バカの話を始めようか
窓のない窓があった。そこから僕は時計校の中に入った。すると僕以外の足跡があったからさっきまでそこで足踏みしてた自分が嫌になった。一応、ここは心霊スポットって言われていて、多分、僕の嫌いとする人たちはよく好んで行ってるんだと思う。僕が行かなかった理由のひとつにその事実は結構大きかったと思うね。時計校って言っても中はただの学校だったから気分が変だった。素直に学校に行けよって気持ちがあったし、いけないことをしてるっていう大嫌いな高揚感があったのも認めるよ。恥ずかしいタバコの吸い殻は落ちてるし、薄汚い酒瓶も転がってて、最悪だなって思った。こんなにも綺麗な最悪もないからむしろ感動したね。冷めた感動とでもいうのかな。ちゃんと感動はしてるんだけどね、体はどこも痛くならなかったよ。そのまま進むと下駄箱があった。誰の靴も入ってはいなかった。それですぐ近くに階段があった。だから上った。一段一段、丁寧に上ったよ。本当に、丁寧に。
ボーイミーツガールって知ってるかい。あの男の子が女の子に出会って恋に落ちるってやつ。これから僕がする話はそれなんだ。先に言っておくね。僕はこの後、女の子と出会って恋をする。僕はこれからボーイミーツガールをするんだ。凄いよね。僕にこれからボーイミーツガールが起きるんだよ。実を言うと僕は憧れてたところがあったんだ。もっと言えばこれほどボーイミーツガールにうってつけな人間もいないと思っていたね。うぬぼれていたと言ってもいいけど、知っていたと言ってもいいと思う。それぐらい僕は自分がボーイミーツガールっぽい人間だと自負していたよ。現にこれからそれは訪れるんだから。でもそのボーイミーツガールは失敗に終わる。そう失敗するんだ。失敗の原因は色々とあると思うんだけど、大きな要因は二つかな。一つは僕がボーイミーツガールを知っていたということ。策士策に溺れるとはこのことで、僕がとった行動っていうのが自分に訪れたボーイミーツガールを最高のものにしてやろうとしたんだ。もったいないことしたなって思ったよ。つまらない本を読みすぎたつけがここで回ってきたんだなって。やっぱり本なんて読むもんじゃないね。本を読まなくていい人生が送れるなら、迷わずそっちを選ぶべきだよね。ボーイミーツガールなんて知らなきゃ、なにか変わっていたのかな。二つ目はそのボーイミーツガールは偽物だったってこと。これはすごく言い表しづらいから何とも言えないんだけど、偽物って言葉が近いと思う。ある意味、完璧で真っ白な純度百パーセントのものではあったんだけど、それは確かに嘘で塗られた意地悪の塊というか。変なことを言っちゃったね。自分でもよく分かんないや。バカと煙は高いところが好きっていうだろう。あの言葉は凄いね。僕は煙だと思ってたんだけどバカだったらしい。バカの話に戻ろうか。
階段を上り切った先にはドアがあった。見たことはなかった。当たり前だ。来たことがないのだから。開くのか開かないのか分からないドアノブに手をかけると、そっと押してみる。思いの外、ドアは軽くてまるで自分の存在がどこか遠くに行くのを想像してしまった。その先に彼女は立っていた。開けたドアの先から春の風が当たってきて、とっくのとうに吹いてる春一番が、僕にとってはこれだった。
僕の春はこれから始まった。