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お菓子の方じゃないよ


 各世界を行き来するには、特殊なゲートを潜らなくてはならない。そのゲートは、天界もしくは魔界で管理されている。なので、普通の人が私的に使うのは難しい。

 でも、各世界を行き来したい者は少なからずいるだろう。そういう場合は、各世界行きの飛行機に乗って、ゲートを潜るのだ。


 わたしとパパは現在、魔界行きの飛行機に乗っている。


 飛行機なんて、いつぶりだろう。小学生の時に家族旅行で沖縄へ行って以来のような。


 見た目は毛玉だが、一歳にも満たない赤ちゃんのわたしは、パパのお膝の上。


 パパは当然、お昼に出て来た機内食にも、料理への冒涜としか思えないような量のおしろいをぶっかけ、もぐもぐ。持参したわたしのミルクにもおしろいをたっぷり入れていた。

 通路を挟んで隣の席に座っていた人がドン引きしたような顔をしていたから、せめて外では自重してほしい。


 というか、普通の人はこの白い粉をおしろいだとは思わない。

 飛行機に乗る前に受けた荷物検査では、麻薬かなにかかと職員に引き留められた。


 それでも飛行機は、無事に魔界空港へ到着。


「パパの前のお家、まだ売ってないから、そこに滞在する」

 らしいので、パパが魔界に住んでいた頃のお家へ――って、


「みっ!?」

 でかっ!?

 もはや、豪邸と言って差し支えないほど大きな家……。


「おかえり〜、ヴェル! 真白ちゃん!」


 そして、出て来たのはふりっふりのメイド服を着た――……勇猛果敢な戦神のはずのダイドさん。


「何故ここに? というか、お前はいつからメイドの神にジョブチェンジしたんだ?」

 パパの疑問にわたしも同感。

 すると、ダイドさんは困った顔をしつつ、答えてくれた。


 でもくっっっそ長かったので要約すると、

 パパは毎年、一度は魔界に帰る。その度に、昔住んでいたこの家に滞在。でも、一年近く留守にしていれば埃が積もって当たり前。パパはいつも、贔屓にしているフリーランスの家政婦さんに依頼して、あらかじめ綺麗にしてもらっている。

 その家政婦のドーラさんだが、運悪く昨日、「仕事して」と叫ぶ部下から逃げるダイドさんが乗る黄金の馬の馬車に轢かれ、大怪我を負った。

 だが、ドーラさんは長年パパに贔屓にしてもらっている……。魔界に帰って来たら家が埃だらけだったパパは、大変な目に遭うだろう。自慢のもふもふの毛皮に埃が付いたら大惨事だから。

 というわけで、慰謝料の代わりにパパの家を掃除しろと言われたダイドさんが、パパの家に来ていた。


 …………わたしも長くなったわ。めんご。


 パパはその話を聞いて大きく溜め息を吐くと、ダイドさんを一発殴った。

「あいたぁ!」

「慰謝料はちゃんと払えよ」

「勿論払うよ! お金には困ってないし!」

 頭を摩るダイドさんは涙目。


 もう一度溜め息を吐くと、パパは腕の中のわたしを見下ろす。

「魔界を観光する予定だったが……ドーラの見舞いに行っていいか?」

「みっ!」

 いいよ!

 パパ、すごく心配そうな顔をしている。ドーラさんとは仲が良いんだろうなぁ。


 家の中に荷物を置いて、すぐにお出かけ。手土産に瑞穂の羊羹を持って。


 あ、ちなみに、家の中は意外と綺麗だったよ。ダイドさん、神様だけど掃除はちゃんと出来るんだね。






 ***


 ドーラさんが入院している総合病院へ。


 わたしはついつい、視線が様々な方向に行ってしまう。

 だって、角や羽や尻尾が生えてたり、めちゃくちゃ大柄だったり、反対に小人? ってぐらい小さい人がいるんだもん。ザ・異世界って感じ。

 あと、動物相手にもやってるのかな? 犬や鳥もいた。


「ドーラ!」

 パパ、ノックは?


 パパは病室に入った瞬間、ポン! と毛玉ケサランパサランになっちゃった。


 続いてわたしも病室に入ってびっくり。ベッド、ちっさ!


 毛玉姿のパパにぴったりそうなサイズのベッド。その上には、小人のように小さな女性が、左脚を吊りながら横たわっていた。


「あらあらまぁまぁ、グレイヴェル坊ちゃん!」

 坊ちゃん? パパのこと?


「み。みー? みみみ……」

 ドーラ! 大丈夫か? ダイドの暴走馬車に轢かれたと聞いたが……。

「坊ちゃん、それだとなに言ってるかわからない……」

 そりゃそうだ。人型のパパにすらわからないんだから。


 ドーラさんは普通に元気そう。


「うえええん、ドーラちゃん、ホントごめんねぇ」

 ダイドさん、泣きながらベッドに縋り付いてる……。

 けど、ベッドとドーラさんが小さいから、なんか絵面がヤバい。


 そこでドーラさんと目が合った。


「あらっ! もしかしてその子は……」

「みっ!」

 そうだった!

 と、パパは再び人型に。そして足元にいたわたしを抱え上げて床にしゃがむ。

「娘の真白だ。七月に生まれた」

「あらまぁ。ではもうすぐお誕生日ですねぇ。坊ちゃんに似て、美人さんですね」

「そうだろう」

 パパ、得意げ。自分が美人だと自覚しているのか、それとも娘が褒められたからか……。


「ドーラちゃんはブラウニーっていう妖精なんだ。お家に住み着いて、家事や家畜の世話をしてくれる」

 ダイドさんがわたしに説明してくれた。

「ドーラちゃんは元々、ヴェルのお父さん家の住み込みの家政婦で、ちょうど同時期に出産してお乳が出たから、ヴェルの乳母もしてたんだ。ほら、ヴェルも赤ちゃんの時は真白ちゃんみたいにちっちゃい毛玉だったから、サイズがぴったりだったんだよ」


 なるほど……。だからパパはドーラさんをすごく心配していたのね。第二のお母さんみたいな人だから。


 というか、パパのお父さん……。パパの親族には会ったことがない。いや、ママもないけど。どんな人達(?)なのかな……。


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