血しぶきが上がるまもなく次の爆発が起こる。
俺は必死に防護を貼り直し、立て直す。ついて行くのがやっとだ。
「なんなのだ!貴様らァァァっ!!」豪炎に焼かれながら未だ再生を続けるバンパイア。
スク「バンパイア。貴様が今までここに閉じこもって私を待っている間、私は強くなった」
バンパイア「HAHAHA!!私だって同じ。強くなったのですよ?」
豪炎からバンパイアが姿を現す
バンパイア「あなたの魔法は私に触れる瞬間解除される。あなたの魔法の癖を僭越ながら勉強させて頂きました。」
スク「消えるなら、消える速度を超えればいいだけのこと」
より苛烈に雷を纏った眩い光の炎に変わる。
だが一向に拉致があかないようだ。
恐らく師匠はいつもの半分以下の魔力のはずだ。
これではこちらが押し負けてしまう。
ウィル「師匠!俺に魔法を放ってください!」
バンパイア「ついに自暴自棄になりましたか?足でまといさん?あなたのせいであなの師匠は本気を出せていないことに今更気づくなど。」
眩い炎の中から声が聞こえる。
そしてわかった。やつは倒せる
スク「ウィル…馬鹿め」
その罵り声のあと師匠は特大の風魔法を手に収めていた。
本気でコロスなのかと思うほど。
俺はそれを防護で囲った。
師匠はそれを見て理解したのだ。俺が…いや俺とメービーさんが1ヶ月掛けて完成させた事を。
スク「ならば、こちらにしようか」
師匠はこんなことをしている場合ではないのに
バンパイアからは何も見えないのをいいことに
キスを俺にした。
その瞬間、溢れる魔力に込められた師匠が使っている呪文が頭に浮かぶ。
そして俺の手を握り、脳が勝手に魔力を手に集中し始める。
そして
スクは口を離し
スク「最後、合わせろ」
今師匠が頭の中で唱えている呪文がなぞられるように順に消えていく。
俺たちはバンパイアか居る方向に向かって組んだ手を向け
ウィルとスク「ファイアーボール!!」
合わせて唱える。
それはファイアーボールなどではない。
バンパイアがいたはずの場所は
俺の防護を纏ったまま空間を焼き切り、溶かしたように黒く何も見えない世界が広がっているのだった。
スク「いい魔法だな。だが、やつはまだ、生きている。もう一度だ。」
残った足から体が再生し始め、腰まで再生が終わりかけている。急がなければ。
私はウィルの唇を容赦なく奪う。
頭の中で略式の呪文を解き、ウィルに魔力に乗せて伝える。
スクとウィル「エクスプロージョン」
ウィルはその言葉を口にした瞬間
私の周りに防護を張り巡らせ、前に立った。
鼓膜を圧迫するような轟音に中心から広がる
石畳を跡形もなく消し、上の階層と下の階層が繋がってしまった。
スク「ふぅ。正式な魔法は疲れるな…」
私はその場に座り込む
ウィルは今ので魔力をほとんど失ってしまったのか、立ったまま気絶している。
「強くなったな…」
私はウィルのピアスをかじる。
ピアスはパキッと半分に割れる。私は再度腰を下ろす。
今まで貯めてきた白い光がウィルの心臓に向かって吸収される。
ずっと私が居なくなってから付けて居たのだろう。これは生命力を周りから吸い貯める魔具。
常人ならばつけているだけでだるさや目眩に襲われる。だが、このように貯めて置くことで死からの脱出が見込める。
ウィル「師匠!?大丈夫ですか!?」
なぜ私が右に座っていることが分かったのだろうか。迷いなくこちらを向いたことに驚いた。
スク「ああ。」
ウィル「俺に魔力を使わせないように自分のを使いましたね!?」
バレて居たか。口を重ねるのは魔力譲渡だ。そして手を重ねるのも魔力循環を操るためだ。
スク「まあ…ほら、目的は上だ。」
私はウィルを浮かばせ上の階へと上がる
61階層
床が見えなくなるほどの管に、ガラスの筒
そこの中では見慣れたモンスター達が育てられていた。
ウィル「師匠、これは?」
スク「…まだだ、ついてこい。」
更に奥へと進み、下へ降る
どれほど降りただろうか
スク「70階層、ここから先は擬似的な魔界だ」
階段を降りきり、先へ進むと
スクに駆け寄る女の悪魔達が居た
剣を抜こうとする俺にスクは手を軽く伸ばし止めた
「我らが母よ!!」胸のでかいベリーのようなサキュバスに
