第4話 友達でいたい
「わぁ……」
外に足を踏み出した瞬間沢山の屋台と吊らされて淡く光る提灯が目に飛び込んでくる。
そういえばお祭りに来ること自体が久しぶりな気がする。
お祭りに来ると嫌でも家族を思い出すからなのか無自覚に遠巻きにしていた気がする。
「ねぇあれ、紬ちゃんじゃない?」
「あ! 本当だ……」
私が屋台の並ぶ道に出れば途端に周りの人達がざわめきだす。
ああ、そうか。
私はもうただの村人の1人ではない。
村の守り神様の嫁なのだ。
私がここにいたら皆祭りを楽しめなくなってしまうかもしれない、そんな気がして慌てて道を外れようとした瞬間バンッと背中に衝撃をうけた。
「なーにこんな祝いの日にしけた顔してるの、鬼神様の御内儀様?」
「……ともちゃん!」
そちらを振り返れば小さい頃から仲よくしてくれている村長の孫のともちゃんが立っていた。
同じ屋根の下に暮らすようになってからもずっと私を気にかけてくれる優しい親友だ。
「まさか紬に先を越されるとは思ってなかったわー、しかも相手は鬼神様とか、あ、紬呼びはよくないかー、御内儀のほうが良い?」
ケラケラと笑いながらともちゃんが私の背中をバシバシ叩く。
「……御内儀様ね」
「確かにもう紬ちゃん呼びはダメだよね……」
そんなともちゃんの言葉に周りが反応する。
その言葉に反応するように私の額に冷や汗が滲む。
そうかもう、ただの紬としては扱ってもらえないのか。
「……本当にどうしたのあんた」
そんな私の異変に気づいたのかともちゃんは私の顔を覗き込む。
「そ、そうだよね、鬼神様の妻なんだからこんなはしゃいじゃったらはしたないよね……」
私はふいっとともちゃんから視線を反らす。
自然と視線は地面に縫い付けられたような動かなくなって。
少しの無言の後にはぁーっと大きなため息が聞こえて顔をガッと掴まれて視線を無理やり引き戻された。
「あのね紬、あんたは確かに鬼神様の妻になった、御内儀様になったね、でもね、あんたが鬼守村の出雲紬という一個人であることに変わりはないのよ、私達の関係が変わるわけじゃない、何もあんたが神様になったわけじゃないんだから、あんたはどう呼ばれたい? どう接されたい? 紬? それとも御内儀様? 神様の嫁? それとも私達の友達? もれが良いかはあんたが選びなさいよ」
「……ともちゃん」
ともちゃんはいつも声が大きいからよく通る。
そんなともちゃんの問いかけに周りは様子を伺うように静まり返っている。
祭り囃子を奏でる人達すら周りにせっつかれて演奏を止める。
「で、どっちが良いの?」
ともちゃんが再度確かめるように優しく聞くから私は
「私は……ともちゃん達の友達の出雲紬でいたい」
振り絞るように、呟いた。
「うん、わかった、よーし! 皆! 聞こえた? 紬は紬、これからも変わりないって! だから皆でどんちゃん騒ぎでお祝いだっ!」
ともちゃんは私の顔を挟んでいた両手で気合いを入れるようにパンッと軽く私の頬を叩くと周りの皆に聞こえるよういつもより大きな声で宣言する。
その声に周りがざわざわと反応しだして……
そして誰ともなくドッと勢いよく皆が騒ぎ出した。
囃子も再開されて口々に皆が私の頭を撫でたり背中を叩いておめでとうと祝いの言葉を述べては祭りの流れに戻っていく。
さっきまでひそひそと様子を伺っていた女の子達も目に涙を浮かべたり、笑顔で結婚おめでとうと抱きついてきた。
「ってことでこれからもよろしくね、結婚おめでとう紬」
「……ありがと、ともちゃん」
私は強くともちゃんに抱きついて、そう呟いた。