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初おでかけ


 ある日の朝のこと。

「今日は一緒におでかけするか」

 おでかけ?

 そういえば、わたしはまだ家の庭にしか出たことがない。

 お庭は、両手に乗る程度の毛玉であるわたしにとってはかなり大きいので、そこまで不満も感じなかった。元はインドアな人間だったし。


「赤ちゃんの初おでかけにはなにがいるんだろう……」

 パパがパソコンで調べ出す。


 この世界の今の時代、わりと現代っぽいというか、現代。テレビや電子レンジ、冷蔵庫などの家電がある。

 あと、日本みたいだけど、日本じゃない。瑞穂っていう国名。異世界版の日本だと思っていただければ……。


 勿論、携帯もあるよ。

 でも、スマホはまだ普及してなくて、パパも持っているのは、折り畳み式の携帯電話。






 ***


「ベビーカーか、抱っこ紐」

 パパを腕を組んで熟考。


 三分後。

「いや、ベビーカー買ってなかったな」

 買ってないんかい! この数分間、なにを考えてたの!?

 まぁ、わたし、ただの毛玉だしな……。


「ミルクや離乳食、おやつ……。まだ真白は離乳食も食べられないし、ミルクだな」

 そうですね。流石のパパも母乳ならぬ父乳は出せないので、いつも粉ミルクのお世話になっております。


 パパは続きを見る。

「おむつ…………は、そもそもしたことないな」

 この身体、不思議なんだよね。ミルクを飲んでいるのに、おしっこもうんちもしない。楽でいいけど……。

 そもそも、下半身はどこから? という疑問がある。


「タオル。汗をかいたり、ミルクを溢すかも……。汗はかかないな。だが、寒……いや、寒くもならないか」

 もっふもふの毛玉だもんね。


「着替え。……そもそも服を着ないからな」

 もっふもふの毛玉だもんね。(二度目)。


「母子手帳や保険証、医療証。……母子手帳というか、父子手帳を持っていくか」

 ん? 父子手帳なんてあるの? わたしを産んだのはママじゃなくてパパなの? 

 …………え?





 ***


 家の中のパパはいつもダサTーー昨日は背中に「混沌」と書いてあったーーを着ているけど、今日は普通のシャツとズボン。そこら辺の量販店で買ったものだろうけど、超絶イケメンのパパが着るとブランド品に見える謎。


 そのパパは、おんぶ紐でわたしを胸のところに括り付けている。


「やはり、ベビーカーを買うべきだろうか……」

 どうなんだろうね……。毛玉を胸か背中にくっつけているか、ベビーカーに乗せているかの違い。


 すれ違う人々ーー主に女性ーーは、まず括り付けられた毛玉をギョッと見た後、パパの顔を見て、うっとりと頬を染める。


 テレビを見る限り、この世界では吸血鬼とか、妖怪とかは外国人みたいな距離感みたい。それでもただの毛玉は、見て驚くものなのか……。

 というか、ケサランパサランだと認識されているのか……。




 わたし達は近くの公園に着いた。


 ようやく紐を外されたわたしは、自由の身に。

「みっみっ」

 公園なんて懐かしー。前世の小学生以来、行っていない気が。


 あ、あと、わたしは今のところ、「み」しか言えないんだよね。パパも通じてないみたい。


「楽しいか?」

 どこか優しい目をしたパパに聞かれる。まだ、ベンチの上を飛び跳ねてるだけだけど。


 公園にいた子供達とお母さんからの視線がチラチラ。ちょっとやだな。目立つの嫌いだし。


 ちょっとテンションが下がって、パパのお膝に乗った。

 パパはそんなわたしの気持ちに気が付いているのか……多分気が付いてないと思うけど、優しく頭を撫でてくれる。パパの手、すき。


 まだわたしは生まれて間もないーー多分。自分の誕生日は把握していないーーので、三十分程度日向ぼっこをした後、公園を立ち去る。


 だが公園を出る際、パパはぼそりと、

「滑り台ぐらいしか使えないな……」

 と言った。ものすごく同感。


 砂場で遊んだら、全身毛まみれの全身砂まみれになるし。ブランコはそもそも手も足もないようなものだから、落ちるし、漕げない。

 他にも、手足を使わないと遊べない遊具ばかり。精々、滑り台を滑り降りることしか出来ない。残念。




 代わりに、ベビーカーを買いにアカチャン◯ンポへ。

 懐かしーなー。前世も幼い頃、ここの遊び場でよく遊んだ。ランドセルもここで買ってもらった。


「すみません。この子を乗せられるようなベビーカーありませんか」

 声をかけられた女性店員さん、パパのルックスに目を輝かせた後、両手の上に乗ったわたしを見て困惑。

「えーと……ぬいぐるみ……ですか……?」

「? いえ。生後三ヶ月の娘ですが」

 あ、わたし、生まれて三ヶ月だったの!? じゃあ、誕生日は七月……? 今、十月だから。


 困惑しつつも、店員さんはベビーカー売り場に案内してくれた。そして、一番小さなベビーカーを購入。

 でもベルトを着けると目の前が見えないから、ただ乗るだけという。まぁ、わたしはいい子だから、勝手に降りたりしないし!


 買ったばかりのベビーカーに乗って帰路に着いた。その時も、道中すれ違った人には「え……」という顔をされた。


 あの店員さんのお陰でわかってしまった。わたしはどうやら、周りからぬいぐるみと思われているらしい。

 つまり、パパはぬいぐるみを赤ちゃん扱いしている変人ーーただしイケメンーーというわけ。


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