「随分と待っていました」胸が控えめで身長が少し高い…ヴィターさんのようなサキュバス
「おかえりなさいませ」小さく6歳くらいのサキュバス…
彼女達はスクに跪く。
母!?…既婚者だったのか!?それに、既視感が凄い。
スク「ウィル、血は繋がっていない。かつての同胞達の願いを叶えているのだ。そして、ウィルが頭にうかべているもの達はかつて魔界かあった頃のサキュバスの子孫だ。」
ウィル「つまり…師匠は…なにを…」
スク「かつて魔王の配下だった。そして、モンスターや魔物、悪魔を増やすことを任されていた。このダンジョンはその時の遺物だ。」
跪いているサキュバス達に手を当て
スク「長い間、苦労をかけたな。これは礼だ」
サキュバス達は声をあげることもなくその場に倒れ込んだ。
ウィル「殺してしまったのですか!?」
スク「いや、昂りすぎて気絶したのだろう。こい、次は80階層、龍の里だ」
80階層
それは岩肌に溶岩。無骨なその見た目で歩く2足歩行の鱗をもつ人の形をした龍がいた。
スクは気づかれないように通り抜けた。
が、誤魔化せなかったらしい。
1匹が「らいやー様のおかえりだああああ」
と叫ぶと
周りに一瞬にして龍が集まった
龍「お待ちしておりました。こちらが、祖父の大事より頼まれていた、得物です」
赤くツヤがかった得に俺の武器と同じような等身、そして両刃でそれは鞘がなかった。
師匠は一瞬忘れていたのだろうか、思い出したように
スク「ご苦労だった。この者に持たせるが、良いか?」
龍「はい!この剣を受け取っていだけること、至福の至でございます!!」
スク「ウィル、持て」
これは…持った瞬間わかった。この剣は血を求める剣だと。そして同時に何でも切りたい衝動に駆られそうになる。俺はどうにか防護で剣の周りを囲い鞘を簡易的に作る。
それを見て龍達は驚く。鞘を作れないでいたからだろうか。
スク「凄いものだろう。バンパイアの核、龍の鱗、極めつけは魔王が使っていた剣を溶かしたものだということ。」
ウィル「それは…形見ではないのですか?」
スク「賢いな…お前に預けよう。魔族や亜人種はここから出られぬ。そして、いずれ攻略される時が来る。だから、だ。人間たるウィルが持て。人間は語り継ぐのが上手い。」
俺は剣を握りしめた。それはまるで師匠が最後を迎える場所を、決めているように聞こえたからだ。
スク「みなのもの、急な来訪悪かった。次は分かりやすく来よう。散れっ」
毅然たる態度で龍達を散開させる
スク「ウィル。この先も見るか?」
ウィル「はい。知るために。」
81階層
お墓だ。一面に広がるお墓に、黎明の花。
スク「ここから先はかつて、500年前人間たちに殺された者達の墓だ。」
85階層
ホコリを被った書斎に着いた。
スク「ここは魔王秘書が最近までは居たのだ。」
ウィル「では…なぜ」
スク「なに、殺されたのでは無い。寿命だ。ここでは楽しみも、愉悦も、空高く飛ぶことも出来ないからな。」
大量に続く本の階層は89階層まで続いた。
一体1人がこの壁一面に広がる本を読み切るのに何年かかったのだろうか。
師匠は寂しそうに1歩1歩進めては本の近くを見て本に触れる
かつてそこに誰かがたち、何度も読み返されたであろう本が丁寧にしまわれている。
俺は気づけば師匠の前に立ち、師匠の手を取り進んでいた。
ウィル「スクらしくないですよ。貴女は悪くありません。がんは待っています」
90階層
黒と紫を基調とした部屋に出た。
スク「ここは、魔王の息子が最後まで居たところだ。私が400年篭っているうちにどこかへ行かれてしまった。見た目はとても容姿端麗で誰よりも黒い髪をもち、鋭い目に浮かぶ殺意はどんなものをも貫く赤い瞳の持ち主だ。」
店の店主…?禿げたオッサンだが眼光は鋭く、瞳は真紅に赤く染まっていたのを思い出す。
スク「そして、トーカ。今までご苦労だった。もうでてきて良いぞ。」
トーカ「よくぞご無事で」
ウィル「ずっといたんですか!?」
スク「ああ。私の目の代わりだ。ウィルが地上で過ごしていた日々を見ていたよ。」
つ、つまり…メービーさんを俺の部屋に泊めたり…ベリーさんを俺の部屋に泊めたり!?
