血塗れた聖堂と目覚めた少女
まず最初に自分の事について確認をしよう。
私は修学旅行に来ている途中でバスの窓から落っこちて死んだ。
名前は……、性別は女で職業は言わずもがな学生。年齢は確か17歳だったと思う。
おいおい、もう忘れてきてるしじゃん。
弱ったなぁ私
他には………ダメだこりゃ、全然思い出せない。
自分が自分だってことは分かるんだけど...
ま、分からないことを嘆いても仕方ないよね。次次
さて、体のどこもなんともないし、恐らく私は異世界転生と言うやつを果たしてしまったのだがこの状況はなんなのだろうか。
横になっている?
そして暗いな、周りが全く見えん。
手足ははっきりしてるし顔もしっかりあるのは感覚的に分かるから転生と言っても子供から始まるようなものではないし、かと言って卵でもない。
本当に四角いただの箱と言った感じ。
「あれ?、これ開くのかも」
どうやら私の入ってる箱は上が開くようになっているらしい。顔で押してみると少しだけ光が入る。にしても重いなこれ、今の体勢じゃびくともしないぞー
…本当に何も出来ない。私は転生してそうそうよく分からん箱の中で詰んでしまったようだ…。
「だァァァァァァァァあぁああああ、誰か開けてくれーーーーー」
願いも虚しく、私の叫びは虚空に消えて行った。ああ、私の異世界ライフよさらば。
...
...
...
あれから多分3日間くらい、私は何も出来なかった。
お腹減った
ご飯食べたい!
無性に腹が減ってイライラする
マジで死ぬよこれ、いやマジで
おーい、かみー、異世界転生ならチートとか魔法とかあんだろー
チッ、なんで死にそうなのに何も起きないんだよ。
ステータスオープンって言ったら何かがブォンってなって何かが出てくるくらいにはゲームっぽくなってもいいんだよ?
それくらいの楽チンさがないと転生者なんてすぐ死んじゃうんだから。
あーもう頭来た、もしここから出られたらこの世界ぶっ壊しちゃうもんね。人類?平和?勇者?知ったこっちゃねえや
転生したら棺桶の中で餓死して死にましたってそれ冗談じゃ済まされねえから。
…あれ?ステータスオープンとか言ったっけ。そういえば試して無かったな、てへぺろ(´>ω∂`)
もしこれで出てきたら今回の事は水に流してやろう
ステータスオープン!
…何も出ないじゃない!!
...
...
...
更に3日が経った
はい、プッチーンもう許しません、というかこれ以上脳内の独り言が持ちません。誰かタスケテ
.......
そこからまた1日経った。
さすがに耐えきれ無かった。
ただ何も無い真っ暗な箱の中で1人で過ごすなんて。
正直7日よりきっともっともっと長くここにいると思う。
それこそ精神がどうにかなるくらい。
途中から思考もおかしくなってたし、ああ、もうどうでもいいって
…本当は私、ちょっとだけ異世界転生に期待してた
普通に産まれて、普通に愛されて育って、普通に友達を作って、普通に結婚して、そして子供たちに見守られて死ぬ
そんな普通が私は許せなかった、まるでプログラムされたみたいに進んでく時間とあの世界、違う容姿で違う性格のくせしてみんなは同じなんだとか言っちゃってるあの世界。
そして、それが事実だと理解してしまう自分が許せなかった。私は私。絶対にそれは揺るがないはずなのに結局自分も誰かと一緒でそれがどうしようもなくつまらなかった。
量子論とか二重スリット実験とか、ラプラスの悪魔とか不確定性原理とか、シュレディンガーの猫とかコペンハーゲン解釈とかどれも興味をそそられたけど結局それが正しいとか間違ってるとか関係なく私の人生はつまらなくて…もうどうでもいいやって思い始めた時には友達なんか居なくなってた。
そして転生してまたつまらない世界に来た。
だから私は死ぬ事にした。このイコール粗大ゴミの体でも舌は噛める。異世界転生があった、それだけ本心でワクワクできたし嬉しかった。ああ、願わくばもう一度転生出来ますように。そして非日常を、真のリアリズムを、生きるということそのものを知ることが出来ますように。
さらば異世界、最後に一言。お前が転生の余韻だけを楽しめと言わなければ私はここで生きたかもしれんのだよ。しっかりと反省してくれ、、、
そして私は舌を噛んだ
結論から言うと私は死ななかった。痛くもなかった。
私はさらに絶望した。
もはや死ぬことも許されないらしい、そして舌が無いのでその絶望をのたまう事も出来ないときた。
地獄か?ここは。いや、元から異世界ではなく地獄だったということなのか。
……ふ、ざ、け、る、な!!!
「クソ野郎がああああああああぁぁぁ!!」
そして私は怒りのあまり発狂し??
顔をあげた??
ついでに棺桶の上蓋を吹っ飛ばした?????
「………うぇ?」
一体何が起こったんだ!ってなんだこの愛らしい声は!!
そして私は考えるのをやめた。
私の思考を呼び戻したのは美しいステンドガラスから差し入る陽光と血の匂いであった。
なぜ私が舌を噛んだのに喋れたのかとか、なぜ棺桶から出ることが出来たのかとかどうして声が可愛いのかは一旦左の方に置いといて現状の生理をしよう。…整理だ、間違えた。
さてここはどこかの協会らしく、周りにはガラスで描かれた、いかにもな絵が見える。そして乱雑に放られた椅子や、40ほどの死体があり、何らかの抗争があったと思わせる雰囲気だ。4体が騎士のような格好で残りが白と赤のシスター服の格好の死体。大方宗教と国の対立だろう。シスター服の方は何となく私を中心に円になるように死んでいて、祈りを捧げるように手を握っている。
ピチャン…ピチャン
…私の上には女の死体が吊るされて滴る血で棺桶の周りに血の池を作っている。長耳?エルフさんかな。さっき整理を間違えたのはこのせい。
恐る恐る血の池に顔を近づけるとそこにはゴスロリ衣装の美しい少女がいた。間違いなく前世の私ではない、何故ならばめちゃ可愛い。何もしなくても可愛い、笑顔とかマジでくそかわいい。これが自分しゃなかったら可愛さで昇天してしまうくらいに可愛い。ニコッとかやってみても...犬歯が長い...?いやいやまさかね。それよりも
転生して美少女とか最高すぎーーー...グヘヘヘ
「美味しそう...グヘヘヘ」
!?ちょっと待て誤解しないで欲しい。
消して私は性的に美味しそうという意味"だけ"で言った訳では無い。
食の方の美味しそうとのダブルミーニングです。やるじゃん私ーおっもしろーい
ということで...
私はヴァンパイアの少女に転生してしまったようです。ヤッタ