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第7話 始まった新婚生活は

トントントントンとリズムよく野菜を切っていく。

 鍋をお玉でかき混ぜて釜戸の火の調整をしてから味見をして、よしと一人頷く。

 村を守る鬼神様の嫁になってから数日が経った。

 神前式の次の日に朝起きて朝ごはんを作ろうとおかってに出ると仙太郎くんが既に料理を始めようとしていて慌てて私に作らせてくれと頼んだ。

 最初はそんなことする必要はないと断られたが嫁としてご飯ぐらい作らないととこちらも引かなければ最終的には仙太郎くんが折れた。

 そしておかってから出ていく時に仙太郎くんは自分ともう1人の召し使いの分は不要だと言ってから出ていった。

 焼きもろこしの一件があったため本人がそう言うのであれば作ったとしても今は迷惑にしかならないだろうと自分と旦那様の分だけ作ることにした次第だ。

 そしてこうして朝食を作り出して暫くすると……

「……良い匂いがする」

「おはようございます、旦那様」

 こうして寝ぼけ眼の旦那様が起きてくるのだ。

「今日の朝飯はなんだ?」

「今日は鯵の干物を焼いて、こっちの菜っ葉はごま和えにしようと思ってます、あとはお味噌汁と白米とキュウリの糠漬けです」

「……旨そうだな」

「もう出来ますから居間で待っていてくださいね」

「ん」

 そんな何でもないような会話が終わると旦那様は居間へと戻っていく。

 どうも旦那様は朝にあまり強くないようでいつもこうして眠そうに起きてくる。

 ただ朝ごはんを作り終わってから起こしに行こうと思っているのだがその前に必ず自身で起きてくるので寝顔は見たことがないが。

「お待たせしましたー」

 料理を全て皿によそい終わると膳に乗せて旦那様の前に出す。

 自分の分も旦那様の前の席に置いてから座る。

「「いただきます」」

 それを確認した旦那様が手を合わせるので私も一緒にいただきますを言って箸を取る。

「……旨いな」

 もぐもぐと菜っぱの和え物を食べながら旦那様が呟く。

「お粗末様です」

 料理自体は好きでよく作ったりしていたけどあくまで趣味の範疇で、作っても自分で食べるだけ。

 村長の家ではおばさんが毎食ご飯を作っていたのでその手伝いはしても自分1人で全て用意した食事をこうして誰かに食べてもらうことなんてなかったからこうしてしっかり向き合って感想をもらえるのは少し嬉しい。

 結婚してから数日しかまだ経っていないが顔合わせのあとから鬱々と思い描いていた結婚生活より全然ちゃんと家族という感じがする生活だ。

 ちゃんと、暖かささえを感じるくらいには。

「そういえば今日は夜客が来ることになった」

 旦那様が思い出したように呟く。

「それでしたら夜ご飯は3人分用意しますね」

「ああ頼む、あとそいつは酒を呑むから買ってきておいてくれるか?」

「わかりました」

 時折こんな風に会話を交わしながら囲む食卓はまるで普通の夫婦のようですらある。

「ごちそうさま」

 毎回私より少し早く朝ごはんを食べ終わると旦那様はちゃんとそう口にして、食器をおかってまで持っていってくれる。

「何かあれば呼んでくれ」

「はい」

 旦那様が戻ってくる頃にはちょうど私も食べ終わりすれ違う形でおかってに入ると軽く会話を交わしてから独りになって、食器を洗って伏せる。

 それが終れば次は掃除洗濯の番。

 これらも全部私が来る前は仙太郎くんがやっていたことだったらしく私がやると言えば料理同様最初は断られた。

 だがそこに旦那様が現れて仙太郎くんを説得してくれたのだ。

 ただ驚いたのは旦那様が放った言葉だった。

 炊事洗濯を私がしてくれれば仙太郎くんも仕事に集中できるだろうと旦那様は仰った。

 ということは仙太郎くんはこれらをすべてこなしながら別の何か、旦那様からいいつかる仕事をこなしていたということになる。

 ご飯だけならまだしも古めかしいからといってこんな広いお屋敷をくまなく掃除もしていると意外と時間がかかるものなのに。

 改めて仙太郎くんには不思議が多いことだと思った。

 まぁ神様に仕えているのだからその時点で仙太郎くんも普通の人間ではないのかもしれないけど。

 だだっ広い屋敷の掃除と洗濯を終わらせれば丁度お昼時になるのでお昼ごはんの準備を始める。

 今日の昼食は朝の味噌汁を暖め直してひつに入れておいた米をよそう。

 おかずは肉野菜炒めをちゃちゃっと作って漬物も用意する。

 いつもだったら炒め物でもしているとのそりと旦那様が現れるのだが今日はいらっしゃらなかった。

 ちゃぶ台に食事を並べ終わると旦那様の部屋の戸を叩いた。

「どうした」

 中から返事が返ってくるのを待って戸を開ける。

「旦那様、昼食の準備が出来ました」

「ああ、集中していて気づかなかった、今少し手が離せなくてな、すまないが後でいただくことにしよう」

 中では旦那様が文机と向かい合い何かをしたためているようだった。

「かしこまりました、それでは私はお先にいただきます、その後で村へ買い物に行ってまいりますね」

「ああ頼む、あと酒を忘れないでくれよ」

「はい」

 失礼しますと最後に一声かけてから戸を閉める。

 結婚してから数日経つが旦那様が昼食を後でお取りになると仰ったのは初めてのことだった。

 今日いらっしゃるお客様と何か関係があるのだろうか。

 神に会いに来るお客様というのは一対誰なのか気になるところだけど。

 いつもだったら旦那様の手が空くまで待ってから昼食にしてもよかったのだがこの後のことを考えると私だけでも昼食を済ませて買い物に行ったほうが吉だろう。

 そう合点をつけると私は1人で昼食を済ませて早々に家を出た。

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