ウィル「うわわわわっ!!!!誤解ですが…不定に変わりありません!!このウィル・ライト、死んで詫びます」
スクは俺の剣に手を当てる
スク「私の部屋汚さずに使っていたこともしっている。ウィルの匂いは嫌いじゃないから…別に使っていても構わなかった…がな」
今にでも沸騰しそうな顔を隠したいのか師匠は下を向いた。
ウィル「嬉しいです…おれ…師匠!」抱きしめられずには居られなかった。
師匠はテレポートをし、俺の腕から抜け出す。
スク「先に進むぞっ!!」
師匠は浮かんで逃げるように飛び逃げる
ウィル「疾走」
俺は師匠を捕まえ抱き抱え
「このまま下ですね?」
スク「早く降ろせっ!!」私の腕力ではウィルの分厚い胸板に弾かれるだけだ
私は諦めて抱えられる。
91階層
厨房。もう誰も使わない場所になってしまった。
そして私の前に大量に貼られた防護の量を見ればわかる…気遣ってくれているのだな。
92階層
洗濯場。吊るされたロープにはためかないシーツ。私や幹部の者が生きていた時は魔力を誰かが送り風が吹いていたと言うのに。
あのシーツは誰のものなのだろうか。
きっと下級魔族のものだろう。
あっという間に
93階層庭。できるだけ魔王様が気に入っていた植物を皆で集めたのだった。だが今みれば全て食べれる植物ばかりだ。荒れていて美しかった頃の跡形は無いが。
94階層
ああ、知ってる。よく往復したものだ
研究室だ。沢山の瓶や調合をするための手記。
ここは保存魔法のおかげで当時のままだ。
感傷に浸る間もなく通り過ぎてゆく
95階層
ウィル「師匠、これは」
スク「先代魔王様だ。」
誰が目にしても美しかいと言えるほどの美貌に
漆黒の髪は艶を帯び、伸びた髪はベットからはみ出ている。
紫や金を基調としたローブ。
手には枯れた花たちが握られて居た。
ウィルは静かに跪き
「先代様、俺は…いえ、私は、あなたの大切な家臣であるスクさんを貰い受ける覚悟です。許してくださいますか?」
動くはずのない先代魔王の亡骸の前に目を閉じ
ただそこに居た。
何分の時が過ぎたか。私とウィル以外ここにはもう、誰もいないと言うのに…何も無い空間からそっと羽がウィルの前に落ちる。
ウィル「ありがとうございます。絶対に大切にします!この命に代えてもっ!!」
深々と膝に頭を擦り付けるウィルに羽は許すように、もう1枚そっと頭の上に落ちる。
ウィルは2枚の羽をもち、私の髪にアクセサリーのように付けた。
もう1枚をウィルはじっと見つめている。
その視線だけで分かる。
羽を傷つけたくないのだろう。
だから、目の前でウィルの羽を魔力の核に沈めた。
スク「ウィルは魔王に許された初めての人間になった。この羽はウィルを助けてくれるだろう。必要になったら念じれば出てくる。その羽は武器にも、紙にでもなる。」
そして、闇の魔法を使えるようになる…
あえて言わない。使ってしまえば最後…こちらのものと人々は認識するからだ。
私とウィルは静かに先へ進む
96階層
ウィル「この先には何があるんですか?」
今のところ鎧や武器庫のように見えますが。
スク「行かなくても構わないぞ」
使われることの無いままただの古代の遺物になり、綺麗なままの鎧や貴金属…嘆かわしいことだ。物に価値を見出す者すらも居ないのだから。
97階層
沢山のベットが所狭しと並べられている。
スク「ここは下級魔族の部屋だ。大勢が居た。だが、この窮屈な環境は彼らを殺すのには充分な理由だった。」
スクは今にでも泣き出しそうになっている。
ウィル「スク。行きましょう。まだ龍やサキュバスの方は生き残ってるではありませんか。1人で抱え込まずに話してくれてありがとう。今は俺がいます。」
