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第6話 笑っているほうがかわいい

 居間にかかった時計のほうをちらりと見やれば短い針が12を示そうとしている。

 間もなく帰ってくる、仙太郎くんの話ではそうだったが既に焼きもろこしも冷めきってしまっている。

 もしかしたら帰路で何かあったのだろうか。

 少しだけそう心配し始めた時だった。

「……こんな時間まで何をしている」

「旦那様!」

「私を待っていたのか?」

「……ええ、一応」

「何故?」

 唐突に帰った来た旦那様は私の向かいに腰をおろして膝を立ててその上に肘を乗せると不思議そうに聞いてくる。

 神前式の後のことといいこの人はわざとなのかというほど言葉の選び方が雑だ。

「お祭りで旦那様の分も焼きもろこしを貰ったので一緒に食べようと思いお待ちしておりました、まぁ冷めてはしまったのですが」

 私は置いてあった焼きもろこしを示す。

「私と食べるためか……」

 ぼそりと旦那様が呟く。

 それを見て数刻前の仙太郎くんとのやりとりを思い出した。

 もしかして神様というのは人と食を共にしたりはしないのだろうか。

 そうであれば差し出がましい真似をしたし、だからと断られる可能性もある。

 そうなったら1人で食べることになるがそれは少し寂しく思う、気がしないでもない。

「な、なにか?」

 自然と下がってしまった視線をふっと上に上げると私の顔を凝視している旦那様と目が合った。

「……いや、何でも、それではいただこうか」

 旦那様は慌ててこちらから目を反らすとそう言って焼きもろこしを1つ取ると少し眺めてからがぶりとかじりついた。

「……なかなか旨いな、君は食べないのか?」

「あ、いただきます!」

 促されて私も焼きもろこしを手に取りかじる。

 冷めてはしまっているが優しい甘さがして美味しくて、昔家族と祭りで食べた時と同じ味がした。

 今一緒に食べているのは血の繋がった家族ではないし結婚することになった理由は決していいものでもなくて、神前式の時も心は踊らなかったのに、それだとしても新しく家族となった人と一緒に食べると一人で食べるよりもこんなにも美味しいのか。

 ちらりと旦那様のほうを見ればまるで小さい子供のようにがつがつともろこしにかぶりついていて自然と笑みがこぼれた。

「やっと笑ったな」

「……え?」

「顔合わせの時から今日の婚儀中も婚儀が終わってからも私の前では笑ってくれなかったが……」

 そこまで言って旦那様は考えるように言葉を止める。

 言われてみればそうかもしれない。

 顔合わせの時は勿論神前式の時だって、祭りを見てきていいと言われた時も私は笑ってはいなかった気がする。

 きっと、どれだけ悪い神様じゃないと思ってもやはり妻に私が選ばれた理由、それだけがどうしても納得できなかったからだろう。

 そんなことを考えていれば旦那様は続きの言葉を紡いだ。

「私は笑ってるほうが好きだな」

「っ……」

 さらりと投下されたその言葉に私は息を飲む。

「す、好きだなんて言われますが私を嫁に娶ったのは村一の器量持ちだからっておっしゃっていたじゃないですか……」

「まぁ、それはそうなのだが、理由はどうあれ娶った相手に好きと言ってはダメなのか?」

 また、きょとんとしたように旦那様が呟く。

「別に! ダメではないのではないでしょうか……」

「ならよかった」

 そう言いながら旦那様があの時のようにまた少し笑ったような気がした。

 そしてこの方は本当に言葉選びをどうにかしてほしい。

 良い意味でも、悪い意味でも。

「食べ終わったらゆっくり眠るといい、今日は色々あったから疲れているであろう」

「……そうさせていただきます」

 私ははぁっと溜め息を吐いてからもろこしをもう一口食べる。

 それでも何故かドクドクと高鳴る心臓の音はなかなか落ち着いてははくれなかった。

 そして食べ終わって旦那様に挨拶をして自身の部屋にもどっていざ寝ようというとき、大切なことに気づいた。

 とてもとても重大なその事に。

「……初夜ってのはよかったのかな」

 普通神前式後にあると言われているそれが無く、家に帰ってきてからなのかとも思ったがそうでもなかった。

 不本意ではあるがそれなりに覚悟というのはしていたがないのであればそれに越したことはない。

「神様、だからかな……」

 ポツリと呟いてから恥ずかしくなってきてしまい私は布団を頭から株って目を瞑った。

 眠ってしまおう。

 相手が何も言ってこないのに私が1人でぐるぐる考えるのもバカらしい。

 こうして鬼神様の嫁となって初めての1日は終わったのだった。

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