ママとにぃにとねぇね
魔界に来て、四日目。
一昨日と昨日は、大きなお家でのんびり。でもせっかく魔界にまで来たので、少しお散歩をした。
わたしは申し訳程度に黒いリボンをつけ、黒いスーツを着たパパに抱っこされている。着いた先は、墓場。
「ここに、真白のママとにぃにとねぇねが眠っている」
墓石には、三人分の名前が刻まれている。
『白花』
『アネル』
『ラフィー』
上からわたしの母、兄、姉の名前らしい。
***
一ヶ月前。
毛玉バージョンのパパがわたしの元へ。
「み? みみみっ」
今度、魔界に行かないか? ママとにぃにとねぇねのお墓があるから、お参りに行こう。
「みー?」
お墓?
「みみ」
ママとにぃにとねぇねがおねんねしているところ。
そういう意味で聞いたのではないが……。
兄と姉がいることも初耳だし、母親も含め、彼らが全員亡くなっているということに驚いた。
「みっ?」
どうしてママ達はお墓にいるの?
聞いていいかな? 迷ったけど、気になってしまった。
「み……」
それは……。
パパ曰く、お兄ちゃんは生まれてすぐに病気で亡くなってしまった。お母さんも病気で、お姉ちゃんは事故で、二人とも間もなく死んでしまったようだ。
まぁ、パパはまだわたしが死を理解出来ないと思ったのか、おねんねと言っているが。
パパが見せてくれた一枚の写真には、大きさの違う毛玉が四つ並んでいた。一番大きな毛玉がパパ。次がママ。次がねぇね。一番小さいのがにぃに。
でも正直、大きさ以外の区別の仕方がわからなかった……。
多分、パパとわたしもそうなんだろう。ケサランパサランは、全員似たような顔らしい。
***
パパが綺麗な花束を供える。あと、小さなおしろいの缶。
…………一家皆がおしろい好きだったのか、それとも単にパパの嗜好を押し付けられているだけなのか……。
わたしは手がないようなものだし、パパはわたしを抱っこしているので両手が塞がっている。二人で静かに黙祷をした。
ママとにぃにとねぇね。どんな人達だったのかなぁ……。
***
「ママは美人で、お菓子作りが得意だった」
帰りの飛行機の中で、パパは家族の思い出を語ってくれた。
でも、パパが見せてくる写真はどれも、毛玉なんですが。人型のママは映っていないの?
それとも、わたしのように人型になれないとか? あ、でも人型になれなかったら、お菓子作りなんて出来ないよね。こんな手も足もないもふもふなだけの身体でなにを作れるって言うんだ。
それに、ケサランパサランにとっての美人の定義ってなに? やっぱり毛皮? 毛皮なのか?
「アネルとラフィーは双子の兄妹だった。だがアネルは一際小さく生まれて、産声もなかなか上げてくれなかった」
アネルはお兄ちゃん、ラフィーはお姉ちゃんね。
てっきり、身体の大きなお姉ちゃんの方が歳上だと思っていた。双子だったんだ。
「無事に生まれたと思ったが……アネルは一歳になる前に病死してしまった」
パパの声は、すごく悲しそう。
「ママとラフィーも……」
ママとお姉ちゃんも?
パパを見上げると、寝ていた。
いつもなら、「みみみ!」と、お腹にタックルしているところだが、今回はやめておいた。代わりに、パパの手に擦り寄る。
パパ、だいじょうぶだよ。ましろはずっといっしょ、だからね。