スクを抱き抱える。身体を震わせ、俺に顔を埋める。胸がほのかに暖かい。泣いているのだろうか。
そして俺はここから先に進みたいと思わなかった。進めばスクは壊れてしまうのでは無いか…そんな不安があった。
ウィル「スク、この先に進みますか?」
俺はできるだけ優しく問いかける。
スク「私の全てを知っていて欲しい。もう、嘘はつきたくない。」
ウィル「分かりました。では、スクは寝ていてください。耳も閉じておきます。全て見終わったら起こしますから。」
俺はスクの目を掌で覆い隠し、耳を防護で覆う。
おやすみなさい。
98階層
ここは…リビングだろうか?簡単な木の椅子が2対、細い足のテーブル。溢れる金木犀の香りに飲みかけのティーカップ。そして座ったまま朽ちたであろう…遺体。壁に打ち付けられたであろう血痕。また、テーブルの近くの骸には金属の指輪…
誰かの婚約者??
魔族であれば骸は残らない…人だったのだろう。
恐らく師匠の部屋で…
時代は…ふと、ありえない光景が目に入る。
外の風景すらもそのままだからだ。
耕されかけの土に刺さった桑、逃げるような骸…
飛び散る血液が鋭い物で首を刺された事が伺える。
時は日の登る頃。
そして複数の馬の蹄の跡が…
師匠が悪魔に堕ちるのには充分だっただろう。
この事実を書き換えたのだろう。
これが師匠がずっと1人で抱えていた記憶。
誰も気づかないから、この光景を見たのは師匠だけなのだろう。
そして、1人家族の元を離れた…のか…
家の奥へと進むと、恐らく師匠の部屋であろう
ピンクのフリルがあしらわれた10歳前後の女の子が着るような服が大切にしまわれていた。
隣は夫婦の部屋だろうか?
綺麗な服に大きめのクローゼットには2人の麻で出来た服が3着づつ入っていた。
ほのかに香るのは春に咲く花の香りだろうか。
奥にはもう一部屋、兄弟の部屋だろう。
クローゼットに隠れ見つかった小さな骸が転がっている。
俺は静かに部屋を後にする。
これは師匠が書き換えてしまったから存在しない事実なのだが…出来事を見てから変えることは、過去を変えることになる。関わった人間のその時間を消し去ることになる。対価は相当なものになって当然だ。
俺は階層を下る
100階層
真ん中に置かれたベットに血が滲んだ手枷や足枷、獣を捉えるようなチェーンが床に垂れている。
そして近くには注射器や
魔力を固めた核のような物が破片として散らばっている。そしてそれを液体に溶かし…
ああ…師匠…バレてしまったのですね。
書き換える力は完璧ではなかった。そして、人前でその羽を、髪を隠すことが出来なかったのですね?
500年前魔族が滅ぼされたことを俺は、本当に良かったとは思えません。師匠。
師匠は魔族に下る前
恐らく、物の年号を見るに
700年前、家族が惨殺され、
650年前、魔女狩りにあった。そして動物実験のように扱われ。半魔の師匠はそれに適合してしまった。
俺は胸に抱いているスクを抱きしめる。
これは、到底人間の精神では…持たない…
どれほどの者が師匠から奪われ、去って言ったのだろう。
俺には想像もつかない。
馬鹿な俺には分からない。だけれども、今この瞬間幸せであってくれるなら…いい思い出を残せるのならきっと師匠の生きる糧になるはずだ。
今まで師匠を活かしてきたのは…義務感以外の何物でもない。
俺は45階層まで駆け上がる
ゆっくりと師匠が起きるまで待つことにした。
寝息を立てている師匠は幼子の様で…
普段とは違う無防備な姿に俺はドキドキしていた。
師匠…俺は貴女を愛しています。どう伝えればこの気持ちは届きますか?
