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マネーファイト・¥トリーにゃ

マドカのVR世界でのアバターはこちらです(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=126924

 エンドラゴン(こんな)のと四六時中生活するなんて嫌すぎる。

 そう思って泣き崩れていると、ピコンという電子音が鳴った。


『100円の声¥札(せいえんさつ)が投げられました』


「はにゃ? 声¥札(せいえんさつ)ってなんのこっちゃにゃす」


 黒い空間で聞いたのと同じアナウンスの人だ。

 ということは、システム音声的なものなのかな。


 それにしても声援(せいえん)と言っていた。

 つまり誰かがアタシを励ましてるのだろうか。


『それは現実(むこう)からこの世界(Yen)に送金するための手段だガネ。 ありていに言えば投げ銭(なげせん)ってところカネ』


 投げ銭、路上パフォーマンスに投げ入れる小銭のことだったかな。


 そういえば、黒服が去り際に言い残していた気がする。

 配信していれば金を得られることがあると。


 顔を上げると、空中に浮かぶ丸い一眼カメラと目が合った。


 このレンズの向こうで、アタシを見ている誰かがいるってことになる。


『ゼニャハハ!! だが今回は、あまりの情けなさで同情の金が投げられたんだガネ! しかもこんなケチくさいハシタ金、みっともないと思わないカネ?』


「うるせいにゃ! いったい誰のせいだと思ってるにゃす!! ハシタ金でも金は金、アタシのモンにゃ!!」


 このクソトカゲの言う通り、確かに小学生の小遣い未満の少額。


 しかしそれを認めてしまったら、余計に自分がみじめになるだけだ。


『ニャハ! よく言ったガネ! そう、金に貴賎なしだガネ。 恥ずかしい思いをしようが、稼ぐためなら手段は択ばず、それをよぉく肝に銘じておくガネ』


「お前に褒められたって、全然嬉しくニャいわい!」


 どうも、落ち込んでいたアタシにハッパをかけたつもりらしい。

 コミュニケーション下手くそか。


 このおっさんみたいな良い事言いました感が、学校の校長みたいでムカツク。


 そういえば、突然いなくなって皆心配していないだろうか。


『さてさて大切なことは教えたガネェ、実践できなくてはオハナシにならないガネ。 さっきの投げ銭、声¥札(せいえんさつ)をもっと効率的に集めるためにも、戦闘をしてみるガネ』


「戦闘!? 無理無理無理無理!! 絶対無理にゃ! 可愛い女の子に何やらせようとしてるにゃす、このクソトカゲは!?」


 体育の授業の成績こそ悪くは無いが、喧嘩の経験なんてあるわけない。

 ごく普通の一般女子だ。


 そんな子に腕っぷしを求められても困るのである。


『ハァ~……ヤレヤレだガネ。 あの時、契約前にオレ様が言った言葉をもう忘れたガネ? お前は、この世界でほぼ最強のオレ様の力を手に入れたんじゃなかったカネ』


「そういえば……そんニャこともあったようにゃ……?」


 夢の中のような微睡(まどろ)み状態で、正直意識が覚醒していたわけではない。

 細かいところまでは記憶が怪しかった。


 今更になってみると、そんな寝ぼけたヤツに契約させるなんて、やっぱりズルじゃないか!


『都合よくここはチュートリアルステージだガネ。 まぁ(うるさ)いからオレ様がスキップしておいたガネェ、しかし今回だけの出血大サービスで闘い方をレクチャーしてやるから安心するといいガネ』


「なにサラっと余計なことしてるんにゃ!? マッチポンプで恩の押し売りしてんじゃねぇにゃす!!」


 勝手にチュートリアルをスキップしたと?

 メニュー画面の開き方すら分からないのはコイツが元凶だったらしい。


 本当に要らないことばかりする疫病神だ。

 とっとと切り離して自由になりたい。


『ゼニャハハ!! まぁ細かいことは置いておくガネ。 ほれ、早速ザコのお出ましだガネ』


 左腕の上で笑い転げるクソトカゲが、尻尾の先を前方へと向ける。

 コイツ、完全にアタシで遊んでやがる。


「なんにゃ、アレ……? 貯金豚にゃす?」


 データのようなものが集積して形に成ると、現れたのはピンク色の陶器の豚。


 雑貨店などに行けばだいたい置いてあるようなアレだ。

 ご丁寧に、背中にはコインを入れる穴まである。


『あれはスカンピッグというモンスターだガネ。 文字通り、素寒貧(すかんぴん)ですきっ腹な豚ってところカネェ。 ともかく金の臭いには敏感で、お前の100円を喰いに襲って来るガネ』


 モンスター……そういえばここはゲームの世界だった。

 まともじゃない生物がいて当たり前なのか。


 あまりにも非現実的な光景に面食らっていたが、豚がこちらへ向かって走り出したことで正気に返る。


「フギャ!! ちょ、本当に襲って来たにゃ!? クソトカゲ、早く戦闘方法を教えやがれにゃ!!」


 このままでは恥を忍んでまでして手に入れた、大切な100円が喰われてしまう。


 明日の生活費もままならないのに、こんなところで奪われてたまるものか!


『ゼニャハハ!! そう焦らずとも、まずはオレ様の入っていたこの端末を取り出すガネ』


 クソトカゲはそれだけ言い残すと、携帯端末の液晶へと潜り込んでしまった。


「こ、こうかにゃ!?」


 左腕の籠手にハマっている端末は、引き抜くようにスライドすると簡単に取り外せた。


 しかし、こんなことをしている間にも、あの豚はもう目前だ。

 避けるのも間に合いそうにない。


『それは(エン)トリーデバイスだガネ。 そしてデバイスをガントレットに再びセットし、こう叫ぶガネ』


 こちらは生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 もう疑問など持たずに操り人形に徹している。


 言われた通りにもう一度ハメ込むと、クソトカゲの声に重ねるように声を張った。


『マネーファイト・(エン)トリーだガネ!!』

「マネーファイト・(エン)トリーにゃ!!」

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