表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊術師の称号を!  作者: 綾呑
1/34

プロローグ 掠め取られた栄光

 アリスティアの頬に冷や汗が伝う。


 皇城の大広間。貴族たちが見守る中心に、彼女がいた。


 彼女へ熱心に好奇の視線を注いでいた貴族たちの目が、ちらり、ちらりとアリスティアに向く。それだけならまだしも、ひそひそとなにかを囁くものたちもいた。


「これは……」

「勝負はフィリアさまの勝ちということでよろしいでしょうか」


 金色の髪が彼女――フィリアの周囲を取り巻く風にふわりとなびく。その黄金を溶かしたような瞳に、風を発生させている小さな存在が映っている。


「私が……フィリア・リガーレがあなたと契約したのよね?」


 喜びと興奮が混ざった問いかけに、貴族たちは口を閉ざす。今か今かと、小さな存在が答えるのを待つ。


 それは人間の頭ほどの大きさしかない体躯、けれど人の形をしている。緑色の服を身にまとい、光る粉を散らす透き通った羽を持っていた。


 円らな瞳を細め、嬉しそうな顔をフィリアに向けている。


「ええ、そうよ」


 鈴を転がしたような答えが大広間に響いた。小さな存在がたしかに答えたのだ。


 見守っていた貴族たちから、わっと歓声が上がる。フィリアを褒め称え、勝負の決着を労いの言葉をかけるものまでいた。


「なんて美しい存在だ」

「精霊さま、ばんざい! フィリア令嬢、ばんざい!」

「精霊さま。どうかご加護を!」


 取り囲む群衆の中から、アリスティアを見やったフィリアと視線がぶつかる。にいっ、と口元を歪めたフィリアにアリスティアはかっとなる。


 自慢げに目を細め、それが披露する自然的な力を見せびらかすフィリアの態度に、アリスティアは頭に血が上るような感覚を覚えた。ぎゅ、と拳を握る手に力が入る。


 本来、あの場にいたはずだったのはアリスティアだ。有無を言うことも許されず勝負の舞台に祭り上げられ、挙句の果てには掠め取られてしまった。


 本当なら、どんな綻びを見つけてでも不当であることを主張したい。


 しかし、アリスティアは荒れそうになる呼吸を整える。反対側の正面に、衝撃を受けたように顔を強張らせた父の顔を見つけたから。


 目が合うと、アリスティアは安心させるように笑いかけた。


「みなのもの、静かに」


 玉座から大広間を見下ろしていた皇帝が片手を掲げる。


 瞬く間にしんとした静寂に包まれた大広間に、芯の通った声が響き渡った。


「フィリア令嬢」

「はい、陛下」


 フィリアは向き直り、ドレスの裾を持ち上げて恭しく一礼する。


「そなたは精霊と契約し、我々の前で召喚してみせた」


 ごくり、と誰かが喉を鳴らした。


「代々、リガーレの血を引く女性のみが持って生まれるとされる精霊術師の素質。公爵家を継ぐに足る資格を、そなたはたった今証明してみせた」


 再度、歓声が上がった。


 それに応えるように小さな存在がフィリアの周りをくるくると飛び、風を起こす。


 アリスティアはぎり、と歯を食いしばる。どくどくと脈打つ心臓の前に手を持ってきて、アリスティアはなんとか落ち着かせようとした。


「よって、公爵家の後継、加えて次代の精霊術師の称号は、フィリア・リガーレのものとする――!」


 フィリアの勝利を、アリスティアの敗北を。


 皇帝の宣言が、大広間にこだました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