今この瞬間言えてしまったら楽だろう…だが言えずにいた。
しばらく師匠の生い立ちについて考えていた。
きっと何年経ってもも人々の生活は目まぐるしく変わるが、心や偏見は変わらないのだ…
師匠が見せたがらない体には
腕には無数の注射痕と鎖の後。
背中には鞭で付けられたような傷。
背中には隠しきれないほどの大きな翼。
これを隠すのに師匠は魔力を使っていたのだろう。だから違和感なく始めてあった時から、あの日、気絶した師匠を見つけるまで…分からなかった。
どうして師匠はこんな目にあわなければならなかったのか。師匠はただ平穏に人生を終えるはずだったのだろうに。俺が、スクの人生を幸せな物にして見せよう。一瞬だけでもいいから華を咲かせて…いい人生だったと思わせたい。
俺はそっとスクの手を握る。
スクは目を覚ます。
スク「なんて表情をしている…泣きたいのか?」
俺の頬にそっと手を当てる。
ウィル「師匠は…どうして…そんなに強く生きてこられたのですか?」
俺は嗚咽を堪えながら聞く。
スク「私は…捕まってから物語を書いたんだ。金髪碧眼の同い年位の騎士様に守ってもらう。夢のような話を…紙に。いつか叶うと信じて。」
スクは涙を目にうかべて続ける
スク「だから…これは覚めない夢なのかもしれない。」
ウィル「そんなことはありません。ほら、動いてる。」
頬に当てられていた手を胸へ当てる。
スクはただ、泣いて泣いて…声を殺して泣いた。
そしてやっと一言呟くように
スク「ありがとう」
ウィル「こちらこそ…ありがとうございます。スク」
しばらく、互いの体温を感じながら時は進む
冷たいはずの石畳の部屋を今は出たいと思わなかった。もう少しだけ、誰にも邪魔されないこの暖かな時間を過ごしていたいから。
そんな時間を邪魔したいのか…スクの腹の虫が鳴く
スクはお腹を抑え唇を噛み頬を赤くし、こちらを見る
スク「飯にしないか…」
ウィル「はい!何を食べますか?」
スク「決まっている。」
スクはアイテム袋か例の半熟卵焼きに半ナマ馬肉を取り出す…
ウィル「あの…」
スク「心配するな!ウィルの分もある」
ウィル「えっと…」
俺の前にも容赦なくプレートが並べられる。
スク「さあ!いただぎます!」
ウィル「いただきます…これのどこがそんなに気に入ってるんですか?」
スク「この半熟だ。魔界や昔の料理はずっと硬かったんだ。ここ近年やっと出たものだ。文明の進歩とはいい事だ」
ウィル「では俺の分も食べますか?」
スク「いや、申し訳が…」お腹の虫は正直だ。
スク「コホン。頂くとしよう…」
俺は慣れた干し肉を口にし、水で流し込む。
スクは半年?振りのご飯なのだろう。とても美味しそうに、いつも以上に丁寧に食べている。
そしてあっという間に皿には何もない状態になる
俺は言われる前に手を伸ばす
スク「さあ。帰え…。」
スクは手を取り無言で指を鳴らす
ウィルは自分の部屋だと認識するや否や
私に無言で抱きつき
「ずっとこうしたかった…スク…」
スク「私もだ。だがいいのか?こんなにもくっついていて。」
ウィルは先程51階層で起きたことを想像したのか
ウィル「わあああ!俺はっ!師匠!ごめんなさいっ!!」
離れて布団に篭もる
スク「私はサキュバスだ。不可抗力でもある。気にするな」
ウィル「ですが…貴女の事をそんな不埒な目で見ていた自分に嫌気がっ!!」
スク「書き換えようか?」
ウィル「い、いや…です!!スクの力は使わせませんっ!」
スク「この姿であれば使えるが?」
ウィル「いえ…必要ありませんッ!!せっかく会えたのですからっ!もう危ないことしないでくださいっ!」
ウィルは布団からひょっこりと顔をだす。
ウィル「それにその魔法には代価があるのでは?」
私を真っ直ぐと見つめる
嘘はよそう
「賢いな。そうだ。対価は私の体だ。魔物に近づくことだ」
ウィル、なぜそのような顔をしている?
