表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊術師の称号を!  作者: 綾呑
24/34

二十三話 謝罪

 それから数日後、アリスティアとフィリアはシルビアと別れを告げた。


 公爵家につくまでに馬車は一日と数時間を要し、けれど考えごとをするには十分な時間である。


 シルビアとの密会の翌日、早朝からフィリアはシルビアと揉めていたそうだ。最終的にどのような決着がついたのかはわからないが、フィリアが部屋に閉じこもったということで、フィリアにとってよい結果は得られなかったのだと確信した。


「お嬢さま!」


 公爵家につき、馬車から降りるなりマリアンが駆け寄ってくる。


「ただいま」

「おかえりなさいませ! お嬢さまとの再会を心待ちにしておりました」


 うなじあたりでちょこんと結ばれている黒髪が、マリアンの感情の起伏を表すように跳ねている。


「マリアンは髪が伸びたかしら?」

「はい!」


 一週間で劇的に伸びるわけもなく、元々結べる長さだったろうが、マリアンはにこやかに首を縦に振った。


「お嬢さまがご不在の間に皇太子殿下と公爵さまから手紙が届いております」

「すぐに確認するわ」


 荷物を任せ、自室に戻る。アイザックは公務でしばらく留守にするそうで、代わりに手紙を書いてくれたそうだ。


 まずは皇太子からの手紙に目を通すことにした。


 手紙を読んでいると、マリアンがお茶を用意してくれた。


 こうしてゆっくりとお茶を飲むのは一日ぶりで、温かなお茶は体に染みわたる。


「一週間後に殿下がお茶会を開くそうよ。エミール令嬢も参加するそうだから、安心だわ」


 ランハートの婚約者であるエミールも参加するとなれば、変な噂が流れることはないだろう。


「新しいドレスを用意しなくてはなりませんね」


 マリアンの表情が華やぐ。


「殿下がいるから、新調したほうがいいかしら?」

「そうですよ!」

「そ、そう?」


 力強い肯定に押されながら、アリスティアは予定に組み込んだ。


 続いて、アイザックからの手紙を読む。しばらく家を留守にすることと、以前、アリスティアがお願いしたことに関して書かれていた。


 そうして翌日、アリスティアはリーファスを連れて街に向かった。マリアンも来ていたがっていたが、帰りを待つように頼んだ。


 まず向かう場所は服飾店。リーファスは緊張した面持ちでアリスティアの後ろについていた。そわそわした様子で店内を見回してもいる。


「リガーレ公女さま。お待ちしておりました」


 店員のきらびやかなドレスに満面の笑顔に眩しさを覚える。


「ドレスを新調しようと思っているのだけど、流行のものはあるかしら」

「もちろんでございます。どうぞ、おかけになってお待ちください」

「リーファスも座っていいのよ」

「いえ。立っているほうが楽ですので」


 定位置につくリーファスの背後に、アリスティアは見覚えのある人物が入店するのが見えた。それは向こうも同じで、こちらに気づいたようだ。


「こんにちは、アリスティア令嬢」

「ジェイド令嬢。お変わりありませんか?」


 以前、エミールのサロンに参加していたジェイド・ランカスター伯爵令嬢だ。


 黒い髪に黒い瞳は蠱惑的な雰囲気がある。油断していたら吸い込まれてしまいそうなほどだ。


「こんなところでアリスティア令嬢にできるなんて思ってもいませんでした。もしよかったら同席させていただいても構いませんか?」

「ええ、もちろん」


 ジェイドは斜め向かいに座り、にこりと笑った。


「フィリア令嬢は社交界に参加しないのでしょうか? 大々的に次代の精霊術師と名乗りを上げたのに、公的な場に姿を現しませんから。みな、気になっているようです」

「フィリア令嬢の後見人はケドリック侯爵ですから。必要なら、侯爵が便宜を図るでしょう」

「そういうものですか。たしかに、公爵家にとっては受け入れ難い存在ではありましょう。特に、アリスティア令嬢は」

「なにが言いたいのでしょうか」


 ジェイドは顔色を変えず、紅茶を口に含んだ。


「いえ。ぽっと出の人間には、苦労させられますわ」


 お互い、とつきそうな台詞だ。


「ジェイド令嬢はいかがですか? この間、エミール令嬢の服を汚してしまったではありませんか」

「謝罪は済んでいますわ。アリスティア令嬢とライラ令嬢には申し訳ないことをしてしまいました」

「それこそ謝罪はいりません。わざと零したわけでもないでしょう?」

「そう言ってもらえたら嬉しいですわね」


 空気が一段、冷えた気がした。


「公女さま。お待たせいたしました」


 静寂が広がったとき、店員が戻ってきた。


 飄々としているジェイドに別れを告げ、奥の部屋へと向かう。リーファスは奥までついていくか迷っていたが、あの場に一人残されることも酷だと察したのだろう。


 浮足立ちながらもついてきた。


 それから、何着かアリスティアはドレスの試着をする。どれがいいかリーファスに尋ねても答えは必ず、「とても似合っています」だった。


 マリアンを連れてきていたとしても、同じことになっていただろう。嬉しいが、もう少し差をつけてほしいものだ。


 結局、店員の熱量でドレスを決めることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