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不幸の請負人と灰塵のエルフ  作者: 豆大福
序章 灰燼のエルフ
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第一話 出会い

メインストーリーにつながる話なので、どうしても戦闘シーンが多くなってしまいました。次章以降からはバトルバトルばかりではありません。

暇つぶしに読んでやってもらえると幸いです。

 また一人、死んだ。

 小さなエルフの集落に、また一人犠牲者が出た。私に近寄ったばかりに、呪いにかかって命を絶ったのだ。遊び半分で私に近寄ったからだ。もうこれで何人目だろうか。

 ラティオス国の辺境、豊かな自然の中で共生するエルフ族の小さな集落に私は生まれた。

 何の不自由もなく、何の不幸の味も知らずに、平凡な幸せに浸って生きていた。

 エルフは魔法の扱いに秀でた種族だ。私たち集落のエルフは、自然豊かな土地を使って魔法により食物を生産し、街に届けることで生きていた。

 そして、もう一つは、魔物や魔獣などの害獣駆除の活動により仕事をこなして生活を守っていた。

 よく、覚えてはいない。

 私が森の魔物を駆除するために、ある晩、一人森の中に入っていった。

 記憶を失い、気づけば集落の入口に突っ立っていた。ふらふらと理由もわからずに自宅へ戻ると、血相を変えて駆け寄ってきた両親が灰になって消えてしまった。

 私は、私に触れるあらゆる生物を灰にしてしまう『呪い』にかかっていたのだ。

 森の奥深くへと潜り、二度と集落に関わらないことをエルフたちと約束し、今日までずっと一人で生きてきた。

 ハリボテの小屋の傍で、集めた木片に魔法で火をつける。

 背負っていた木籠を地面の落とすと、今日取ってきた魚がビタビタと跳ね上がる。直接触れると灰にしてしまうため、岩を砕いて作った棒を小屋から持ってくると、魚をそれに突き刺して火にかける。

 パチパチと火の音を聞きながら、先ほど私に触れて死んでしまったエルフを思い出す。

「ここには立ち寄るなって、大人に言われてるだろうに」

 友人と単なる探索でもしていたのか、噂の『死神エルフ』の私に会いに来たのか。何はともあれ、魚を釣っている私の背中を叩いたことが間違いだった。

 振り返れば灰に変わっており、悲鳴を上げて逃げるエルフの子供がちらほら見えたから、きっとまだ同じような子供だったはずだ。

「……馬鹿な子供よね」

 今でも鮮明に覚えている。

 帰ってきた私に抱きついた両親は、誰が見ても分かる愛情いっぱいの笑顔と共に、一瞬で灰となり飛んでいった。

 空に。

 ああ、夜だった。夜空に舞い上がった。

 綺麗だなあと、愚かにも思ってしまうほど綺麗に死んだ。

「――うまそうだな」

「え」

 ぼんやりと星空を見上げ、魚の焼ける音を聞いていると、背後からいきなり声がかかった。

 茂みから出てきたのは、男だった。

 焚き火の前に近寄ってくると、人間の男であることが見て取れた。

「誰なの」

「旅をしてる。誰でもないし、俺に意味はない」

「……よく分からないけれど、あんまり私に近寄らないで」

「人相がよくない自覚はあるが、随分と辛辣だな。まあ、いきなり声をかければそれもそうか」

 図々しくも、男は胡座をかいて焚き火の前に座り込んだ。向かい合った私は、じっと男の身なりを観察してみる。

 人間の男。人間という種族自体が珍しいのだが、この男そのものが何か異質だった。

 例えば、使い古したことがわかる黒いローブに、病人のような死んだ片目。生気のない左目には、メラメラと蝋燭の火のように炎が映っている。

 ふっと吹けば消えそうな、はかない光を灯している。

 そして、何よりも、その右目。

 ぐるぐると包帯で乱雑に隠された、その右目には、なにか不思議な気配を感じた。魔法のような、魔法でないような気配。

「ああ、こいつか」

 右目をじっと見つめる私に気づいたのか、慣れたような口ぶりで男は言った。

「あまり気にするな。エルフだから、こいつの存在には感づいちまうのか。いや、今までに気づいたエルフはいないか」

「なんなの、その目」

「気にするな。知っても意味はない」

「……そう。それで、私に何の用」

 焼き上がった魚を串にしている岩棒ごと勝手に取った男は、私の許可なく魚を頬張り始めた。

 一口一口の大きい忙しない食べ方を眺めていると、ごくりと飲み込んだ後に男は言った。

「君の『それ』を請け負いに来た。そいつは身に余る不幸だろう」

「……私にかかっている呪いのこと?」

「呪い……。ううん、まあ、呪いと言っていいものなのか。厳密には魔法なんだが、まあいい。それは立派な不幸だ。俺は不幸を引き取りに来た」

「不幸を、引き取る?」

「うん」

 わけの分からない説明に眉根を寄せる。

 男は魚を一匹平らげてから続けた。

「その魔法、恐らく魔族の中でも最上位の悪魔がかけた魔法だろう。なぜ君がそんな身に余る不幸を背負っているかは知らんが、とにかく俺はそういう類の『不幸』を引き取る仕事……みたいなことをしているんだよ」

「誰にこんな魔法をかけられたかなんて、覚えていないわ。気がついたらこうなってた」

「そうか」

「気がついたら、家族はもう灰になってた」

「そうか」

 少し声音の低い返事に、思わず苦笑した。何で、誰のために笑ったのか、自分が一番分からなかった。

「よく分からないけれど、あなたが私にかかったこれを引き取ってくれるってことかしら」

「そうだ」

「夢みたいな話ね。やってみせてよ、やれるものなら」

 男の言葉を真に受けていなかった私は、夜空の星を見上げながら唾を吐くようにして呟いた。

 男はすっと立ち上がる。

 そして、右目を隠していた包帯を片手で解いた。

「っ」

 瞬間、全身から力が抜ける。

 まだ覚醒できていない朝のような、ぐったりとした力の入らない感覚が支配してくる。

 え、と驚いて男を見る。

 その時だった。もう包帯を巻き直しつつあったのだが、一瞬だけ、その右目を確かに私は見た。

 それは目であって、目じゃない。

 目だけれども、目自体に何か『命』を感じた。

「ん。確かに。じゃあな」

「わ」

 私の頭をくしゃくしゃと撫で回してきた男は、そのまま踵を返すと闇の中に消えていく。

 待って。

 え、なんで。なんで私に触れて平気なのか。

「え、は」

 奇妙な声を上げて、全身をペタペタと触る。茂みに咲いていた青い花を見つけると、全力で駆け寄ってそっとガラスでも手に取るようにして触れてみる。

 灰にならない。

 死なない。

 生きているものを灰に変える身体だったはずだ。

 それなのに、どうして。

「待って!!」

 考える暇はなかった。

 男の消えた方向に走り出す。会ってなにをしようと言うのか。そんなことは分からないまま、あの人間のもとへ向かう。



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