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拝啓は、いらないね

 ノスタルジックを好む人間が携帯で行われるやり取りを嫌うのは分かるよ。何日も掛けて書いた手紙が、何日も掛けて届く。凄く情緒的だよね。僕には想像できないけど、昔の人は図らずも時計校みたいなことをしていたんだ。


 時計校はいうなれば届人。僕が必要なものを届けてくれて、僕を必要とする人の下へ送ってくれる。

 送ってくれるなんて言い方は、少し良く言い過ぎかな。送り返されるって方が、より適切だね。


 僕はね、考えたんだ。

 どうしたら井上に――最後まで物語を楽しんでもらえるかなって。

 僕に出来る最後の曲は、何なのかって。


 だから僕は手紙を書いた。

 届いて欲しくない手紙を。


 僕が死のうとしてたことは、言うまでもないよね。

 ボーイミーツガールが失敗に終わったんだ。

 それだけで、僕の中では十分すぎる大義名分だった。

 誰かに許してほしいというより、これでやっと筋が通る――妙に誇らしい気持ちでいっぱいだったんだ。


 でも、ここから先は僕もどうなるか分からない。

 渡辺さんが教えてくれなかったから。

 僕が知ってるのは、井上と別れたあの瞬間までで、その先はまっさらなんだ。


 だからこそ、手紙を書いたというのは、僕の選択なんだ。

 選択肢はもちろん無かったよ。

 悩みはしたけどさ、書くことは決まってた。

 僕はそうやって生きてきたんだし、この行動は渡辺さんもやったはずだから。


 これは繰り返しなんだ。

 確信は無いよ。今のところはって話。

 たまたま僕たちは出会って、たまたま同じようなことが起きたとも考えられる。

 偶然ってやつだね。だから僕は――運命に賭けたんだ。


 少し邪なことを思いついた。

 手紙の送り先を少し変えたんだ。

 このお話は井上のものだろう。主人公は井上さ。

 不運なことに主人公ってのは、お話を変えられないんだ。


 僕は今、主人公じゃない。夏祭りでそれは実証済みだよ。あれは僕によって作り変えられた、主人公への舞台さ。井上は夏祭りで、僕のラウンドワンと同じような日を送った。形は違えど、僕と井上は重なり合ってたんだ。これも僕によって証明済みさ。僕は前まで主人公だったんだから。


 手紙は我ながらいいのが書けたと思うよ。この手紙を井上が読んだら感動するんじゃないかな。泣いちゃうかもしれないし、僕にまた会いたくなってしまうかもしれない。


 井上は結構、弱い子だったんだ。弱さを必死に隠してるっていうのかな。でも隠すのが下手なんだ。なかなか気難しい子だったよ。


 僕は優しいからさ、死んでしまった井上に手紙を書いたんだ。


 僕はね、悩んだよ。なにが一番、井上の為になるかを。もちろん、死んで欲しくなかった。だから死なないように、井上が分かる場所に手紙を置いておくことも考えた。


 でもそれが本当に井上の為になるかってのは、分からないんだ。

 死ぬことを肯定するわけじゃないけど、

 死んでも大丈夫なようにしておこうと、僕は思ったんだ。


 この後、井上がどのような行動に出るのかは分からない。

 彼女はさ、多分この世界で一番、嘘が嫌いな女の子だから。

 正直なところ僕も怖いんだ。僕がやってしまったのは。彼女にとって最もやってはいけない行為だったんじゃないかって思うんだ。

 それを帳消しにするには、これしかないんじゃないかって思ったんだ。罪滅ぼしというか、帳尻合わせっていうか、余白を塗りつぶすっていうのかな。



 手紙は届ける人が一番、偉いんだ。手紙が意味をなすか、なさないかは、そこに全て掛かってると言ってもいい。本当は、自分で直接渡すべきなんだ。でもそれが出来ないから、出来ない理由があるから、僕は頼ったんだ。


 この手紙は絶対に届いちゃいけない。

 この手紙は死人に向けた手紙だ。

 でも万が一、井上が読みたくなったなら届くはずだ。


 だって、

 

 死んだら、時間も場所も関係ないところに行けるんだから。

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