全て分かっていたかのように
ふと起きた朝に、歯を磨いて、ご飯を食べて、服を着替えたんだ。玄関に行くと、靴を履いて、靴紐を結んで、ドアに手をかけた。少し開いたドアから光が差し込んできたその時、母親が声をかけてきた。
「最近、よく出かけてるけど、どこに行ってるの」
彼女のネックレスは、僕のとお揃いだ。
「うん、ちょっと。今日はすぐ帰る」
「あっそう、気を付けてね。いってらっしゃい」
場所は告げずに家を出た。バレたら怒られるからね。思考は読まれてないから大丈夫。
あったかもしれない未来ってのを、僕は考えないんだ。よくゲームで「はい」か「いいえ」を選ばされる場面があるでしょ。僕はあれが苦手。そんなもの、選択する前から決まってるって思っているから。
少なくとも、僕の人生において本当の選択肢は無いと思ってるよ。僕が選んできたように見えるものは、選んだんじゃなくて、それしか無かったから、そこに落ち着いただけ。
選択肢に手を伸ばしているように見えて、実際にはずっと前から、そこへ向かって歩き続けていただけ。なんて言うのかな。この選択にたどり着くために、今までの人生ぜんぶが必要だったわけで、そこでおいそれと気分で変えていいものじゃないんだよ。
「いいえ」を選ぶには、本当は、一からすべてやり直すしかないはずなんだ。まるで、もうひとつの人生を最初から育てるみたいに。
パラレルワールドが嫌いだ。
エンディングは一つしか無いと思ってる。
僕は僕の選択を、ただ見守ることしか出来ないんだ。
時計校の屋上から見渡す景色は、素晴らしく綺麗だったね。いつも僕が眺めている世界とは大違いだった。もし目の前にあるフェンスさえなければ、もっと遠くまで見渡せたんだと思う。だから――飛び越えるみたいに、手を伸ばしたんだ。
大きくなった僕の手は、フェンスの端にほんの少しだけ届いた。
そしてその指先から、ふらっと落ちたんだ。
風が吹いて、それはひらひらと、軽くどこかへ飛んでいった。
ほら、飛び立つんだ。
これがどうか『届かない』ように、と。
僕は強く祈ったよ。
僕の手紙はどこかへと進み続けて行った。




