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精霊術師の称号を!  作者: 綾呑
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二十九話 秘密

 あれは十二年前、アリスティアがまだ四歳で、皇子が皇太子となってから一年が経ったとき。


 皇城の庭園で、十歳になったランハートと精霊術師のシルビア、次代の精霊術師であるアリスティアの三人は茶会をしていた。


「それには、毒が入っています」


 その日は、ランハートからカップを奪うようなまねはしなかった。


「――」


 でも、祖母が勢いよく席を立って、アリスティアの前まで来て肩を強く掴まれた。


「どうして、そう思うの?」

「だっておばあさま、みんなが危ないって教えてくれたのよ」


 ちかちかと光る輝きが、そう教えてくれたのだ。


「教えてくれてありがとう、アリス」


 呆けたような祖母はすぐに笑顔を作り、肩から手を離した。


「殿下、お話が」

「ど、毒が入っているなどありえません」


 割って入ったのは、ランハートの侍女になったばかりの、十六歳前後の少女だ。


 よせばいいものを。侍女はアリスティアを一瞥してから、カップの中身を飲んでしまった。


 そしてカップから唇を離した侍女は、ほっとしたように息をつく。


 直後、苦しそうなうめき声を上げて、血を吐いた。白いテーブルクロスや芝生を、びしゃびしゃと赤く濡らしていく。


「っ……」


 アリスティアは祖母に抱きしめられ、頭に回された腕で耳を塞がれた。視界と聴覚を奪われたアリスティアに残された嗅覚が、嗅いだことのないつんとした臭いを拾う。


「給仕を担当したものを全員拘束しろ」


 凛としたランハートの声が、祖母の手の向こうから聞こえてきた。顔を上げると、目のあった祖母に微笑まれる。


 気づいたときには、この場には祖母とランハート、数人の騎士しかいなくなっていた。しかしその数人も、ランハートによって遠くへ行かされた。


「おばあさま?」

「いい? アリス。今日のことは、誰にも言ってはいけないわ」

「どうして?」

「ちかちかって、点滅する輝きを見たのよね? それは……あなたが見たのは、準精霊よ」


 アリスティアは首を傾げる。


「どうして、言ってはいけないの? 準精霊は、悪いもの?」

「いいえ、いつかあなたの助けになってくれる大切な存在よ。でもあなたはまだ幼い。あなたが危険な目に合わないよう、精霊と契約するまでそのことを喋ってはいけないの」

「お母さまとお父さまにも?」

「お母さまとお父さまにもよ。これは私とあなた、ランハート殿下と三人の約束。守れるかしら?」


 きょとんとしていたアリスティアの顔に笑顔が咲く。


「守れるわ!」

「いい子ね」


 もう一度、祖母にきつく抱きしめられる。


「ここで起きたことは全て、忘れるのよ」


 その瞬間、とてつもない眠気に襲われ、そのまま眠ってしまったのだ。


「アリスティア令嬢!」


 強い呼びかけに、アリスティアははっと我に返る。


「毒が入っているとは、どういうことですの? それはつまり、殿下が……」

「い、え……これは」

「それについてはあとだ。まずは即刻、給仕を担当したものを拘束せよ。疑いがあるものは誰一人として、絶対に逃がすな。それから、今回の毒殺未遂についてはかん口令を敷く。他言したものにも罰を与える」


 指示を出したランハートと目が合う。


「アリス、それを渡してくれるかな? ああ、安心して。もう飲もうとも思わないからね。零さないでいてくれてありがとう」


 そこでようやく、アリスティアは自分がカップを抱えるようにして持ち続けていたことを思い出した。


 近くに来た騎士に手渡したところで、ランハートに優しく微笑まれる。


「シルビアさまとアリスとの、約束だからね」

「でん――」

「エミール、アリス。ひとまず移動しよう。すでに二人の侍女と騎士は呼んできてもらうように頼んであるから」


 ランハートの言う通り、エミールの侍従たちはすぐにやってきた。なにか言いたげな様子だったが、皇太子相手に詰め寄ることもできない。エミールは歯がゆそうに侍女たちに連れられていった。


「確認をしたいのだけれど、その前に。アリスが僕にどうしても聞きたいことを聞こうか?」

「……殿下がなぜ、私を命の恩人とおっしゃるのかわかりませんでした。ですが私は以前にも、このような場面があったことを思い出しました」

「君が全てを忘れていたのは、シルビアさまの判断だ。以前と同じような体験をしたために、思い出してしまったようだね」

「長年の答えがわかって、すっきりしました」


 こくりと頷いたランハートは「では、次は僕の番だね」と主導権を手元に戻した。


「僕ではなく、エミールが狙われたということでいいんだよね?」

「私のカップとエミール令嬢が手にしていたカップには反応していませんでした。毒を入れるタイミングは、あの場でしかないでしょう。あのとき、あの場にいたのは」

「あの若いメイドだね」

「ポットを落とすことによって、私たちの視線は一点に注がれました」

「すぐに捕らえなくては」


 だがそれからいくら時間が経とうと皇城内で見つかることはなく、ようやく見つかったメイドはあれから三日後、近くの川に浮いているところを発見された。

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