満員電車にて
「くっせえんだよ!」
若者が、切れた。
静寂な満員電車にぴりぴりした空気が流れた。
「臭えだろ!」
他に誰一人話すものはいない。
若者が一人で切れている。
春、上京してきた田舎の若者が満員電車でおかしくなってしまったのだろうか。
「臭いです・・・」
だんだん声が小さくなってきた。
若者の隣では化粧の濃いOLが香水を振りかけていた。
「お願いします・・・」
逆の隣ではおじいさんがごはんに納豆をかけておいしそうに食べていた。
「うっ・・・」
ついに若者は泣き始めてしまった。
故郷に帰りたくなったのだろうか。
若者の目の前では白いタンクトップのむきむきの男がつり革で懸垂をしている。
もくもくと汗臭く懸垂している。むんむんとした白い湯気が上がっている。
「うわぁー-ん」
次の駅で若者は降りて行った。
私は筋肉マンをすり抜けて席に座った。
あー確かにくさい。
でもこれで座って会社まで行ける。
これがトウキョウ2050だ。