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終章 幸せの紡ぎかた

 目を開くと、満天の星空が目に写った

「ん……」

「紬! 大丈夫かっ!」

 私が微かに声を漏らせばすぐに星空を隠すように鎮雨様の顔が飛び込んでくる

「鎮雨、様……これは」

 私は鎮雨様に手を借りて状態を起こす

 そうすれば、見ていたのが星ではないことを知った

「成功、したんだ、呪いは天に昇っていってる」

 天にキラキラと輝くそれは、星ではなく祟り神くんの手のひらから昇っていくものだった

 祟り神くんの手のひらの上で光輝くそれが、天に昇っていっては弾けていく

「……ちゃんと、皆ボクのことを覚えていてくれたよ」

 天に昇っていく光を祟り神くんは嬉しそうに見送っていく

「あー、もう、暫く戦いたくねー」

「私も、暫くはこっちの姿でいたいですね」

 よく聞き覚えのある声のほうを見れば人間の姿に戻っている仙くんと清くんが疲れた様子で地面に座り込んでいた

「紬、君の魂が一度私の中に入ってきた時に、懐かしい気持ちになったんだ、あれは、そう、僧侶の……いや、尼僧の彼女が私を助ける為にこの土地に繋ぎ止めようと縛りを与えた時のような……だから君は、もしかすればだが……いや、止めよう、そんな話をしたところで、不毛だ、ただ、ありがとう……君が、言ってくれなければ私はずっと……呪いを甘んじて受け入れていただろう、皆も、命をかけて手を貸してくれて、ありがとう」

「鎮雨様……」

 鎮雨様の心からのお礼に皆満更でもなくて、それは私も一緒だった

「紬……」

 だが、次の瞬間鎮雨様は私の名前を呼ぶとゆっくりと顔を近づけて

「しず、えっ……ん……」

 触れるだけの優しい口づけを私の唇に落とした

「な、な、何するんですか!」

 離れていくその肩を恥ずかしさから逃れる為に思い切り叩く

「呪いのなかで君は私の頭に口づけをしてくれた、だから、それのお返しがしたかった」

「だからっていきなりはっ……」

 鎮雨様はそう言って笑ったけれど、はっきりいっていきなりそんなことをされればこちらも焦るといもので

 頬が赤くなってないかとか、変な顔になってないかとか、気になるのはそんなことばかり

「……」

「ドンマイ、弟」

「煩いぞ」

 慌てる私を見て何か漫才のようなやり取りをしている双子の声を遮るように、鎮雨様の顔を隠していた面が外れると、地面に落ちて

 パリンっと音をたてて真っ二つに割れた

「面が……割れた」

 全員が黙り込むなか鎮雨様は自身の顔に手を添える

「鎮雨様! 顔が!」

 そして、私は気付いてしまった

「え、どうしたんだ?」

「はい、これ、鏡ー」

 焦って言葉にならない私の変わりに祟り神くんが一神冷静に鎮雨様に鏡を渡す

 そして、鏡を覗き込んだ鎮雨様の顔はパアッと明るくなって

「跡が……全て消えてる、ということは本当に呪いはもう……」

 鏡を降ろして、今まで背負ってきた重荷を降ろしたように、嬉しそうに笑った

「これで、自由になれたんですね、鎮雨様は……」

「そうだな……」

 もう、この土地に縛られた存在ではなくなった鎮雨様

「やはり、どこかへ行ってしまうんですか? もうこの土地にいる必要がなくなった今」

 私は形式的にそう聞いてみたものの、きっと返事は分かっていた

「……いや、私は何処へも行かないよ、ずっと、生まれ育ったこの土地で、彼女との思いでのあるこの土地で、愛しい子らを守りながら、君と……紬と一緒にいたい、それとも君は、何処かへ行ってしまうだろうか」