なぜ…悲しそうなのだ?
ウィル「俺を救うのに…その力は使いましたか?」
スク「いいや」
ウィル「もう、使わないでくださいっ!スクと話せなくなるのは嫌です」
私はウィルに1歩近づき髪を撫で耳を撫でる
「もちろんだとも。そして、しっているか…サキュバスが約束を結ぶ時は生涯を共にするという意味だ。」
ウィルの耳は赤くなり頬は紅色に染まる
夕日が窓から差し込みウィルの顔を私の影で覆っているにも関わらず分かるほどただ。
ウィル「あ、あの…話が…」
ウィルはウィルがつけている物と同じピアスを私に差し出す…
「俺、40階層のドロップだと聞いて…回ってたんです」
絞り出すように震える声は緊張しているようだった
「このプレゼントの意味を俺はパーティの人達から聞きました…俺も、スクと同じ気持ちです!!だからっ!指輪ができるまでの…仮ですが…受け取っていただけますか?」
スク「ウィル、お前が泣いてどうする?」
私は涙を救い
耳に付ける。言葉など出なかった。
この忌み嫌われる世界で過ごすことが、地獄のようだった。
誰一人とて私を見ることも、理解することもなかった。ましてや魔王の幹部であったなら尚更。
私達はお互いを抱きしめ、静かな時を過ごす
スク「ウィル。ありがとう。」
これで物語はおしまい。静かに本を閉じペンを置く
対価の精算は人でなくなること。
だがもう、疲れた。200年。
魔法使いと言うだけで、モンスターと同類に扱われ、
だからいっその事魔物に降る方がましと言うもの。魔王が倒されるまではモンスターでいよう。
だが事はそうは上手く行かない。私は魔女狩りの対象になり、本物だとバレると実験動物にされた。何とか逃げ出し
その後私は魔門をくぐり、サキュバスの原種の方たちにお世話になった。人間だった半端者を優しくもてなしてくれた…が平穏は100年と続かなかった。
私は生き残った魔物や魔族が過ごせるように、私自身の力を糧にするダンジョンを作り、必要な愛の力を搾取するため、引きこもった。
日々魔法の研究に没頭し、私の力でモンスターを生産しては様々な環境に住まわせた。いつか魔王様が復活することを願って。
精霊との相性が悪くなってしまったこの体でも
高火力の魔法が使えるように練習も欠かさなかった。
私は物語がいつか叶うと信じていた。
だが、何年経っても…誰も助けてくれはしなかった。
私を殺せるモンスターをいくら作っても主人である私には従順で、命令でも半殺しにしてくれるだけだった。
だから私は死ぬ為に外へ出た。誰でもいい…私を魔女だと言って殺して欲しい…
だが現実はそうも上手くいかない。500年も経てば人々の思想は変わる。
ただ避けられるだけになっていた。
あの実験動物として扱われた日々が無いかのように…
だから少しでも危険なギルドの仕事に就いた。
私が作ったモンスター以外であれば殺してくれる可能性があるからだ。
だが…魔族の部分の私が許さなかった。
無抵抗で死のうとする度に勝手に力を使い
勝手に生き残ってしまう。
そんな毎日に絶望していた。そんなある日
「「もしもし!そのこフードの方!」」
あの日から私の氷のように固まった心は
少しずつ動き出した。
お疲れ様でした。
これにて物語は終了です。ご愛読ありがとうございました。
番外編でメービーさんとヴィッターさんの生活や、魔王がいた頃のお話を書いても楽しいかもと考えています。
もしくは全く別の物語かも…
次回もありましたら是非よろしくお願いいたします!




