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はじめての

 春は恐ろしい季節。

 怖い季節ランキングなんてものがあれば、僕は迷わず一位にするね。

 そして人気投票があるなら、夏に票を入れるよ。夏祭りがあるからね。


 春が人をおかしくさせるのは、今に始まったことではないけど、僕なりに改善策を考えたんだ。

 前回の春と『違う春』を過ごす。

 僕のとっておきさ。


 春は変わらない。

 桜が咲き、花弁が舞い、風が吹く。

 新しい小学生はピカピカのランドセルに小さな背を預け、

 新しい中学生は不格好な大きめの制服に身を包む。


 僕が経験してきた春はどれも強い風にのってやってきた。

 その風と共に春の訪れを感じることになるんだけど、 

 僕みたいな者から言わせれば――


 ああ、また始まるのか。っと思ってしまうんだよね。


 新しい環境に不安になる気持ちは分かるつもりだよ。

 でも僕は、変わらないことにこそ頭を悩ませてしまう方なんだ。


 春は始まりの季節。

 言い換えれば、繰り返しの季節なんだ。


 これからまた始まる。

 春になって、夏が来て、秋に変わり、冬で終わる。

 そしてまた春が来る。


 今まで頑張ってきたのに、それをあざ笑うかのように、春はやってくる。


 春は残酷だ。

 春は僕の心を、温かく蝕む。

 これが春の正体さ。


 この前の春なんてなんにも覚えてないけど、今年の春は違ったね。

 どうやら僕は、春の克服方法を見つけたらしい。



 それと、手紙の送り先を変えたのには、もう一つだけ理由があるんだ。


 僕は手紙という手法が好きだから、どうしたら一番、手紙が効果的になるのかも知ってる。


 時間を掛けること。これに尽きるね。


 タイムカプセルがいい例だよね。あれに入ってる手紙なんて大したことないよ。汚い字で、支離滅裂なことが、不器用に書かれてるだけさ。でも、あれを最高の物にしているのはなんだと思う。


 そう、時間。


 未来に向けた手紙は、その分だけ届くのに時間が掛かるんだ。

 その時間の重さが、中身の価値を勝手に引き上げてくれる。


 自分に向けた意味もあったんだ。

 渡辺さんの手紙を、より遠くで、より長く楽しむためにさ。


 僕がこの先、時間を掛ければ掛けるほど、それはきっと素晴らしいものになるだろう。

 ほんとのことを言えば、あの手紙は井上の為だけじゃなくて――僕自身の為でもあったんだよね。


 夢を見すぎかな。

 それは良くないね。

 僕はもう、寝るのはこりごりだ。


 カラオケに行ったんだ。

 まずはここからって思った。


 井上の嫌いな歌を選んだよ。

 僕はこの歌が好きなんだけどね。

 あの時、この歌をあの人に披露出来ていたら、なにが起きていたんだろうな――なんて、珍しく考えたりもした。

 もちろん、そんなことは起きないんだけどね。


 震えた手でマイクを持った。

 声が出るのかも分からなかった。

 それでも、これは伝えなきゃいけない気がした。

 

 ここまで聴いてくれた、あなたの為に。



 最後の曲は終わりを迎え、舞台の幕を、僕は静かに降ろした。


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