「私もどこにも行きませんよ、せっかく家族になったのに、夢も叶ったのに、それを自ら捨てたりしません、死が二人を別つまで、共に生きていきましょう」

 そしてまた、私の答えも決まっていた

 言いながら、そっと鎮雨様の指に自分の指を絡ませる

 きっとこれくらいなら他の誰にも気付かれないだろう

「……ああ」

 鎮雨様は、一瞬ピクリと反応したあとにそう言って、私の絡ませた指を強く、握りしめた


 いつだっただろうか

 もうずいぶんと昔のことのように思う

 祭り囃子の鳴り響くなかこうして屋台を回ったあの日が

 今日は一年に一度の村をあげての春祭り

 私が鎮雨様の元へ嫁いでから、早いもので一年が経とうとしていた


 最近は色々と大変だったからこういう雰囲気は少し久しぶりに感じる

 浴衣を来てはしゃぐ女の子達や屋台に出来た列

 まるであの時みたいだけどあの時と違うことがひとつだけ

「あら、なんだい今日は鬼神様も一緒に回ってるのかい、なんだいなんだい、見せつけてくれちゃって、それじゃ楽しんで!」

「あ、ああ、ありがとう」

 鎮雨様は慣れない様子で村人にお礼を言う

 そう、今日は私は一人ではなく、鎮雨様とお祭りを回っているのだ

「あれ、でも祭事のほうはいいんですか?」

 近くにいた顔見知りのおばさんが聞いてくる

「今日は仙と清がやっておくからお前は回ってこいと……」

 そう、最初は私達で進めようとしたのだが揃って追い出されてしまった訳だ

「仙太郎くん達が気を遣ってくれたのねー、まだ一年だもの新婚さんですもの」

 そしておばさんはそれだけ言って去っていく

 それからも道行く人は皆鎮雨様や私に声をかけては去っていく

 少しずつ疲労の色を見せ始めた鎮雨様を連れて私は賑やかな祭りの本道を抜けて横道に逸れる

「鎮雨様、大丈夫ですか?」

 私は鎮雨様の横を歩きながら声をかける

「ああ、大丈夫だ、こういう場で、声をかけられることに慣れていないものでな」

 それもそうだ

 村のなかで鬼神様という存在はずっと謎で、不思議で、どこか怖い存在だった

 だが最近は面が外れたり私の買い出しに付き合ったりで顔見知りも増えてきたし昔のように人食いの鬼神様なんて呼ばれることも減ってきた

 皆彼が優しい神様だと気付き始めている

 それ自体は私としては嬉しいことではあるが優しい彼を一人占め出来ないことには少し焼いたりもする

「これから、慣れていけばいいですよ」

 それでも未だに鬼神様は怖い存在である、と思ってる村人達もいるのが事実で

 でもそれもきっと年月と共に失くなっていくだろう

 私は言いながら手を恋人繋ぎにする

 人通りが多いところではやっぱり恥ずかしいけれど、ここならきっと問題ない

「ああ、そうだな」

 そして鎮雨様もまた、そう言って穏やかに笑む

「あれ、紬ちゃんじゃないか!」

「あ! 焼きもろこしのおじさん」

 奇しくも逸れたその道では私が鎮雨様と結婚した日に焼きもろこしをくれたおじさんがお店を出していた

「なんだい今日は旦那様もお連れか、せっかくだからおじさんがプレゼントしようかな、二本でいいかい?」

 言いながらおじさんは網の上にもろこしを並べてはけで醤油を塗る

「ありがとうおじさん! でも二本じゃ足りないんです、お金は払うから……七本ください!」

 私は、そんなおじさんに笑顔で追加の注文を伝えた


 祭りも終わって家に帰れば今日はいつもよりも三人多い七人で宅を囲む

「あんた本当に焼きもろこし好きね」

 言いながらともちゃんは豪快にもろこしにかぶりつく

 ともちゃんは結果としては薊様の元へ嫁いで行った

 だが村長であるお祖父さんとの約束で少なくとも月に一回は村へ戻ってきている

「とも、口許についてるよ」

 薊様は言いながらともちゃんの口許を指で拭う

 薊様との関係も変わらず良好ではあるようで安心する

「ボク一本じゃ足りないかなー、おいバカ狐、それボクに頂戴」

 祟り神くんは言いながら仙くんの分のもろこしを奪おうとする

「自分の分だけで我慢してください」

 だが仙くんはそれをひょいっとよけて食べ進める

「あっれー、お前私の分は必要ありません云々言ってた気がするんだけどそんなお前は一体どこに……痛っ!」

 そんな仙くんに清くんが悪のりすれば容赦なく頭をぶん殴られて

「よしわかった、二人ともまとめて外に出ろ、相手してやるよ」

 切れた仙くんの語尾を荒げて立ち上がる

「ふふっ……」

 そんなみんなのやり取りを見ていてつい、笑いがこぼれてしまう

「……やっぱり笑った君は一段と可愛いな」

 私の隣で同じく静観していた鎮雨様がふと、呟くようにそう言った

 それもまた、あの日に彼がくれた言葉だ

「前も、そう言ってくださいましたよね、二人だけだった食卓も随分と賑やかになりました」

 鎮雨様と二人で始まった食卓も、四人になり、六人になり、そして七人になった

 勿論全員が全員毎回いるわけではない

 ともちゃんと薊様、祟り神くんは遊びに来たときだけだし仕事が忙しければ仙くんや清くんがいないときもある

「嬉しそうだな」

 そんなことを考えながら見ていれば、鎮雨様は私の方を見てそれだけ言った

「私の夢でしたから、沢山の家族でこうやって何の気なしに団らんするのが」

 そう、もう叶うことなどないとも思った私の夢

 それがまさかこんなに早く実現するとは思っても見なかった

「これからもっとうるさくなっていくかもしれないな」

「それもいいじゃないですか、賑やかな食卓は楽しいですよ、鎮雨様は、鎮かな食卓のほうがいいですか?」

 私は笑いながら鎮雨様に問いかける

「……そうだな、いや、一人で食べる食事より、君達と食べる食事の方が、何十倍も美味しいし楽しい……でも、たまには君と二人きり、なんてのもいいかなって思ってしまうんだ」

 少しだけ悩んだあとに鎮雨様はそうおっしゃって苦笑いを浮かべた

「それは、近々は少しだけ難しそうですね、でも……私もあなたと二人なら、それもまた、楽しいと思います」

 私はまた自分の気持ちを伝えながら、そっと鎮雨様の手を握る

「私は……今ここにこうしていれて、しあわせだよ」

 そんな私の手を優しく握りながら、面のないその顔は、穏やかそうに笑むから

「私も、しあわせですよ」

 私も言葉を返してただ笑って、焼きもろこしを口にする

 もろこしはみんなで食べると甘くて優しい家族の味がする

 だから私は焼きもろこしが好きなのだ

 これからも、きっとみんなで優しい味を味わえるのだと思うと、どうしようもなく心のなかがぽかぽかと暖かくなった

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― 新着の感想 ―
最初から一気に読みました! 2人ともいや7人ですね仲良く過ごせて良かったです。 楽しめました!
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